第8話 捜査どころじゃねぇ!!・凛子視点

 最近、拓郎くんと佐久間会長の仲がいい……。


 あの生徒会室以来だ。妙に拓郎くんが媚びを売り、生徒会長は気分を良くしてしまった。今日なんて廊下で親しげに話しているのを見たのだ! 

 二人に恋愛感情はないように思う。多分――。


 だからこれ以上、仲を深めさせるにはいかない。それとも先手を打って恋のライバル認定した方がいいのだろうか? 沖本先輩といい、なぜこうも最近、拓郎くんと親しくなる女の子が多いのだ。ああ、憎い……。

 もし二人がラブラブと手を繋ぎ現れ、『おれら付き合うことなってん』『そうなの南さん。だからもう、私の彼氏に近づかないで頂戴ね』なんて言われてしまったらどうしよう。殺してしまおうかな……。


 けど推理も恋もわたしは負けない!


 お昼休み、わたしは図書室に向かった。美術室の真上にあり花瓶が割れたのは放課後であったため、誰かが何かを目撃しているかもしれない。それに拓郎くんには、図書室にいたというアリバイがあるため確認も必要だった。


 図書室の前の廊下を歩いていると、階段から拓郎くんと佐久間会長が現れた。

 どうして二人で……。どうして拓郎くんと並んでいるんだ――。


「あら、南さん」

「ど、どうも……」

「凛子やん。何してんの」

 と拓郎くんは能天気に言った。何してるのはこちらのセリフだった。

「図書室に、花瓶について知っている人がいるかもしれないと思ったから……」

「おれらと一緒やな」

「一緒?」

「佐久間会長に頼まれて、捜査の協力してんねん」

 拓郎くんに協力? 犯人かもしれないのに? 迂闊だな、佐久間会長……。それとも、拓郎くんと少しでも長く一緒にいたいという不純な動機ではなかろうな?


「南さんは拓郎くんと仲が良かったんだ?」

 と佐久間会長が言った。拓郎くんと下の名で呼んでいる!! 恐れていた事態になってきた……。

「幼馴染です!」

 強調し言っておいた。あなたよりも早く出会ってますし、家も隣同士なんですからね! 負けませんよ!

「へえ、幼馴染。なのに今まで容赦なく取り締まってきたんだ。よほど拓郎くんのことが憎いらしいわね……」

 な、なんてことを言うのだこの女! 誤解されてしまう!!


 拓郎くんは苦笑を浮かべると、

「でも勉強を見てもらったりとか、一緒にゲームしたりして、なんだかんだ仲良くしてくれてるんですよ」

 とフォローを入れてくれた。拓郎くん、あなたって人は……もう大好き……!!

 まだ間に合うよね。身も心も佐久間会長に捧げたのかと不安になったけど、遅くはないよね。拓郎くんが生徒会長のことが好きだったら、私の肩を持たないはずだもの。


 そこでわたしは気がついた。


 相手はモリアーティと呼ばれているあの拓郎くんだ。沖本先輩に近づいた理由と同じく、佐久間会長に取り入ろうとしているではないだろうか。生徒会に協力しているのも、内部からかき乱すためだ。もしくはわたしを嫉妬させ、まともな思考をさせないつもりか……。

 そうか、会長は騙されているのか。ご愁傷様……。

 わたしは笑みを隠すのに必死だった。ふふふ。


 二人だけにしておくわけにはいかないため、わたしも拓郎くんの横に並んだ。わたしと会長に拓郎くんは挟まれる格好だ。


「両手に花ね、拓郎くん」

 と佐久間会長は言った。

「いや、周りから見たら、連行されているようにしか見えないでしょ……」

 会長はともかく、わたしは花であるため同意をしたくなかったが、生徒会と風紀委員に連れられておれば、そう見えるかもしれない。


 図書室に入ると、図書委員の三村さんがいたため話を聞くこととなった。三村さんは花瓶が割れた日の放課後、図書室にいたらしいのだ。

 前にうるさくしたため、三村さんは拓郎くんを鋭い目つきで見ていた。敵視していると思わせておいて、三村さんも褒められ柔らかくなるタイプじゃないよね? 頼むよ?


「じゃあ三村さん。あなたは花瓶が割れる音を聞いたかしら」

「い、いえ……」

 佐久間会長に尋ねられ、三村さんは緊張していた。拓郎にだらしなく懐柔されすっかり失念していたが、この人は生徒から恐れられる存在だった。

「なにも聞いていないのね?」

「そうです」

「じゃあ、窓の外から怪しいものを見たりしたかしら」

「見ていませんね。そこにいる伊藤くんは、怪しいことに図書室にいましたけど……」

「それのどこが怪しいねん!」

 拓郎くんはぷりぷりした。


「じゃあ、拓郎くんの他に誰がいた?」

 とわたしは尋ねた。

「ええっと、田島くんと沢口くん、あとは酒井くんがいたかな」

「どこにいたの」

「奥の窓際にいたよ、それは間違いない。仲良く固まっていた」

 わたしは三村さんが指さした場所を見た。本棚があり端っこであるため目立たないなと思った。


 本人のいる前で疑い質問しているため、拓郎くんは文句がある様子だった。

「やから今回はおれとちゃうって……」

「そうだ、伊藤くんあの日、窓を開けていたでしょ。肌寒かったんだからね!」

 三村さんは頬を膨らませた。

「その時に言ってくれたら良かったのに」

「待って! 窓を開けていたということは、花瓶を割れた音は聞こえなかったの?」

「それもそうね」

 と佐久間会長はわたしに同調した。

「いや、聞こえなかったな。空気を入れ替えようって、ちょっと開けてただけやし」

 本当に聞こえなかったのか、犯人であるため嘘をついているのか……。

「三村さん、何か怪しいと感じたことはないかしら?」


 会長が尋ねると、三村さんは首を捻り考えた。


「ああ、そういえば、お昼休みにちらっとですけど、美術室の前でキャッチボールをしている人を見ましたよ。田島くんと、伊藤くんのお仲間の沢口くんがいましたね」

「そう。でもお昼だと違うわね、割れたのは放課後だし」

「ああ、そっか……」


 佐久間会長の言う通り、お昼休みだと関係ない。

 花瓶が割れたのは放課後。わたしも音を聞いたし、それは間違いない。

 アリバイがあるのだ。遠隔で割ったという方法は難しいし、図書室にいた拓郎くんに犯行は実質不可能。

 もしアリバイが作られたものだとすれば――。


 拓郎くんを見つめていると、

「怖い顔して睨まんといて! 今回はマジで違うから!」

 と言われた。怖い顔は余計だった。佐久間会長は呆れながら、

「そうよ、南さん。人を疑ってばかりじゃ駄目よ?」

 ぐぬぬ……好き勝手て言いやがって……。佐久間会長だって、誰かが割ったと疑ってるから捜査をしているくせに。


 二人は見つめ、『ねー』と呼吸を合わせ言った。やっぱり殺そうかな……。

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