第6話 両手ポテト・拓郎視点

 マクドナルドにやってくると、ポテトを頼み三人でつまむことにした。美味い、手が止まらない。龍一も学もパクパクと口に運んでいく。


「……龍一ちょっと食べ過ぎじゃないか?」

 と学が言った。

「ん?」

 龍一は手を止め首を傾げた。


 学の言う通り、食べ過ぎだった。手を伸ばすペースは同じだったが、回数が違った。

 龍一だけ両手でポテトを食べていたのだ。まるでカニだ。一袋を三人で食べているのだからもう少し考えろ。


「よ、予想はしてたけど風紀委員は警戒してるね」

 龍一は話題を変え誤魔化した。

「せやなあ。しかもカンニングを企んでないかと、ピンポイントで疑ってきたからな。真っ先にカンニングを疑うなんて失礼な話やで!」

「事実だからな」

 と学は冷たく言い放った。

「そんなことよりも、沖本先輩はどうなんだよ」

「沖本先輩な……」


 おれは腕を組み、眉根を寄せた。手が塞がったのを好機とみて、二人はバクバクとポテトを食べだした。調子に乗るな。


 風紀委員が乱入するという危機もあったが、去年のテストを武藤先輩からもらうことができた。

 あとは覚えテストに挑むだけだと思っていたのだが、一つ問題があった。武藤先輩は理科のテストだけ紛失してしまったらしいのだ。中間テストなので五教科中、四教科しかカンニングできないことになる。

 解決策としては、一年時のテストを残しているような真面目な生徒から借りるしかない。


 一人思い当たると武藤先輩から教えてもらったのが、沖本先輩だった。


 それで先刻、先輩から話を訊くこととなった。テストを持っているとすぐに教えてくれて安心したのもつかの間、『私、オトコを信用してないから』『あなたも利用するだけ利用して、私を捨てるつもりなんでしょ……』『そんな優しい言葉をかけて、私を手籠めにする気ねぇ!』とけんもほろろな態度だった。

 それも断る理由が意味不明だった。ナンパされていると、勘違いしていたのだろうか?


「なかなか強烈な人やったで……恋のことで頭の中がいっぱいって感じ」

「男は信用してない、だったか」

「そや。なかなか手強いかもな……色んな意味で」

「なんで男とか女が出てくるんだろうなあ、中学生のくせに。だいぶ変な人だな」

「そうやな……」

「これは男として、信用を勝ち取らなきゃ駄目だな」

 学は楽しそうに笑みを浮かべた。

「なに他人事みたいでいんねん。次はお前らにも一緒に来てもらうからな」

「ええ~……」

「おれだけじゃなく、お前らからも頼んでもらう。ええな!」

「面倒だな龍一――おいてめえ!」


 学は声を張り上げた。


「ん?」


 ずっとおとなしいと思っていたら、前かがみになり両手でポテトを口に放り込んでいた。すべて龍一の口に中に入っており、あとには油でてらてらした黄色いカスしか残っていなかった。


 龍一は今、満面に笑みでゴクリと飲み込んだ。


 おれたちは怒りに顔を歪ませ、龍一の頭をはたいた。

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