第13話 波乱の幕開け
翌日、庶民の入学式が行われた。本来なら参加する必要はないのだが、生徒会役員になったので参加せざるを得なかった。いつもなら三クラスほど庶民クラスがあるのだが、今年は貴族の入学生が多いため、一クラスしかなかった。
その中でも目立つ容姿の生徒がいる。ピンク色の髪を肩まで伸ばした少女。毛先はくせっ毛なのか、緩やかに外側にカールしていた。こいつだ。間違いない。目を引くような美少女のため、男子生徒たちが注目していた。
その子はそんなことを気にもとめず、涼しい顔でまっすぐに前を向いていた。他の女学生と同じように、壇上に上がった俺たちを見ていたようだったが、俺は一切視線を合わせなかった。
妙なウワサが立たないように、慎重に立ち回らなくてはいけない。少しの油断が命取りになるだろう。他の生徒会役員はというと、呆けたかのようにその子を見ていた。
いいぞ、むしろお前たちの方に向かってくれるなら、それはそれでありがたい。
殿下を含む他の生徒会役員と、ヒロインが無事にゴールしたときにどんなエンディングを迎えるのかは定かではない。しかし、さすがにクーデターエンドはないだろう。
殿下とヒロインが結ばれる可能性は極めて低いだろう。なにせ俺らには秘密結社オズがある。アホ王子を傀儡化するのはたやすい。最悪、みんなで殿下を無視すれば泣いて謝ってくるだろう。
残りの騎士団長の息子、魔法ギルド長の息子、先輩の生徒会長とゴールしたときは、様子を見つつ、オウンゴールとなりそうなら全力で潰す。これで大丈夫なはずだ。
一人皮算用をしている間に入学式は終わった。通常ならそこで解散するはずなのだが、生徒会長が俺たちが帰るのを止めた。生徒会室に集めると、改めて俺たちに向き合った。
「生徒会役員の中に、各学年から一人は庶民の者を入れなければならない決まりになっているのだよ。だれがいいか、みんなに選んで欲しい」
生徒会長は個人データが満載の履歴書のようなものをドンとテーブルの上に置いた。庶民にプライベートはないな。さすがに顔写真はないので、顔を見るまではだれなのか分からないけどね。
「あのピンクの髪をした方はどうですか? あれだけの容姿をしていれば、目立つことは間違いないでしょう。そうなると、トラブルも多くなるはず。保護するわけではありませんが、生徒会で囲うのも一つの手かと」
したり顔で魔法ギルド長の息子、ギルバートが言った。それに賛成する騎士団長の息子、アレク。そう言えばこいつら二人、まだ婚約者がいなかったな。どっちも爵位は男爵だし、庶民から嫁をもらうことには問題がない。
「そうですね。彼女の周りで問題が発生すると、学園全体に悪い影響を及ぼすかも知れません。良いでしょう。彼女を生徒会役員に入れることにしましょう」
生徒会長も以下同文。生徒会長はそう締めくくった。おい、勝手に決めるんじゃないと思って殿下の方を見ると、まったく興味がなさそうだった。
そりゃそうだよね。ヒロインよりも、もっと美人でスタイルも抜群の婚約者がいるしね。興味がないのも仕方がないか。俺も興味がない。リアの方がどちらも上だ。
しかし、こんなにスムーズに生徒会役員に決まるとは、何か因果めいたものを感じるな。ちょっと怖くなってきたぞ。だが、相手にするかしないかは俺たち次第だ。俺はこれまで通り、リアと良い関係を築いていく。それだけだ。
話し合いは五分とかからずに終わった。だが、これだけは言っておいた方がいいだろう。反対意見がなく、満足そうにしている三人に声をかけた。
「あなた方三人でそう決めるのならそれで結構です。ですが私はこの件に関しては一切責任を取りませんから、そのおつもりで。彼女について何か問題が起こっても、殿下と私は無関係。当然でしょう? あなた方は私たちに意見を求めなかったのですから」
え、それは、とか聞こえてくる。このメンバーの中で実質的な権力を持っているのは殿下の次に俺である。そして殿下は俺たちの操り人形。事実上のトップは俺である。
「それでは私たちはこれで失礼いたします。行きましょう、レオン様」
「ああ、そうだな。行くとしようフェルナンド」
俺はわざと殿下を名前で呼んだ。親密さのアピールである。それに気がついた殿下も合わせてきた。どうやら殿下も思うところはあったらしい。そりゃ一言もなく決められたらカチンとくるか。いつもその切れがあれば俺たちもこんなに苦労することはないのに。
秘密結社のメンバーは必ず殿下におうかがいを立てる。そして殿下から意見をもらいつつ、バレないように誘導してゆくのだ。君たちとはくぐってきた修羅場の数が違うのだよ。
「レオン様、帰りに例の場所に寄って行きませんか?」
「おお、さすがはフェルナンド。手配してくれていたのだな」
「もちろんですとも」
そう言って俺たちは仲良く帰路に就いた。停車場で王家の馬車に乗り込むと、最近できたばかりのカフェへとお忍びで向かった。もちろん、デートスポットとして使うつもりである。
家に帰り着くと、来客室でリアが待っていた。リアが伯爵家に来るのは珍しい。普段は俺が公爵家に行くようにしている。もちろん、リアの安全のためである。
「ごめん、待たせてしまったかな?」
「別に待ってなどおりませんわ。今来たばかりですわ」
そう言いながら優雅な手つきでお茶を飲むリア。使用人によると小一時間ほど待っていたらしい。申し訳ないことをしたな。殿下とカフェの下見に行っている場合じゃなかった。これは誤解を招く前に、何をしていたかを正直に話しておいた方がいいだろう。秘密はなしだ。
「生徒会長に捕まってしまってね。何でも、庶民から一人生徒会役員に入れるのが通例らしい」
「まあ、そのようなしきたりが? 生徒会役員は王立学園の生徒の憧れですわ。突然の仕事が入るのも仕方がありませんわね」
リアの目元が緩む。納得してくれたようである。リアはそのまま俺を見つめていた。
「それで、少々厄介なことになってきた」
「どういうことですの?」
「その庶民の生徒会役員を、殿下と俺を除いた三人で決めたんだよ。俺たちの意見は求められなかった」
「まあ。殿下は何も言わなかったのですか?」
目を大きくしたリアに、無言でうなずいた。そうだよね、普通はおうかがいを立てるよね。腐ってるけど殿下だもの。
「興味がなさそうだったよ。そしてその人物が問題だ。明日になれば分かると思うが、男性受けしそうな容姿なんだよ」
「何ですって!? まさか、フェルもその人が?」
「それは絶対にあり得ない。俺にはリアがいる。俺はリアと添い遂げる」
俺の宣言に真っ赤になったリア。王立学園を卒業したら、早々に結婚式を挙げることになっている。それには両家も賛成している。もちろん準備も進んでいる。
「それなら問題はないのでは?」
リアの疑問に、俺は頭を振った。問題はある。
「あの三人は見た目だけでその子を選んだ。つまり、中身は一切見ていない。もしかすると、悪女の可能性だってある。それに、三人が取り合うことになるだろう。どれだけ生徒会が混乱するかは分からない」
リアがハッと息を飲んだ。何かあれば生徒会役員が責任を取ることになるだろう。厄介事に巻き込まれたと俺は思っている。リアもそう思ったのだろう。
「生徒会役員を辞退することはできませんの?」
「難しいだろうな。俺がメンバーに加わったのは殿下の意向だからな。その殿下は王立学園の決まりで生徒会役員に必ず組み込まれることになっている」
「権威のためですわね。いやらしいですわ」
整えられた眉をギュウギュウと寄せるリア。その様子に思わず笑ってしまった。
「な、何ですの? 何で私の顔を見て笑っていますの!」
「ごめんごめん、美人が台無しだなと思ってさ」
「な、び、美人が台無し!?」
風船のように膨れたリアはすぐにうつむいて顔を隠してしまった。俺の婚約者は今日もかわいい。
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