第3話 移し合うモノ


 熱帯夜。

 エアコンがあれば何も問題ないはずなんだけど……

 2台とも調子が悪く、効きがよくない。

 

 ミホだけでも涼しくなって欲しいから、氷枕を作ってミホに渡す。

 窓を開けて、扇風機もつけて。

 ハッカ油を少しだけ枕元に付ける。

 なんとなく、涼しさを感じるかな?


 汗ばみながらも、ミホは寝てくれた。


 お腹がすぐ出ちゃうから、定期的に服を元に戻す。

 ミホが起きるまで、私は起きてなきゃ。


    ◇


 夜が明けてきた。

 また気温が上がり始める。


 ミホがもぞもぞしている。

 そろそろ起きるのかな。


「ん……アキ、おはよう」


「おはよ── 」


 急にフラフラとして。

 目の前が真っ暗になり、意識はそこで途絶えた。


    ◇


「あれ? 私……」


「良かった、気がついて。具合はどう?」


「ミホ……仕事に行かなきゃ」


「いいよ、今日は休むから。アキ、熱測ったら高かったよ?」 

 

 体が重たい。

 少し無理がたたったのかもしれない。

 でも、そんなの理由にならない。

 ミホに迷惑をかけた。

 私は……


「……アキ? どうしたの? どこか痛む?」


 涙がポロポロと。

 一度流れ出すと止まらない。


「ミホ……ごめん……なさい……」


 絞り出すように声を出す。

 流れる涙を、ミホは口で掬って、そのままキスをしてくれた。

 

「ミホ……ダメだよ、風邪だったら移っちゃうから……」


「拒否権はない筈でしょ? いいから私に移しなさい」


「でも……」


「返事は?」


「……はい」 


 いつもより長く、濃く。

 頭がボーッとするのは熱のせいだけではない。

 

「アキ、風邪の匂いがする」


「うん……移っちゃうよ……?」


「いいよ、アキの風邪だったら」


 エアコンは壊れたまま。

 二人で重なると、余計に熱くて。

 修理業者が来るまで、何回も何回も。


 この部屋の熱気に、業者の人は驚いたかな。

 無事エアコンは直り、次の日私の熱は下がった。


    ◇


「ケホッケホッ……」


「ミホ、ごめんなさい。私の風邪が……」

 

「いいの、私がアキの菌を吸い取ったんだから。アキが元気になってくれて良かった」


 優しい笑顔でミホは話す。

 私に出来る事は……


「っ!? アキ?」 


「ミホの菌、私に頂戴」


 今度は私が吸い取る番。

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