第4話 彼がテスト勉強してるって? 絶対有り得ないッッ!!!・凛子視点

 拓郎くんたちは図書室でテスト勉強をしているようだった。


 図書室に向かってみると、プリントを見ながらノートに書いていたり、問題を出し合ったりしているようだった。勉強だ……それもテスト勉強……。

 いい点数を取るために拓郎くんが勉強? 怪しさが満点である。別棟の教室を借りたのだって、結局、勉強のためではなかった。


「拓郎くん」


 声をかけると、拓郎くんは飛び上がりそうになった。怖がっているのか、凛子ちゃんに話しかけられドキドキしているかでは話が違ってくる。自分でも、後者ではないことは知っていた。

 酒井くんが何かを隠したようだったけど、拓郎くんが立ち上がり視界を遮られてしまった。


「おお、凛子かいな。どうしたんや?」

 声をかけたら飛び上がりかけたくせに、怯えたりせず普通の対応だった。やましいことがないのか?

 けれど足を見てみると、ガクガクと震えていた。

 わたしに臆している。全然、隠せていない。

 声をかけただけで震えさせる女の子もどうかと思うけど、企みを明らかにした時の拓郎くんの顔はゾクゾクするので、やめることができなかった。可愛いんだよね……。


「図書室でなにをしてるの?」

「見たらわかるやん、勉強やん」

「勉強ねえ……」


 机に目を向ける。

 ノートや筆記用具が広がり、今回は消しカスも転がっていた。ノートに問題集の解答らしきものが書かれてあった。丸の中に問題の番号がふられているのだが、隣に四角が描かれていたり星が描かれていた。何かの目印だろうか? 


「拓郎くんは数学を勉強してるんだね」

「せや、なんか文句あるか!?」

「別にないけど……なんで喧嘩腰……。沢口くんは何の勉強を?」

「僕? 僕も数学だよ」

「どう、はかどってる?」

「ううん、どうなんだろ? 覚えるのがけっこう大変で……数字を覚えるだけでいいはずなのに……」

「数字を覚えるだけ? 数式とか文章問題もあると思うけど……」


 沢口くんは両隣から頭をはたかれた。


「いたっ……!」

「ごめん龍一手が滑った!」

「俺も」

「またなの……」

 沢口くんは頭を押さえ涙目を浮かべた。


 わたしは酒井くんを見た。にっこりと笑おうとしたらしいけど、人形のように不自然だった。


「酒井くんは拓郎くんと違って頭もいいし、テストも平気だよね?」

「当たり前だ」

 褒められたのが嬉しかったらしく、メガネをくいっと上げ、ふふんと得意になって胸を反らせた。

「拓郎くんとは違うもんね、流石だね」


「お、おれだって今回は自信あるっちゅうねん!」


 なぜか拓郎くんはムキになって言った。もしかして酒井くんばかり褒めるから妬いているの!? え、可愛い!


「人のことをさんざんアホ扱いしやがって! なめんなよ!」


 なんだ、怒ってるだけか……。けれどおバカをおバカ扱いして何が悪いというのだろうか?


「自信、あるんだ」

「ったりまえよ! 今回はやったんで」

「真剣なんだ」

「やから図書室で勉強してんねん」

「図書室じゃなくても、別棟の教室を借りたらいいんじゃないの? この前みたいにさ? ん?」

「人の傷口を広げようとすな……。言っとくけど今回はマジやで? うかうかしてっと、軽く凛子の点数越えてしまうかもなぁ~」

「自信たっぷりだね」

「そやで」

「しかも、不正はなく実力勝負と?」

「ったりまえ!」


 拓郎くんは目を逸らさずやる気満々で答えた。


 いつもなら狼狽えぼろを出してもおかしくないのに、勇ましいところをみせ、沢口くんと酒井くんは羨望の眼差しで拍手を送った。


 拓郎くんは調子に乗り両手を広げ、拍手を浴びた。しっぺ返しはすぐさまやってきた。


「うるさいよ、南さん以外の三人! これで二度目だよ! 特に伊藤くん!」


 と図書委員の三村さんに怒られてしまった。図書室にきている他の利用者からも睥睨された。

 ジャイアントキリングしたように大盛り上がりだったのに、拓郎くんたちはしゅんとしてしまった。


「なんでおれだけ……」


 名指しされた拓郎くんが特に落ち込んでいた。

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