第3話 領主館へ

 朝食を済ませたアメリア達は馬車で領主館に向かっていた。


「お嬢様、ほんとにそげな格好で行きなさるんで? 第一印象が大事だといつも言っとらっしゃったに」


「だからこの格好なのよ。

元々ソフィー様が望んでおられたのは、婚約者というより家庭教師だった気がするの。


そう考えたらあの金額にも納得がいったのよね」



 今日のアメリアは、ハニーブロンドの髪を後ろで一つに纏め、襟の詰まった濃いグレーのドレスを着込んでいる。

 キャンベル公爵家でいつも着ていたドレスで、家庭教師以外の何者にも見えない服装だった。



 領主館の正面玄関で馬車を降り、ノッカーを鳴らした。


 ドアを開けた従僕がアメリアを上から下まで眺めた後、

「仕事の求人なら裏口に回ってくれ」


「今日お伺いすると連絡しておりましたアメリア・ランドルフと申します」


 名前を聞いた従僕が慌てて頭を下げ、応接室に案内してくれた。


「申し訳ございません。こちらへお掛けください。ただ今イライジャ様に取り次いでまいります」



 メイドが紅茶と糖菓を運んできたが、いつまで経ってもイライジャはやってこない。


 部屋の隅に待機していた従僕に、

「お庭を散策してもよろしいかしら?」


「はっ、あの出来ればその」


「では、すぐそこのテラスでお待ちしてもよろしいかしら?

折角のお天気ですし」



 アメリアは従僕の返事を待たずにテラスへ出て、ロージーに持たせていた本を取り出して読み始めた。



 お昼近くになり、従僕がソワソワとし始めた。


「何か御用がおありなら、行ってらして構いませんわ。

私はここにおりますので」


「はっ、ではあのイライジャ様の様子を聞いてまいります」


「ありがとう、宜しくお願いしますね」


 アメリアはにっこりと笑い、持っていた本を再び読み始めた。



「お嬢様、こったらこと「ロージー、何も問題はないから大丈夫」」


「念の為本を持ってきて正解だったわ。

読みたいと思いながら中々時間が取れなかったから」



 それから暫くして、メイドがやってきた。


「アメリア様、お部屋の準備ができております。ご案内いたしますので、こちらへどうぞ」



 アメリア達が客間に落ち着き、

「お嬢様、荷物はどげんしますか? このままにしといても良いような」


「いいえ、出してちょうだい。この様子だと次の本も必要かもしれないしね」



 部屋に昼食が運ばれてきたが、テーブルには二人分の料理が並んでいる。


「お嬢様、これは・・」


「良かった。お屋敷に着いたら食事は一人になるのかしらって心配していたの。

さあ、一緒に食べましょう」


「イライジャ様が来られるのでは?」


「まさか。結婚前のレディの部屋に入ってくるとか、それはあり得ないわ」



 二人は向かい合わせの席で食事をしたが、ロージーは落ち着かないようで酷くそわそわしている。


「ロージー、折角のお料理なんだから楽しく食べなくちゃ」


「でもですね、こんなの落ち着かないですって」



 食事が終わる頃、ドンドンと大きな音がした途端いきなりドアが開いた。



 ずかずかと入ってきた大男が、

「お前がアメリア・ランドルフか?」


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