第11話 美しい花
あれから五ヶ月、朝晩少し肌寒い季節になってきた。
庭には、白やピンクのダイヤモンドリリーが咲き誇り、黄色いウインターコスモスが小さな花をつけている。
アレクシスは夜更かしが少しばかり減ったせいでイライジャから、
「暇なら手伝え」
と言われ、領民の相談役や領地の見回りをやらされている。
弟が仕事を手伝うようになったのが嬉しいイライジャは、以前に比べ格段に穏やかになった。
最近はノックの後、返事を待ってからドアを開けるようになったし。
(この様子なら二人とも、春まで待たなくても良い縁談に恵まれそう)
自分が婚約者候補だと言うことはすっかり忘れているアメリアは、成長した子供を見る母のような気持ちになっている。
公爵家に来たばかりの頃には種を植えたばかりだったクリスマスローズも、緑の葉と茎を伸ばし来年の開花時期に向けてスクスクと成長している。
「毒がある」
「学名ヘレボルス、毒があるのに聖母マリアに捧げられたと言う不思議な花ですね」
五ヶ月間の特訓の間に、ジョシュアは単語より少しばかり長い文章を喋るようになった。
「トリカブト・ジギタリス・イヌサフラン・ダチュラ・ナルキッソス。この辺りは毒性のある花ばかりですね」
「・・昔飲まされたから」
「それで毒の研究を?」
ジョシュアが目を見開き、
「知ってた?」
「一箇所に集まっているので、そうかな? と思っておりました」
「怖い?」
アメリアは首を振る。
「いいえ、怖いのは毒ではなくてそれを悪用しようとする人ですわ」
「・・アレクシスは、騙されて後悔してる」
「騙されてジョシュアに毒を渡したとか?」
「そう」
「家族を利用するなんて最低!」
下を向いて黙々と花の手入れをしているジョシュアを見ながら、この兄弟の歪な関係の原因が漸く分かった気がした。
毒を飲まされ引き篭ったジョシュア。騙されたとは言え、弟を傷つけた事でより傷ついているアレクシス。
見た目と違い優しいイライジャは、二人の庇護者だろう。
あの優しかったスコット公爵夫妻が、息子たちの為に何もしなかったとは考えられない。
公爵夫妻が社交界に殆ど顔を出さないことは有名だから、ジョシュアが引き篭もりアレクシスがご乱行を続けている間、領主館でイライジャと共に二人を見守っていたのかも。
(では、私の立ち位置は?)
アメリアは、自分はただの家庭教師で良いのだろうかと悩み始めた。
花壇の手入れを終えて、二人揃って館に戻った。
屋敷に入った途端執事が急足でやって来た。
「旦那様と奥様がもう直ぐお戻りです。ラヴェンナの城門から知らせが参りました」
ジョシュアが無言で駆け出し、部屋に逃げ込んだ。
(巣穴に逃げ込む小動物みたいだわ。結構可愛い)
アメリアが、走り去るジョシュアの後ろ姿を眺めていると、
「お嬢様が、なんか失礼な事考えとらっしゃる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます