第21話 ギルバート登場

「やあ、久しぶりだね。君がアメリアだろう? 今でも昔の面影がある」


 アメリアが手に持っていたレースをこっそりと後ろに立っていたロージーに渡すと、代わりにストールを渡してくれた。


(流石ロージーだわ)


「ギルバート様ですか? お父様達が不在の今、屋敷の中で何をしておいでなのでしょうか?」


「勿論、アメリアを探していたんだよ。

さっき何か手に持っていなかったかな?」


「いえ、特に大した物は何も」


「こっちに来て見せてもらおうか。

それとも私を自室に招いてくれるのかな?」



「応接室に参りましょう。

ジェームズ、ギルバート様をご案内して頂戴」


「畏まりました。ラッセル伯爵様こちらへどうぞ」


「アメリア、君も一緒に来たまえ」



 アメリアはそのままギルバートについて応接室に向かった。


「後ろ手に持っている物を見せてくれるかい?」


「ギルバート様にお見せするような物ではございません」


「小賢しい女は嫌われる、結婚したらしっかりと躾けてやろう」



 ギルバートが手を出して催促して来るので、アメリアは渋々手を前に出して持っていた物をギルバートに見せた。


 ギルバートは眉間に皺を寄せ、

「それはなんだ?」


「ストールですわ。随分と寒くなってきたのでさっき膝掛けに使っておりましたの」


 ズカズカと歩いてきたギルバートは、アメリアの手からストールをもぎ取り床に叩きつけた。


「さっき持っていたレースはどうした!?」


「持っておりません。今では作っておりませんもの」


 ギルバートが鼻で笑い、

「そんな嘘が通用するとでも? つい先日お前の母親が作品をいくつか売ったのを知ってるんだぞ」


「それでしたら、随分前に作った物が残っていたのでしょう」



「だったら我が家に来て作ってもらおう。

どうせ近々結婚するんだ。順番などどうでもいい」


 ギルバートはアメリアの腕を取り、無理矢理玄関へ引き摺って行こうとした。



「これはどう言う事ですかな。うちの娘から手を離して頂こう」


 ヘンリーがちょうど帰ってきたようで、手にはまだ帽子を持っている。


「「旦那様!」」



「結婚前の花嫁修行に連れて行く。行き遅れの余り物を貰ってやるんだ、感謝してそこに這いつくばっていろ」



「お待ちください。そんな強引にされずとも一緒に参りますから」


「アメリア!」



 ギルバートが疑わしげに目を細めてアメリアを見た。


「随分と旗色が変わったがどう言う魂胆だ?」



「ギルバート様と一緒に参りますと申し上げましたの。手を離して頂けますか?」



 ギルバートがゆっくりと手を離しながら、

「嘘だったらタダじゃ置かないからな」


「女に二言はございませんわ」


「ロージー、荷物は後から持ってきて頂戴。

ではギルバート様、お屋敷に伺う前にお父様と婚約の契約書をお願いいたします。

一度婚約破棄になって、その上婚約前に捨てられては困りますもの」


「・・良いだろう。ランドルフ子爵、先日渡した書類をここへ」



 執事がヘンリーの執務室から契約書を持ってきた。


「アメリア・・」


「お父様契約書を見せて頂けますか?」


「女のお前が見てなんになる?」


「どうぞお気になさらず・・ああ、項目が一つ抜けておりますわ。

書き加えて頂けますでしょうか?」


「何が足りないと?」


「ギルバート様やラッセル伯爵家の為に、レース織りは一切作らないし誰ともレース織りに関する事は話さないと言う項目です。


追加して頂けますかしら」


「馬鹿な、レース織り以外なんの取り柄もない癖に」


 アメリアはポケットから小ぶりのナイフを取り出し、





「ではこの指一本無くしてしまいましょう。二度とレースを織れないように」


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