6章 豹変②

雨の勢いは時間とともに弱まり、窓の外は少しずつ静けさを取り戻し始めていた。少女はこの雨が自らの過ちまで洗い流してくれることを切に願いつつベッドで横になった。疲れを癒やすべく目をつぶってみたものの先ほどまでの過ちが走馬灯となって頭から離れない。

「・・・『あたしはなんてことを仕出かしてしまったのか・・・』」

少女は後悔の念から大粒の涙を流しながら頭から布団を被った。

「・・・『だけど、刃鎌を振り下ろした時に覚えたゾクゾク感、アレは何だったんだろう』」

この夜、少女は一睡もできずに朝を迎えるのであった。


朝になると明け方まで降り続いていたのが嘘のように晴れ渡り、辺りを太陽が照らしている。病院ではいつもと同様の主治医による回診が行われていた。

「佐伯奈津子さん、おはようございます。今朝は頭から布団を被って、ご気分でも優れないのですか」

「・・・」

奈津子は何も答えなかった。

「???『少しずつ明るさを取り戻し、昨日はあいさつまで返してくれたと言うのに今朝はどうしたんだ』」

医師は奈津子の状態を確認するべくそっと布団をめくってみた。布団の中では鋭利な眼差しでこちらを睨みつける女性の姿が

「・・・『これが佐伯奈津子さんなのか!』」

前日までとは風貌や雰囲気が明らかに異なり、まるで別人がそこにいるのではと思わせるぐらいの豹変ぶりであった。

「佐伯さん、何かあったのですか?それと包帯はどうされたのですか」

口元に巻かれていた包帯が外されていることに気がついた医師は奈津子の顔に触れて確認しようとした。

「うるさい、あたしに触るな!」

高圧的な態度に医師と同行していた看護師は驚きの表情を隠せなかった。

「わ、分かりました。今日は気分が優れないみたいですね。日を改めてまたお伺いすることにしましょう」

この場から早く立ち去りたくなった医師たちは今日の回診を諦め、病室を後にした。

「昨日までは治療に対して協力的で頑張る姿勢を見せてくれていたのに・・・君の方で何か聞いていないかね」

「私も先生と同じく驚いているぐらいで、今朝の申し送りでも昨日何かあったとか特別ことは聞いていませんね。ですが包帯が外れている所を見るともしかすると彼女、傷を見てしまったのではないでしょうか」

「もしそれが原因だとすると困ったことになるなぁ。佐伯さんにはもう少し時間を置いて、傷が目立たなくなってから見てもらうつもりでいたんだが・・・申し訳ないが君の方でもう少し調べてくれないか」

「分かりました、私も気になるので他の職員やお姉さんに昨日何か変わったことがなかったのか聞いてみます」

次の病室に移動途中で医師と看護師は奈津子の豹変ぶりについて振り返っていた。

「それとだ、昨夜の東くんのことなんだが、彼女はなぜあんな時間に彷徨いていたんだね」

「昨夜の綾夜さんは緊急待機の当番だったので深夜に出歩くとは考えづらいのですが・・・彼女が倒れていた場所は社宅と病院の間だったので病院からの緊急コールが1番考えられるのですが、昨夜、緊急コールは掛かっていません」

「つまりは東くんの回復を待って本人に直接聞いてみるしか手がないと言うことか。それにしてもここ数日で通り魔の犯行と思しき事件が2件も・・・セチがない世の中だね」

2人は続けて昨夜に発生した東綾夜の傷害事件について振り返っていた。

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