第11話 見破り・拓郎視点
「ね、答えてよ。拓郎くんが犯人なの? いや、参謀と言うべきか……。このトリックは、特定の人物しか使えないし」
「ふん、おれはいったい何のことかわからんね」
「そう言ったセリフは、総じて犯人が吐くものだよ……。拓郎くんも本格ミステリーを読むからわかるでしょ」
ぐぬぬ……言ってる意味がわかるから胸が痛くなる……。
「はぁ……いつもみたいにそう簡単に認めないだろうから、勝手に推理を話していくね」
「いつもみたいには余計やけど、聞かせてみい!」
おれは声を張り、まだまだ勢いがあることを示した。
「まず言っておくと、酒井くんと浅田先輩がラブレターを出したんだよね」
隣の苗木がぐらりと揺れ、葉っぱを落とした。誤魔化してくれと言われたが、不可能になってしまった。ざまあみろ、とおれの心が言っている。
おれも勢いを示していたが、塩をかけられたなめくじのようにシヨシヨと萎んでしまった。今回ばかりは勝てると思ったのだが……。
「鍵のかかったロッカーに、ノートに挟まれラブレターが入っていた。どのようにしてラブレターを仕込んだのか? それが今回の謎。
でもこれがそもそも間違いだった。ミスディレクションされていた。鍵のかかったロッカーを開け、ノートを開き発見すれば、誰だって密室トリックだと思う。鍵がかかっていいたのにって、決めつけてしまう心理が働くの。ミステリーでいうところの、心理的密室――。ここまではいい?」
「ああ……」
「それに気づき、鍵のかかったロッカーに入れた『後』ではなく、それより『前』にトリックが仕掛けられていたのではと思った。もし鍵のかかったロッカーを開けられたとすれば、わざわざノートに挟まなくてもいいしね。ノートに挟まっていた、というのがポイントなんだ。
だとしても、ロッカーにしまうその『前』に挟んだとしても、タイミングはない。林先輩もわたしも、すぐにロッカーにしまったから」
「じゃあ、誰にもラブレターを入れることはできないんやないか? 心理的密室が間違いじゃないんか?」
「チッチッチッ」
凛子は舌を鳴らし指を振った。
シャーロック・ホームズみたいなことしやがって……。いや、そうか、ホームズではあるのか……。
「一見、誰にも仕込めず不可能に思える。でもね、さっき言った酒井くんと浅田先輩の二人ならできるんだよ」
「どうやって」
「返却物を返す時だよ! 先生から返ってきた返却物を配るのは、クラス委員長の仕事でしょ? それでわたしたちがロッカーに入れたら密室の完成ってわけ」
ああ、くそ……見破られている……。
言い訳――なにか良い言い訳はないだろうか?
脳をフル回転させ考えたが、打ちのめされた頭ではろくな閃きはなかった。駄目だとわかっていても、言うしかなかった。
「でもやぞ、ノートが返却されたら、開いて確認したりするんとちゃうか?」
凛子はにたりと笑った。待ってましたと言わんばかりだ。
「そういうことも考えられるよね。でもね、社会の佐田先生は、ノートに評価をつけないんだ。評価がないから、ノートを開き確認しようと思わない。見る必要がないからね。拓郎くんはそれを知っていて、だから社会のノートに挟むことにしたんだ。社会のノートである理由もちゃんとあった。三年一組の社会の担当も佐田先生だってことも、知ってたんだよね。
流石、抜け目ない」
「えへへ」
褒められ気分が高揚し、後頭部をかいた。
「喜んでるってことは、認めたってことでいいんだよね?」
はっとした。ミスを犯してしまった。
「まさか褒めて油断を誘う作戦だったとはな!」
「別にそんなつもりじゃなかったけど……」
だがこれ以上、言い訳も思いつかないし、それが無意味であることがわからないほどおバカではない。
降参だ……。
「もう認めるわ……。凛子の推理の通りや」
「拓郎くんが考えたんだよね。それで二人が実行に移した。これはクラス委員長しかできないからね」
「そや」
「どうしてこんなことを? 目的はなんなの」
「ええっと……」
どう言おうかと悩んでいると、またスマホが鳴った。大貴さんからのラインである。
『誤魔化して! お願い!』
と申されても、大貴さんが関わっていることは明かにされているし、庇いようがない。凛子に送ったラブレターもイタズラだったと嘘をつくしかない。
「お、お察しの通りイタズラや……」
凛子は腕を組み、眉根を寄せた。
「本当に?」
「マ、マジや」
「悪気もなく面白がってるだけかもしれないけど、イタズラでラブレターを出すなんて最低だよ」
仰る通りである……。本当は、イタズラではなく真面目に恋文を送ろうとしていたと弁明したかったが、大貴さんのせいでそれも叶わない。
だからせめてもの仕返しだ。
「おれが密室の方法を考えたけど、言い出しっぺは大貴さんやで!」
隣の苗木がガサゴサと揺れた。申し訳ない、大貴さん。大貴さんの代わりに凛子と向かい合い、恋心も黙ってやっているのだから、先輩らしく責任を取って下さい。
「それ、本当なの?」
「マジマジ! おれの目を見て、綺麗な眼やろ?」
おれは目を指さし、凛子が目を細め覗き込んだ。
「くすんでやがる……」
「誰がくすんどんねん!」
凛子はくすりと笑った。
「でもさ、林先輩のラブレターは適当だったのに、なんでわたしへのラブレターは練ってあったの?」
「ああ……それはな」
「それは?」
「自意識過剰ちゃうか凛子?」
「なっ!」
「気のせいや気のせい」
「ううっ」
凛子の顔がみるみるうちに赤くなっていった。
「ラブレターをもらったことないから浮かれてたんやろ」
「ち、ちがわい!」
「どこの方言やそれ」
「もういい、風紀委員室に来てもらうからね!」
耳まで赤くした凛子に引っ張られ、おれは連れていかれた。
振り返り、大貴さんが隠れている苗木を見た。
不甲斐ないことにトリックを見破られてしまったが、大貴さん、あなたの恋慕を知られずに済んだ。なんとか誤魔化すことはできた。先人切って怒られてくるので、許して下さい。
大貴さんからラインがあった。
『俺のことを吐きやがって! 拓郎のせいだかんな!』
……最低の先輩だな。
彼が先生にばれないようにトリックを仕掛けるけど、風紀委員で幼馴染のわたしがすべて暴いちゃいます! だって彼のことが大大大好きだから!! すべてを見透かしたいの…… タマ木ハマキ @ACmomoyama
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