密室に入っていた差出人不明のラブレター

第1話 謎のあるラブレター?・拓郎視点

 依頼を受けるのも、学園のモリアーティと呼ばれる所以。


 今回の依頼者は、学のいとこのお兄ちゃんだった。名前は浅田(あさだ)大貴(だいき)、歳は二つ上で、おれたちと同じ峰ヶ先中学に通っている。学はクラス委員長をしており、大貴さんもクラス委員長だった。いとこでクラス委員長なのは少し笑える。


 マクドナルドで話を聞くことになった。店内は多少、混んでいるが少しの雑音がある方が集中できる。もしヤンキーがいれば身を小さくし声のトーンを落とす。

 依頼料として、大貴さんはバニラシェイクを奢ってくれた。おれだけで、学や龍一の分はなかった。当然だ、おれが頭を使うのだから。二人はぶうぶうと文句を言っていた。そんな不満げな顔をされると煽りたくなってしまうではないか。


「ああうまっ、奢ってもらうマクドのシェイクはめっちぁ美味いで!」

「ふん、マクドって……。下品な言い方をして、これだから関西人は……」

 学は鼻で笑った。

「はぁ? 普通はマクドやろ!」

「マックだよマック。関東ではマックなの、郷に入っては郷に従え」

「なにがマックじゃ、パソコンと被ってんねん」

 おれと学は火花を散らし合った。


「ごほん!」

 マクド、マック論争が血を血で洗う争いになる前に、大貴さんは咳払いをし止めた。龍一はシェイクを物欲しそうに眺めていた。相変わらずマイペースなやつだ。


「そんなことより、依頼のことだ」

 そんなこととは心外な気はするが。

「じゃあ、その依頼っていうのは何なんですか? 大貴さんは何をしたいんですか?」

「ラブレターを出そうと思ってるんだ!」

 おれは返事ができず、口を半開きにし固まってしまった。いや、おれに頼まなくても――

「出せばいいんじゃ?」

「それもそうだが、そんな冷たいこと言うんじゃねーって!」

「いやだって……。内容を考えてくれとか、それとも応援してくれとかですか? シェイクを奢ってくれましたし、やりますけど……」


 大貴さんは手を左右に振り、

「後押ししてくれってわけじゃねえさ。あと嫌そうにも言わないでくれ! 普通にラブレターを出すだけじゃ芸がないだろ? インパクトに欠けんだよ。そこで俺は考えた。拓郎には、ラブレターに謎を作り出してほしいんだよ」

「なぞ……」

「そうだ。例えば、誰が出したんだろう? なんでこんなとこにラブレターが? と思わせるような感じだな。ミステリアスの方が興味を持ってくれるし、面白みもある。オッケーをもらえる確率も跳ね上がるってわけよ! そういった謎があるのを頼む」


「…………」


 学のいとこだが頭はあまりいい方ではないようだった。奇妙なラブレターをもらっても迷惑なだけだろう。


「うん、わかりますよ!」

 と龍一は言った。

「マジで!? わかんの!?」

「俺もわかるなぁ」

 学もうんうんと頷いていた。いとこだから気を遣っているわけでもなさそうだった。

 三人は共感し合い、きゃきゃっと恋バナに花を咲かす女子のように盛り上がっていた。

 おれだけがわからないのか?


「拓郎は遅れてるな。時代に取り残されるぞ?」

 学は心配した様子で言った。ミステリアスなラブレターを送るというのが、昨今の主流なのか? おれが遅れているというのか? ラブレターという旧来の方法を採用しているくせに。


「鬱陶しいだけやないんかなぁ」

「そんなことはない」

 大貴さんは断言した。

「俺が正しい。なぜならおれの方が先輩だろ、それに拓郎とは違いそれなりにだが勉強もできるしな。Q.E.D 証明終了。あ、Q.E.Dってわかる?」


 ムカつくなこいつ……。先輩とかシェイクを奢ってもらったとか関係ない、ムカつく……。


 おれはため息をつくと、

「まあ、そういった謎を作り出せなこともないです。ありますよ」

「おお、あるのか」

 学は感嘆した。龍一も親指を立てた。

「流石だね、拓郎!」

「学校で話題になるかもしれへんし、面白そうやん。イタズラ心にも火がつくわ。でも、風紀委員には気を付けやなあかんなぁ……今回も今回とて」


 大貴さんの体がピクリと動いた。

「風紀委員か……」

「はい、なかなか厄介ですよ。なかなかではないか……めッッちゃくちゃ厄介ですね!」

「拓郎ってさ、風紀委員と関りがあるよな」

「関り? まあ関りと言えばそうですけど」

「特に南と仲がいいよねー!」

 龍一はなぜか張り切って言った。


 大貴さんはまた体を震わせた。

「そうかそうか……」

「幼馴染ですしね」

「やっぱり南は謎を解くのが好きなのかもな」

「やっぱり?」

「ほら、よく拓郎が悪だくみをして攻防を繰り広げてるだろ。風紀委員の女ホームズって言われるくらいだしよ、謎解きが好きなのかなって思ってな」

「そうなんかなぁ。凛子も推理小説は好きやけど」

「流石、幼馴染。何でも知ってるな」

「何でもは大袈裟ですけど」


 大貴さんは落ち込んでいたが、おれには理由がわからなかった。

軽く困惑していると、謎を生み出す方法を龍一から訊かれた。気になるが、いったんは横に置いておこう。


「方法はやな――」

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