家に帰ると、JK一人のはずのところに何故かJK二人居ました
仕事を終え、帰宅する。
家のドアを開け、玄関へ。
すると、何か声が聞こえた。若い女の子の声だ。それも二人分と思われる。片方は透子のものだった。もう片方は透子の友達だろうか。内容は聞き取れないが、うちもやたらと姦しくなってしまったものだ。
――なんだ、友達、ちゃんといるんじゃないか。いないとか言ってたが、実はいたんだな。
透子にも友達がいるようで俺は安心した。なんだか胸が温かくなりジーンとする。
そして溜め息を吐いた。
溜め息混じりに、透子もうちにまで連れてくるのなら、友達にカウントしてやれよとも思う。
いったい何を話しているのだろう。と気になりつつも、俺はとりあえず、帰ってきたアピールをすることに。
「ただいまー。ああー、つかれたー」
なお、棒読みである。仕事帰りのリーマンの気分を得るための通過儀礼だ。
くったくただよ、って心の声に浮かべながら、ここでネクタイを弄るのがポイントだ。おそらく、その方がリアリティーが出る。
そのまま真っ直ぐ部屋へと向かう。
「透子ちゃん、お友達でも連れてきたのか?」
と部屋を覗き込んだら、
「脱ぎなさい!」
透子が、別の女子高生に服を脱がされかけている現場をみてしまった。透子の服装は何故かメイド服で、脱がされ中と。つまり、あちこち露出し、とても扇情的になってしまっていたのだ。……縞模様。
「え、でもお兄ちゃんが言うに、は……」
そこまで言って、透子が俺の存在に気づいた。そして固まる。俺も固まる。もう一人の女子高生も固まった。
俺たち三人は無言で見詰め合い――
「きゃあっ!」
透子が身体を抱いてしゃがんだ。
俺はそんな透子から視線を逸らし、制服を着ている女子高生に目を向けて、
「あ、いらっしゃい。お楽しみのところごめんね。透子ちゃんもごめん。俺、ちょっくら外の空気吸ってくるわ。三十分くらいで戻るからいちゃいちゃ終わらせてね。じゃっ」
言って、俺は背を向けた。
「……レズプレイか」
ボソッと呟く。二つの意味で、いいもん見れたな。眼福、眼福。
そのまま立ち去ろうとすると、
「待ちなさいよ! 何、とんでもない勘違いしているのよ!」
襟首をぐいっと女子高生に捕まれた。
有無を言わさない様子の彼女に、俺は無理くりトイレの前まで連行された。
「ほら入れ!」
なされるがまま、トイレの中に押し込まれてしまう。
女子高生まで入ってこようとして、俺は蓋の閉まった便器にすとんと腰を落とすことになる。
すると、女子高生がトイレの鍵を閉め、ドンと俺と便器の後ろの壁を着いた。
そしてぐっと顔を寄せてきた。
……とんでもない美人だ。まさしくギャルであり、キリッとしている感じの部類である。
「……あんだよ」
堪らず俺がそう聞くと、
「……」
女子高生は何も返さない。
俺は女子高生とキスできるくらいの至近距離で見つめ合う形になる。近すぎていい匂いまでもが漂ってくる。
だからって逸らそうとすると、俺の視線はちょうど女子高生の胸の辺りにいってしまう。
彼女はやたらと巨乳だった。
慌てて逸らして、また元の位置に。
女子高生は俺の顔をキッと睨み付けて、
「私は
「エミリーか……」
「急に馴れ馴れしいわね!」
「おっぱいJKとどっちがいい?」
「それならエミリーで……。というか名乗りなさいよ!」
「俺は松尾だよ」
「松尾! あんたいったい、透子のなんなわけ!?」
「いきなり呼び捨てかよ、おい。透子とは今は同棲相手だ」
「は!?」
ぐいっと胸倉を掴まれた。
「ちょっとそれどういうことよ!?」
いきなり同棲のこと言うのは不味かったか……。
かなりの興奮状態だ。
俺は「落ち着け」と肩を押す。
「これが落ち着いていられると思う!? え!? あなた、透子の彼氏なの!?」
「いんや今は違う」
「じゃあ何なのよ!?」
「まあ、親代わりみたいなもんだ」
エミリーはいっそう訝しげな表情になる。
「親代わりぃ? あんたが?」
余計に疑念を深めてしまったようなので、さっさと解説してやる。変な解釈をされそうだったから。
「ああ、一番自然だから同棲という形を取った。あくまで形式的なものだ」
「よく分からないわね……」
「待ってろ。今説明するから」
俺はいちいち話の腰を折られては堪らないので、順序を練って、一呼吸、真剣な表情とトーンを心掛けつつ話を始めた。
「話は父親のネグレクトより始まる――」
「ネグレクトォ!?」
反応が大きすぎる。出鼻を挫かれてしまうじゃないか。もうちょっと落ち着いて聞いてくれないものか……。
俺は溜め息を吐いてしまう。今のは自分に向けられたものなのだとエミリーに勘づかれてしまったら堪らないので、それを誤魔化すように続ける。
「……これはまあ午前中にちょっくらいって和解した」
「和解!? 何よその超展開!?」
俺もそう思う。きっと鍋島のせいだ。
「……と、さらに――」
「って! まだあるの!?」
「……透子は今朝、飛び込み自殺しようとしていた」
「飛び込み!?」
「入水ではなく、電車の方な」
分かってはいるだろうが、一応補足する。しかし、エミリーはそれどころではなさそうだ……。
「透子が、そんな……」
愕然とするエミリー。
「信じていた兄である佑久の近親相姦未遂がトリガーになって、追い詰められたらしい。彼女、自己肯定感低いみたいで……」
「そんなことが……」
「あったんだ」
「私、透子のこと何にも知らなかった……」
エミリーは沈痛な面持ちで俯いた。悔しそうに歯を食い縛っている。もう少しで泣いてしまいそうだ。
「透子が話さなかったんだ。家庭の事情を知らないのも無理はないんじゃないか? 無理に聞き出すわけにもいかないだろ、そういうのは。そんな気に病むなよ」
「……いいえ、私は無理にでも話を聞くべきだったのよ……。まさか、死のうとするなんて……」
「気にするな。エミリーは悪くない。悪いのは佑久だ」
俺は頭をぽんぽんとし、エミリーを慰めてやった。
「ありがとう……」
エミリーは少し楽になったようだ。よかった。
そこで俺はふと気になった。
「エミリーは透子のこと、どう思ってるんだ?」
「私は透子が心配で……」
「ほう」
「ぼんやりとしたあの子を見ていると、放っておけなくて……それで今日も様子のおかしかった透子の後を着けて、ここに……」
「うんうん。ストーカーは駄目だぞ。してその心は?」
「どうにも面倒を見たくなるのよ。あの子を見てるとね」
つまり庇護欲を擽られるってわけか。
せっかくだから、感心した体を装って、からかってやる。
「なるほどな。つまりエミリーは透子のママになりたいのか」
「変な言い方しないでちょうだい! 私はあくまで透子と仲良くなりたいの!」
「仲良くねえ……」
考えてみる。透子はいつでもOKっぽいと思った。寂しがり屋ぽかったし。
「そうよ。私が透子のちゃんとした友達だったら、透子だって……」
「だから自分を責めるな。何度も言うが悪いのはレイパーの佑久だ」
「佑久……絶対に許さないわ……」
ふつふつと煮えたぎる憎悪をその身に宿らせるエミリー。
佑久の死期がまた近くなった。
「俺がミンチになるまで殴るから、エミリーは挽き肉になるまで引っ掻いてやれ」
俺が冗談めかして言うと、
「そうね。同盟よ。透子を佑久の魔の手になんか落とさせないわ!」
「ああ」
俺たちは握手をした。
そう思うと、なんか癪だが、佑久のおかげでJKと仲良くなれたといえなくもない。
ありがとう、佑久、いつかお礼参りにいく。
と、その時、こんこんと遠慮がちにドアがノックされた。
俺とエミリーは、はっとそっちを向く。
「ねえ、何してるの……?」
と言う、透子の声は冷たかった。
「いつまで籠ってるの? 二人きりで、ずっと」
透子が咎めるような声で詰問してくる。
たちまち俺は浮気してしまった駄目男のような心境に陥る。
「ち、違うぞ、透子ちゃん!」
エミリーもそれに乗った。
「そ、そうよ! 今出るから!」
「お、おい」
俺の制止を聞く前に、ドアを開け放つエミリー。
するとその先には透子がいて、バンとぶつかってしまう。
「……いたい」
と呟き、くずおれる透子。ぺたんとした女の子座りはメイド服とベストマッチしていた。
「ああ! 透子! ご、ごめんねっ!」
エミリーが慌てた様子で、謝る。
「……ぐす」
透子は泣き出してしまった。メイド服で泣くものだから、シュールだ。
「えっ! と、透子、ほんとごめんね。大丈夫……?」
慌てて駆け寄り、しゃがんで、ぽろぽろと涙を溢す透子の背中を擦るエミリー。
「おいおい……」
見守っている俺がそう漏らす。エミリー、スカートだからパンツが見えそうじゃねえか……。
透子が便器に座る俺を見た。とても悲しそうな顔をしている。
「ひどいよ……松尾……信じていたのに……」
「え?」
なんで急に俺に?
透子はメイド服の袖で顔を拭って、
「松尾が香田と浮気した……」
ボソッと言ったのだった。
「待て! 俺は浮気なんてやってないぞ!」
トイレを出ながら俺が反論すると、エミリーも乗ってきた。
「そもそも、こんな短時間でしないでしょうが! しかもトイレよ、トイレ!」
「その通りだ、エミリー。トイレでなんかするもんか」
すると、透子が、緩慢に首を振って、
「ううん……するもん……。トイレという狭い密室に男女が二人。なにも起こらないはずもなく……。それに……、たった数分でさくっと事を終えれる人だっているかもしれないじゃん。それほどに香田に魅力があったってことで……」
「ちょっと待ってよ! なんでヤった前提で話進めてるの!?」
エミリーの抗議をスルーした透子は自分の胸部に視線を送り、
「どうせ私なんて……」
絶望した様子の透子はエミリーの乳袋を横目に見て、
「胸も小さいし……」
自分の胸を触りながら言う。俺はごくりと息を飲む。
するとエミリーが、じれったいといった様子で、
「ああもう、そんなん言ってもしょうがないでしょうが!」
「それは香田は、胸が大きいでしょ……。だからそう言えるんだよ……」
俯いた透子はとても沈んでいた。どんよりした空気で場が包まれる。
俺はどうしようもなく、自分が場違いな気がしてきた。男である俺が女子高生の赤裸々な話を聞いてしまっていていいのだろうか……。
そんなことを考えて、締めに貧乳でも需要はあるぞ……と心中で思いながら、俺が透子を憐れみの目で見ていると、
「あんたねえ! めそめそめそめそといい加減に……!」
「やめろ、エミリー!」
あまり言わせ続けていい発言ではないので流石に止める。
しかし、
「エミリー?」
透子がぴくりとした。
――しまった!
俺はギクリとした。
「ふーん……愛称で呼ぶ仲なんだ……」
そう呟いた透子は拗ねていた。
「もう、透子! ぶつわよ!」
エミリーが手をあげようとする。
「エミリー、暴力は駄目だ!」
俺はエミリーの片手を掴み、ぶたせない。
「俺と暮らすか、って言ってくれたのに……。同棲っていったいなんなんだろうね……」
透子がそう呟くと、エミリーが俺をくわっと見た。――えっ、何!?
俺の戸惑いをよそに、そのまま噛み付いてくる。
「そういえばそうよ! 同棲って何よ! さっきも聞いたけど、おかしいわ! あんた、そもそもいくつよ!? おっさんじゃないの!? なら、普通に犯罪よ!?」
俺はカッとなる。おっさんと言われたことがとても引っ掛かった。
「失敬な! 俺はまだ十八だ! インターンの大学生なんだぞ! 誰がおっさんか! 犯罪でもない! 本人と親権者の合意を得たから合法だ! 俺の親もさっきメールで確認したらOKくれたしな」
「大学生!? それマジ?」
失礼にも信じられないといった調子のエミリーに言ってやる。
「マジだ」
「へええ……言われてみれば確かにそうかも……」
エミリーは俺を観察しながらそう言った。あんまり顔をじろじろ見ないでほしいのだが……。
すると透子も食い付いた。
「私も知らなかった。松尾、駄目、そういう大事なことはちゃんと言ってくれないと。おっさんだと思っちゃってた」
「おっさんおっさんってうるさいぞ! というか、おっさんだと思ってたのになんで同棲OKしたんだよ!? というか聞けよ!」
「……冗談だよ。からかってみただけ、顔を見ればある程度、分かった。それに別におっさんでもよかったし……」
最後の方は俯いてぼそぼそ言ってたのでよく聞き取れなかった。
エミリーが透子と俺を交互に見る。
「えっ、これと同棲OKって。もしかして透子って年上好きなの?」
「……どうだろ。よく分からない。お兄ちゃんは好きだったけど、恋愛とは違うし……」
「おい、これとはなんだ」
「……それはともかく、大学生なら、じゃあなんであんなしょぼくれたリーマンみたいな顔をして帰ってきて、そんなスーツ着なれてるのよ!」
「俺は形から入る主義なんだよ! 俺のリーマン演技、完璧だろ!」
「あんた馬鹿なの!?」
「馬鹿とはなんだ馬鹿とは! 馬鹿って言う方が馬鹿なんじゃい!」
「まるで子供じゃない!」
「はんっ! どっちが子供なんだかね! そっちは所詮、高校生! こっちは大学生でインターンじゃい!」
「はぁ!? 私の胸見て言ってみなさい!」
エミリーが胸を張って見せてくる。
「おっ、売春か! いけないんだぞぉ!」
手を叩いて囃し立てる俺は先生に言い付けてやるとか言う子供そっくりだったと後でエミリーが馬鹿にする。
そんな俺たちを見て、透子がボソッと言う。
「二人とも子供じゃん……」
俺とエミリーは言い争い続ける。売り言葉に買い言葉で、どんどん収拾が着かなくなっていく。しまいには取っ組み合う。
透子はずーっとただ見ていた。視線が冷ややかだったのは言うまでもないだろう。
それきり透子は少し機嫌が悪くなってしまった。これもそれも佑久のせいだ。
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