第10話 風紀委員のホームズ登場!・拓郎視点

 先週の金曜日、藤波先輩は風紀委員の偵察に行ったらしい。

 だがろくな情報も得ることもできず、凛子にたっぷりと脅されたらしい。

 悪魔だと怯えていたが、凛子はいったい何をしたのだろう? 鬼ではあるとおれも知っているが、悪魔な一面も持っているのか。一応、藤波先輩に凛子へのフォローを入れておいたが、聞く耳を持たなかった。次会うときは十字架を持ってくると慄いていた。


 放課後、おれは生徒会に呼ばれ、花瓶の一件について話していた。褒め褒め作戦により、内部に侵入し混乱を招くことに成功していた。


「会長、やっぱおれが見た猫ですよ。犯人じゃなく、犯猫(はんびょう)です。花瓶の中に入っている水を飲もうとして、こかしてしまったんです」

「かもしれないわね……」

 佐久間会長が首肯すると、藤波先輩も同意した。田島は大袈裟に頷き賛同した。何としても罪を免れようという必死さを感じた。


 扉が突然開いた。

 びっくりして振り返ると、凛子を先頭に風紀委員のメンバーが入ってきた。

 凛子だけでなく、雪先輩も郷田先輩も唇の端を吊り上げていた。不気味だった。なんの用でやってきたのだ。

 嫌な予感がする。かすかに足が震えてきた。


「あなたたち、勝手に入ってくるのはやめてもらえるかしら」

 と佐久間会長は言った。

「生徒会だって勝手に入ってきたくせに……」

「南さん、何の用なの? 私たちは忙しのだけれど」

「拓郎くんの化けの皮を剥しにきたんですよ」

 ぎくりとした。平静を装おうとしたが、目が泳いでいたかもしれない。凛子はアリバイを崩せたというのか……。


 田島も心配した様子でおれを見ていた。

「化けの皮を剥しに? いったいどういうことかしら」

 佐久間会長は目を細めた。

「花瓶を割った本人でないにしろ、拓郎くんは隠蔽工作に関わっているんですよ」

「で、でたらめ言うな!」

 おれは怒ったふりをし大きな声を出した。

「哀れね拓郎くん。今楽にしてあげるからね……。さあ、入ってきて」


 凛子が扉に向かって言うと、郷田先輩が半身だけ廊下に出し誰かをつれてきた。


 ぎょっとしてしまった。


 部屋に入ってきたのは、学と龍一であった。肩を落とし、戦意を感じられない顔をしていた。まさかゲロったのか!?


「お前らどうして!」

「ごめんよ、拓郎……」

「すまん……」

 龍一と学はこうべを垂れた。

「わたしの推理を二人に聞いてもらってね、結果こうなったってわけ」

「くっ」

「まさか、あたしたちを騙していたのか!?」

 藤波先輩は立ち上がり机に手をつくと、前のめりになった。騙していたけど、騙された方も悪いと思うんだよなあ……。


「心美、まだ決まったわけじゃない。南さんの推理を聞いてみようじゃないの」

 佐久間会長は手で制すと、非常に落ち着いた様子で言った。おれは聞きたくない……。

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