第14話 ロージーの手腕

 食事の最後にデザートが並べられた後、オリバーがアメリアに質問してきた。


「アメリアはどうして家庭教師の扮装をしていたんだい?

ソフィーは君を婚約者としてここに招待したはずなんだが」


「何となくと申しますか、その方が適切かと思いまして」



 意外なところから声がかかった。



「アレクシスの噂のせい。人参になるって」


 アメリアが思わず後ろを振り返ると、ロージーは横を向いて声を出さず笑っていた。


(ジョシュア、よりによってこんな時に文章を話さなくても)


 アレクシスが首を傾げ、

「何で俺? しかも人参って?」


「何でもありませんの。本当に何となくですの」


 チラッとジョシュアを見ると、楽しそうな顔をしている。


「そう言えばジョシュアが育てているクリスマスロー「萎れた人参だって。だよねロージー?」」


 アメリアがガックリと肩を落とすと同時に、

「はい、左様でございます。ジョシュア坊っちゃま」


「坊っちゃまはやだって。もう19歳だし」


「いつも言っとるでしょう。その喋り方が治りんさるまでは、ジョシュア様はお子ちゃま言われてもしょうがないって」


「ロージー、お願い止めて」


「これ、楽だし」


「じゃからお子ちゃま言われるんですよ。楽していいのは、なんも知らんお子ちゃまだけですけん」


「直すよ」


「はい、楽しみにしとります」



 ジョシュアとロージーの仲睦まじい会話に、アメリアは青くなりその他の者達は唖然としていた。



 静まりかえった部屋の中にオリバーの咳払いが響いた。


「で、人参というのは?」


「このような場で、皆様にお聞かせするような話ではございませんの。

いずれ折を見て」


「俺が話そうか?」


「ジョシュアが?」


「ロージーが坊っちゃまって言うのをやめてくれるなら」


「わっ私が話します。

ラヴェンナの街に着いた時偶然噂話を耳にしまして、アレクシスはその・・広い交友関係をお持ちだとか。

それで誤解を招かないように家庭教師の格好を致しましたの。

その時の説明を人参に例えた物ですから」


「貴族って凄い。上手に話を纏めるんだ」


「ジョシュア、お願い。この話はもうやめましょう」


「ロージーって言ったかしら? あなたに聞くのが一番早くて確実そうなんだけど?」


「ソフィー様、ロージーは侍女でございます。このような場所で会話するのは如何なものかと。

後ほどお時間を頂ければ、ご説明に上がらせていただきます」


「ロージー、どうかしら?」


「私は構わんですが、お嬢様を困らせるのはあんまりよーないと思いますんで。

ただ内容がお嬢様の口からは言いにくかろうと思いますんで、あんまり聞かんといて貰えたら」



「アメリア次第ってこと? 俺すっごく聞きたいんだけど、ロージーに聞いてもいいかな?」



 アメリア、万事休す。


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