第20話 図書館で時間潰し

「ごめんなさいね。紹介状は・・」


「いえ、ご無理を申し上げて申し訳ありませんでした」



 キャンベル公爵家で紹介状を断られると思っていなかったアメリアは、馬車に揺られながら呆然としていた。

 紹介状なしでは、碌な就職先は見つけられないだろう。

 スコット公爵は紹介状を書いてくれると言っていたが、今の状況では頼みにくい。


 暫くはレースに専念して、イライジャ達が相手を見つけてから頼みに行く事に決めた。



(今がチャンスですものね。ギルバートさえなんとかできれば次があるわ)



 家にたどり着くと派手な馬車が玄関前に停まっていた。


 嫌な予感がしたアメリアは御者に、

「悪いけどこのまま図書館に行ってくれるかしら」



 図書館でギリギリまで時間を潰し家に帰ると、青い顔をしたレイラが出てきた。


「お母様、何かありましたの?」


「あなたの帰りが遅かったので心配していたのよ」


「申し訳ありません。家に帰ったら知らない馬車が停まっていたので、図書館で時間を潰していましたの」


「派手な馬車だったでしょう? ギルバートの馬車よ」



 アメリアはにっこり笑い、

「予感的中、図書館に行って正解でしたわ」


「確かに、顔を合わせたら益々しつこくなりそうだものね。

キャンベル公爵のところはどうだったの?」


「それが断られてしまいましたの。どこかのお宅で家庭教師に雇って頂けたら良かったのですが」


「そうね、そうなればギルバートも強くは出られなかったんだけど」



「ギルバートは今日はどんな様子でしたの?」


 レイラは言いにくそうに、

「お父様は頭を抱えてらっしゃるわ」


「では、相当強引だったのですね」


「ええ、もうあまり時間はないかも」




 それからのアメリアは自室に閉じこもり、ひたすらレースを編み続けた。

 ギルバートが来た時は居留守を使い、最悪の時には屋根裏部屋に閉じこもっている。


 両親が外出中にギルバートがやって来ると使用人では抑えが効かず、我が物顔で家探しをするので自室にはほとんどものを置いていない。



「お嬢様、あんまりこんを詰めすぎっと身体壊してしまうですよ。時々はお休みせんと」


「ありがとう、もう少しでこれも完成するの。これが出来上がったら新しい図案を考えるから、少し休憩になるわ」


「そりゃ休憩言いませんです。休憩いうんはのんびりする事ですけん」



「じゃあ、ロージー特製のあのお茶でも楽しむ事にするわ」


「お嬢様、あの苦いのは休憩用じゃのうて目覚まし用にしかならんです」


 アメリアはレースを編む手を止めず笑い出した。


「確かにあれは良く効くわ」



 ノックもなく執事が部屋に飛び込んできた。

「お嬢様、屋根裏部屋へお願いします」



 作りかけのレースを抱えて部屋を出ようとすると、廊下の端からギルバートが現れた。




「やあ、久しぶりだね。君がアメリアだろう?」


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