第12話 礼儀正しいイライジャ
久しぶりの領主の帰還に、館の中は大騒ぎになっている。
庭師は玄関や応接室、居間の花を摘んできた。メイド達は家中のチェックに雑巾とモップを持って走り回っている。
料理番は夜の特別メニューの為の香辛料をもらおうと、家政婦長を探し回っている。
全ての準備が終わり、使用人達はいそいそと玄関に整列した。
アメリアは列の最後尾に並んでいたが、イライジャに腕を引かれて一番前に連れて行かれた。
スコット公爵夫妻が馬車から降りて来て、
「おかえりなさい。父上、母上」
イライジャの言葉にスコット公爵夫妻が固まった。
「・・
平静を取り戻したオリバーが柔かに、
「ただ今、イライジャ。全て変わりないかい?」
「変化は多々ありますが、問題は起こっていません」
ソフィーはまだ現実が受け止めきれず、
「イライジャ、お腹でも痛いの?」
イライジャは苦笑いしながら、
「うちに怖い家庭教師を送り込んだのは母上でしょう? 彼女は礼節に煩くて。
しかもしつこい」
3人が一斉に、イライジャの後ろに控えていたアメリアを見た。アメリアの髪型と服装を見たスコット公爵夫妻は、
「「本当に家庭教師だ(わ)」」
「婚約者候補が何故家庭教師の格好を?」
「母上、長話は部屋に入ってからにしませんか?」
「そっそうね。みんな出迎えありがとう」
スコット公爵夫妻が並んでソファに座り、イライジャとアメリアはアームチェアに座った。
メイドが紅茶と糖菓を並べ下がって行った。
「アレクシスは今、領民からの相談を受けてサラエナ河に行っています。多分もう暫くしたら帰ってくると思います」
「ほう、アレクシスが仕事を? アメリアは我が家に魔法をかけたらしい」
「アメリア、ありがとう。なんてお礼を言ったらいいのかしら」
「皆様とても素晴らしい方ばかりでございました。私の力など」
「でもね、アメリアはどうしてそんな格好をしているの?」
「家庭教師に相応しい格好だと思いますが、お気に召しませんでしたでしょうか?」
「えーっと、アメリアは婚約者候補としてここに来てもらったはずなんだけど?」
「はい、建前上はそうなっております。
なので、普通の家庭教師に比べますと随分と自由気ままにさせて頂いております」
首を傾げて話を聞いていたオリバーは、
「イライジャ、執務室で領地の話を聞かせてもらおうかな」
オリバーとイライジャは執務室に、ソフィーは自室に戻って行った。
暇になったアメリアも部屋に戻りレースを編み始めた。
暫くしてソフィーがやってきた。
「アメリア、全部話してちょうだい。一体何がどうなってるの?」
アメリアは、最初の一ヶ月息子達の誰ともほとんど会えなかったことから話し始めた。
運良く全員で話をする機会を得てから、マナーのおさらいをして今に至ったこと。
「ジョシュアと会ったのね。元気にしてた? もう10年も話してないの。
あの子が庭で花壇の手入れをしているのを遠くから見るだけで、近くに行くと逃げちゃうの」
「はい、とても元気にしておられます。初めてお会いした時お二方の様子を一番に聞いてこられて、会えていない事を寂しく思っておられました」
目を潤ませてジョシュアの話を聞いていたソフィーが宣言した。
「次はあなたの番ね」
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