第8話 ジョシュア現る
アメリア達がスコット公爵の領主館に来てから一ヶ月近く経ったが、イライジャともアレクシスとも殆ど会話できていない。
「困ったことになったわ。会話どころか、お顔を見たのも手の指で数えられるくらいだもの」
「はい、お陰でお嬢様のレースは着々と仕上がっておいでですね」
二人は今、気分転換を兼ねて庭を散策している。
「今月のお給料はいりませんってソフィー様にご連絡しなくちゃ。
このままじゃ申し訳ないわ」
「仕事?」(で来たのですか?)
突然後ろから声をかけられて、アメリアは慌てて後ろを振り返った。
「初めまして、もしかしてジョシュア様でいらっしゃいますか?
アメリア・ランドルフと申します」
警戒しているのか、ジョシュアは少し離れた場所から動かない。
「?」(なんで分かったのですか?)
「スコット公爵様に一番良く似ていらっしゃる様に思いましたの」
「父上と母上」(は、元気にしておられましたか?)
「最後にお会いしたのは一ヶ月以上前でしたが、その時はお元気でいらっしゃいましたわ」
ジョシュアは少し俯き、
「10年」(近く会っていません)
「公爵様とお会いしたのは一度だけですが、優しいふわっとした笑い方がソックリですわ」
「ふわっと?」(笑うって変わった表現ですね)
「私はちょっと変わり者らしいので」
「かなり」(の変わり者みたいですよ)
「評判」(は気にならないんですか?)
「私、所謂傷物ですの。
ですから色んな意味で、皆様にご迷惑をおかけしているだけなんです」
申し訳なさそうな顔のアメリアに、
「帰れば?」(良いのでは?)
「ソフィー様とのお約束を守りたいなぁと」
「給料?」(が欲しいんですか?)
「うーん、確かにそれもあります。でも、お給料を払っても良いと思って頂いたのに、途中で逃げ出すのも嫌なんですよね。
私かなりの負けず嫌いなんです」
ジョシュアが少し笑顔で、
「アレクシス、やっつけた」(じゃないですか)
「まだやり込めてませんわ。作戦を練ってる最中ですもの」
ジョシュアが声を上げて笑い出した。
「背後」(に注意と言っておきます)
「いえ、正面から行きます。そのようにお伝えくださいませ」
「予定」(ありますか?)
アメリアが大きく溜息をついた。
「いいえ、残念ながら暇過ぎて」
「テラス」(でいつもレース編みされてたのに?)
アメリアが目を見開き、
「見ておられたんですか?」
「庭」(にいつもいましたから)
「まあ、ではきっと木や花に同化しておられたんだわ。
ちっとも気づきませんでした」
ジョシュアの大きな笑い声が響き、イライジャとアレクシスが屋敷から飛び出してきた。
「お嬢様、アレで意味が分かっちまったとか、魔女ですか?」
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