御主人様はOfficeLady

@pu8

第1話 雨が止む頃に

 降りしきる雨は止む気配をしらない。

 除湿を効かせた冷房が心地よい。


 小さな魚に餌をやり、部屋の掃除をする。

 洗濯は……干せそうにない。

 後でコインランドリーで乾かそう。


 もうすぐ9時。

 あの人が仕事から帰ってくる。

 徹夜して日を跨いでの土曜日の朝。


 お風呂はちょうど沸かした。

 ご飯も温めれば出来るばかりにしてある。


 階段を駆け上がる音がする。

 私の胸が高鳴る。


 ガチャッ

 

「アキー! 寂しかったよね? ごめんね……でも私も寂しかったー!!」


 そう言って抱きしめてくれたのは、この部屋の持ち主‘’東 美保あずま みほ‘’ 

 ちなみに私はアキ。


 私を撫で回し、頬擦りをしてくる。

 髪の毛がくすぐったい。


「ミホ、お風呂とご飯どっちがいい?」


「うーん……アキがいいかな」 


 そう言われるのも織り込み済み。

 体は綺麗にしてある。


「でも……さっぱりしたいな、一緒に入ろうよ」


    ◇

  

 小さなバスルームに二人。


「でね、あのクソ上司が── 」


 ミホの会社の愚痴。

 ミホの一日が聞けるから、嬉しい愚痴。

  

「アキの体は抱き心地が良いなー。ぷにぷにしてる」


 私の後ろからミホが抱きつく形で湯船に浸かる。


「少し太ったのかな……運動しないと……」


「後でお散歩行こうよ。アキと行きたいお店があるんだー」


「ついでにコインランドリー行きたい」


「じゃあ乾くまでプラプラしよっか。ね♪」 


 ミホは仕事帰りで少し疲れた顔をしてる。


「ミホ、今日はゆっくりでもいいよ?」


「ふふっ、アキとデートしたいの。いいでしょ?」


 デート、その響きで少し顔が熱くなる。

 お風呂で上せたのか、それとも……


「……照れてるの? 可愛いんだから」


 振り向き、向かい合わせになる。

 ミホの豊潤な場所へと顔を埋める。


「よしよし……もっとしてたいけど、上せちゃうから出よっか」


    ◇


 ミホに髪を乾かしてもらう。

 私の好きな事の一つ。


 温風と、ミホの手が心地よい。


「ふふっ、なんだか猫みたい」


「ミャア」


 なんて、猫の真似。

 そしたらミホのスイッチが入っちゃったみたい。


 そのまま口を塞がれて、押し倒される。


「──っ……ミホ、お出かけは?」


「雨が止んでから。いいでしょ?」


「うん」


 この頃雨ばかり降っているから……止んで欲しいのと、欲しくないのと。


 一週間頑張ったミホは足りなくなった何かを補うように、私を貪った。

 

 子猫のような鳴き声で。

 それにミホは唆られたみたいで、私はまた食べられる。


「ミホ……」


 か細い声で名前を呼ぶと、微笑みながら手を繋いでくれた。

 この時間が、凄く好き。


 いつしか雨音よりも、鳴き声の方が大きくなって……

 気がつけば雨は止んでいた。


「雨……止んだね」


「じゃあお出かけしよっか」  


「ミホ、元気だね」


「ふっふっ、アキ成分を補充したからね♪」


 仕事から解放されたミホ。

 自分の時間も、全て私に費やしてくれる。


 私はミホといれるだけで幸せ。

 でも、ミホは私にもっと幸せになってもらいたいみたい。


「アキ、行くよー」


「はーい」


 玄関ドアを開けると、蝉たちが元気に鳴いていた。

 クラクラとさせるお日様が眩しい。


「ほら、帽子かぶって……よし。アキは今日も可愛いね♪」


 私の為に買ってくれた可愛い帽子。

 自信は無いけど、少しだけ可愛くなれる気がして。


 手を繋いで、少しだけ前を歩くミホ。

 この後ろ姿も、好き。


「アキ♪」


「なに?」


「ふふっ、大好き♪」


 私はアキ。


 この人に、飼われている。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る