第6話 仲良し風紀委員のミーティング・凛子視点

 放課後になり、風紀委員のミーティングが開かれていた。


 伊藤拓郎はなにを企んでいるのか?


 それが議題だった。


 わたしは風紀委員室の天井を、怨めしく見上げた。あれが拓郎くんが変えた照明か……。あんなにも光り輝きやがって、雪さんに照れているのか? おうコラ? かわいい女の子から頼りにされ、鼻の下を伸ばしてるんじゃねーぞ……。

 わたしは、心の中で脅しておいた。


「で、どうなんだ、伊藤の様子は?」

 と郷田先輩は言った。続いて雪さんも、

「どう? 凛子ちゃんは伊藤くんと一緒のクラスだしさ」

 と尋ねてきた。雪さんも気になるんだ……ふうん……。風紀委員としてなのか、一人の女としてなのかわかったもんじゃないけどね……。ふうん、そう。

 残念だけど、こちらの方が関係は進んでいる。わたしたちはすでに抱き合った仲なのだから!


「やっぱり、今日もおかしかったですね。前にも言った通り、地山先生には媚びを売っているように見えるし、授業中も異様に先生と絡みだすし」

「変わりないんだね」

「はい。ただ怪しいのは怪しいんですが、何か悪さをしているわけではないようですし……」

「他に変な行動は取ってないんだね?」

「はい。若干、わたしを避けているようにも感じますけど……」

「え? なんて?」

「いえ、こっちの話です」

「なにか企んでいるのか、思い過ごしか……」

 郷田先輩は腕を組み、眉間にしわを集めた。


「直接拓郎くんに、魂胆はあるのかと尋ねましたけど、答えるはずもありませんでした」

「だろうな」

「妙な点は多いですし、媚びを売るのも何か理由があると思います。大したことがなければ、きっとわたしにも教えてくれるはずです。風紀委員であるわたしに、気取られたくない理由があるんだと思います」

「南は、いつものメンバーも関係していると思うか?」

「おそらくは」

 こくこくと頷く。

「酒井くんは今回の一件には関わっていないかもしれませんが、沢口くんは拓郎くんと一緒になって先生にゴマを擦っていたので、多分」

「沢口もか。共通しているのは――」

「勉強ができないということです!」

 ぴしゃりと言ってやった。まごうことなき真実だからだ。


「そう括ってしまうのも可哀そうだけどね……」

 雪さんは同情しながら言った。だが真実なのだ。

「今回の一件、成績が関係してるんでしょうかね……」

「どういうこと?」

「共通しているのが、勉強ができないということ。その二人が先生に媚びを売っているとなると、悪い成績をちょっとでも良くしてもらおうと企んでいるって考えられません?」

「そんなことで成績を良くしてもらえるかな?」

「それもそうですね……」


 悪くない推理だと思ったが、雪さんの言うことにも一理ある。では直接、成績を上げてくれと懇願するのではなく、遠回りになるが別の方法を通して――?


 より思慮を深めていかなければならないな。


「ああ、そういえば」

 思い出したことがあり、わたしは声を漏らした。

「なぜか今日は、ご機嫌取りに沢口くんは参加していなかったんですよね」

「その必要がなくなったとかかな?」

「ありえるかも! でもなんで必要じゃなくなったんでしょう?」

「ううん……」

 雪さんは顎に手を当て考えていたが、答えは出てこないようだった。


「こういうのはどうだ!」

 と郷田先輩は自信たっぷりに大きな声を出した。

「伊藤や沢口は、俺らの目を欺くための囮に過ぎないんだ! その隙に酒井が動いているんだよ!」

「何の目的で動いてるんです?」

「それはわからん!!」


 気持ちいいくらい潔く言い切った。


 面白い考えだと思うのだが、わたしは念のため酒井くんの動向も観察していた。結果、酒井くんに怪しい動きはなかった。高みの見物といった感じで、愉快そうに先生に取り入る二人を見ていた。性格の悪い顔はしていたが、今回は白だろう。


「込み入った動機はなく、やっぱりイタズラなんでしょうかね?」

 とわたしは言った。郷田先輩は首肯し、

「かもしれないな。なにか、地山先生が二人にイタズラされるようなことをしたのだろうか? 今までの傾向からしても、理由なく行うことはないだろう。面白そうだからっていう簡単な動機ではないはずだ」

「評判の悪い先生でもないですし、仕返しなどではなさそうですね」


「ねぇ……」

 郷田先輩と話していると、雪さんがそろりと手を挙げた。

「はい?」

「伊藤くんの言う通り、先生のことが好きだからそうしてるだけって、考えられないのかな?」

「雪さん!!」

「え、なに……」

 テーブルに手をつき前のめりになったわたしに、雪さんはびっくりし体を反らせた。

「いいですか、雪さんは優しすぎます! いつか詐欺師に騙されますよ! 拓郎くんは今まで色々な悪だくみをしてきたじゃないですか。まんまと騙されたこともありました。まさか忘れてしまったわけじゃないですよね?」

「忘れてないよ」

「学園のモリアーティと呼ばれていることも忘れてはいけませんよ。油断を見せるとその喉元に喰らいついてきますよ!」

「凶悪犯みたいな扱いだね……」

「そうだぞ、野々山」

 郷田先輩も加勢にやってきた。

「何も起こらないに越したことはないが、起こってからでは遅い。事前に知り、未然に防がなければならん」

「テロリストみたいな扱いだね……」


 拓郎くん、凶悪犯からテロリストへ見事ランクアップしたぞ。


「でもさ、郷田くんと凛子ちゃんの言うことは正しいと思うけど、信じてくれている人が一人もいなかったら悲しいじゃない? だから私だけでもって思ったんだ」


 まるで聖母様だ。

 疑ってばかりいるわたしには眩しく見えた。雪さんみたいな人を善人というのだろう。そういう善人につけ込み、騙そうとするのが拓郎くんみたいな狡猾な人なのだろう。残念だが、世の中ではこの図式がまかり通っているのだ。


「提案がある」

 と郷田先輩は言った。

「二人にマラソンをさせよう」

「へ?」

 わたしは頓狂な声を出した。

「マラソンをして清々しい気持ちになり、おバカな企みも馬鹿らしく感じすべて話してくれるかもしれん」

「苦痛に耐えかねただけじゃ……? 拷問じゃないですか……」

「上手くいくはずだ。それで何人か話してくれたぞ?」


 幾人かは犠牲になっているのか……。ピュアな目をして恐ろしいことを言う。早々に白状した方が身のためだよ、拓郎くん?

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