第8章 第二夜の幕開け①

娘の傷害事件の知らせを受けた良太と明子は仕事の一区切り付いた週末に自宅へと帰っていた。仕事終わりに電車に飛び乗り,帰宅が終電間際でクタクタな2人であったが、こんな夜遅くにもかかわらず今後のあり方について話し合っていた。

「奈津子が大怪我を負ったと言うのに直ぐに帰ってきてあげられないなんて母親失格ですよね」

「何を言ってるんだ、それを言ったら私だって家のことは任せっきりで父親らしいことを何一つやっていない。2人はきっと分かってくれているとは思うが、今回のことで奈津子がどれだけ傷ついてしまったか、それが1番気がかりだよ。何にせよ、今どうこう言った所で何も始まらない。まず明日見舞いに行ってから今後のことをじっくり話そうじゃないか」

「そうですね」

「お前も奈津子のことが心配でここ数日まともに寝ていないだろう。今夜だけでもしっかり休んで、逆に心配を掛けないようにしておかないとな」

「そうですね。久しぶりの我が家ですもの、ゆっくり休みましょうか」

「ピンポン」

結論が持ち越しとなったその時、訪問者を告げるインターフォンが鳴り響いた。


おばあさんの家は身体が覚えていて、足は自然と人通りが少なく,暗くて狭い道を選び歩み続けた。途中誰にも遭遇することなく目的地へとたどり着くと、オオカミの正体が気になりだした女はブロック塀の風抜き穴から室内の様子を見てみることにした。深夜にもかかわらず玄関灯や室内灯が点いていて、障子には時折人の姿が映し出している。

「・・・『アレはおばあさんの影だよね、きっとあたしを迎え入れるために起きてくれているんだわ』」

心に安堵感が広がり、オオカミのことなど一瞬にして忘れ去った女は玄関前まで歩み進んだ。ドアノブに手を伸ばした女は驚いた、ドアには鍵が掛かっていて中に入ることができなかった。

「・・・『えっ!どうなっているの・・・まぁいいわ、それだったらおばあさんに開けてもらえばいいのよねぇ』」

女はインターフォンへと手を伸ばした。

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