第2話 お互い様


 朝、目が覚めるのは5時前。

 今の季節、外はもう明るい。


 ミホを起こさないように、抱きつく手をゆっくりと剥がす。

 音も立てずに顔を洗う。


 始めるのは、ミホのお弁当作り。

 昨日の夕飯の余り物と、ミホの好きな葱を入れた玉子焼き。

 大変な仕事の中、少しでも元気が出るようにご飯をうさぎの形にする。

 目もつけて、可愛いお弁当。

 見た時のミホを想像して、口元が少しだけ緩む。

 

 ミホはいつもギリギリの時間に起きるから、歩きながら食べられるゼリー飲料を用意してある。

 万が一早めに起きたら、シリアルを出そう。


 今日は天気が良いみたいだから、早めに洗濯をしないと──


「アキ、おはよう♪」


 不意に後ろから抱きつかれる。

 いつもより一時間は早い。


「おはよ。ごめんね、音うるさかった?」


「ううん、たまたまだよ」


 そう言いながら、私を求めてくる。

 拒む理由もない。

 脱衣所で、朝から。


「アキ、もっと声出していいんだよ?」


「ここじゃ隣に聴こえちゃう。お願い、リビングに……」


 それを分かってか、いつも以上に苛められる。

 口を塞ぐ手は、すぐに離されて。

 

 洗面台の鏡越しに見えるのは、厭らしい顔をしている私。

 ミホはとっても興奮してる。


 寝室で鳴り響く時計。

 ミホがいつも起きる時間だ。


「ミホ……準備しないと」


「これからなのにー……帰ったら続きだからね? ふふっ♪」


 どこか嬉しそうなミホ。

 朝はいつも憂鬱そうだから、少しは役に立てたかな。


「じゃ、行ってきまーす。待っててね、子猫ちゃん♪」


「ミャア」


 猫の真似。

 それはミホのスイッチを入れてしまう。  


「ミホ……遅刻しちゃうよ……」


「ちょっとだけ……イヤ?」


「……ううん。来て」


 朝からミホで満たされる。

 幸せで、つい声が大きくなってしまう。

 この部屋の前を通る人がいたら、きっと驚く位。

 

「ミホ……」


「その顔と声……堪んない」


 結局、30分も遅刻して行った。


 しばらく玄関に立って、先程の感覚を思い出しては顔が熱くなる。


 ミホがいない半日。

 募る思いをしまい込んで、掃除と洗濯。


 それでも、つい溢れ出てくる思い。

 ミホの匂いが付いている服を抱きしめる。


    ◇  

 

「アキー、ただいまー♪」


「おかえりなさ── 」


 朝と同じ場所。

 色々な匂いのするミホ。

 でも、ミホの味は変わらない。


「よし終わり! お風呂に入ろっかなー」


「えっ……」


 もう終わり?

 体が疼く。


「ミホ……その……」


「ん? なぁに?」


 そう返事をするミホはどこかニヤついて。

 分かってて私の反応を伺っている。

 

「……もっと」 


 そう言うと、ミホの気持ちが高ぶっているのが見て分かった。

 でもまだ足りないみたい。


「もっとなに?子猫ちゃん」


 イジワルなミホ。

 でも、言い返せない。

 だって私は……


「もっと……して下さい。御主人様……」


 その言葉だけで、ミホは恍惚の表情をしている。

 そのままベッドまで抱きかかえられて、私が動けなくなるまでミホは私を貪った。


    ◇


「ごめんねアキ、大丈夫?」


「動けない」


 腕の中で丸まっている私を、ミホは優しく抱きしめてくれる。


「ふふっ、お腹空いたけど……もうちょっとこのままでいよっか」


 撫でてくる手が心地よい。

 段々と、瞼が重たくなってきた。

 ミホを見ると、うつらうつらとしている。

 ……もう少しだけ、このままで。

 

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