第27話 元カップルとユウキ
※優希※
文化祭二日目。
その日の朝、俺は昴に呼び出された。
一日目よりも二日目の方が開演時間が早いので、すでに準備を始めているクラスもちらほら窺える。
「笹川にフラれた」
「っ!」
脈絡などない唐突な昴の言葉に、俺はごくりと息をのんでから「そうか……」と呟いた。
途端にごめんという言葉が出そうになるが、昴に掛けるべき言葉ではないと思い口を閉じる。
「俺、前に言ったよな『謝罪とかはいらねぇぞ。俺が振られたのは俺に魅力が足らなかったからだ』って」
それは、夏祭りの次の日、昴が俺の家に来て言った言葉。
「今回もそうだ。笹川にとっての優希を、俺は越えられなかった。ただそれだけだ」
昴は「あー畜生……」と言いながら空を見上げる。
それが、思い出して溢れそうになる涙を堪えるためか、好きな人の想い人である俺を見るのが辛いからなのかはわからない。
「……だから…………しっかり決着つけてこいよ」
「……おう」
俺がするべき行動。
それは、昴や真昼の気持ちに応えること。そして、笹川とちゃんと向き合うこと。
陰キャだろうが陽キャだろうが関係ない。
託してくれた────信じてくれた────繋いでくれた────人達の願いに応えたい。応えられる人間でありたい。
「ありがとうな昴」
瞬間、学校の屋上に冬を報せる冷たい風が吹いた。
※萌結※
文化祭二日目。
午前の内にシフトは終わり、あとは自由時間となった私だが、一つ不安なことがあった。
それは、佐々木との約束のことである。彼も私に話したいことがあると言っていたが、二日目の昼にして、私はまだいつ話す場を設けるのか聞いていない。
よもや忘れているわけではあるまいな???
そう一度思ってしまうと、マジであいつが忘れている可能性を考え始めてしまう。
もう一度言った方がいいのだろうか……?
だけど、急かしてるみたいに取られるかもしれないし。
あいつのことだ「中学では天下の笹川様だった人がこうも落ちぶれるとはな!わはは!」なんてことを言いかねない。
正直、すでに引き立て役としての私は破綻している。もう私は中学の時のような陽キャとしてしか動けない。
……となると今度は陽キャとしてのプライドが……。
私、めんどくさいな……。
すると、
「あ、萌結じゃ〜ん」
「ほんとだ〜」
「…………久美、裕美」
私に声を掛けてきたのは中学時代の同級生。
元から派手な方だったが、高校生になり一段と派手になったらしい。
「みんな派手になったね」
「そりゃそうでしょ、華のJKだよ?むしろ萌結は大人しくなった感じ〜」
おちゃらけてるが意外と鋭い久美。
すると裕美が「そういや知ってる?」と話を振る。
「中三の時に佐々木って奴いたじゃん?あいつこの学校にいるらしいんだよね。萌結知ってる?」
「……うん。同じクラス」
私がそう言うと二人は「うわー最悪だわ」と言う。
…………やめて。
「完全にストーカーじゃん!別れたのに追いかけてくるとかキモすぎ!」
「ありえなくない?身の程を知れっつーの!」
ぎゃははっ、と佐々木を好き放題笑い者にする二人。
……………………やめてよ。
「萌結も不運だね。しかも笹川と佐々木だから席も近いんじゃない?」
彼女らに悪意はないのだろう。サンドバッグなら、いくな殴る蹴るした所で問題ないと思っているのだろう。
中学の時も、浮かれ気分だった私に水を差してきたのは彼女らだった。
私が興奮のあまり口を滑らせ、佐々木とのことを言ってしまったのを皮切りに、私と彼への誹謗中傷が酷くなった。
「萌結もダメだよ絆されちゃ。ああいう陰キャは少し優しくしただけでその気になるなら」
「やめてよッッッッッッ!」
次の瞬間、私は何かが切れたように怒声を張った。
予想外の私の言葉に、二人は「と、どうしたの萌結」と私が何かの気の迷いで叫んだのだと声を掛ける。
けれど、
「いつまでも佐々木のことを悪く言わないで」
「は?!萌結何言ってんの?!佐々木だよ?」
「だから何、佐々木が佐々木であることの何が悪いのよ」
「いやだから、どう見たって陰キャじゃん。萌結とは釣り合わないって」
「釣り合う釣り合わないなんか、あなたに決めてもらいたくないわ久美」
私は今、保身という呪縛から解き放たれた。
私はもう、私の大事な人を傷付けさせない。
「二人がバカにする佐々木はもういない!彼は人一倍頑張って努力して、あなた達より立派な人間になってるわよ!」
「萌結それ本気で言ってんの?陰キャはいくら頑張っても陰キャだし、ましてや佐々木が萌結と並び立てるわけないでしょ!ていうか、それが久しぶりに会った親友に対する態度なわけ?」
「私の大事な人を傷付ける人なんか親友じゃないッッッ!」
久美は「なっ……!」と言い、裕美は「久美、もうよそうよ」と久美を宥めるが、久美の怒りは収まらない。
「あんたいい加減に……ッ!」
「っ!」
久美が右手を振り上げる。
私は咄嗟に目を閉じて、次の瞬間来るであろう頬への痛みに備える。
「おい、そこまでにしろ」
頬に衝撃が来ることはなく、よく聞き馴染んだその声だけが私に届き、私はそっと目を開ける。
「あんた誰よ。部外者は黙ってて!」
「部外者?ゴミってのは人の顔もまともに覚えらんないんだな」
「はぁっ?!だからあんた誰よ!」
すると彼は勝ち誇った顔で言った。
「お前がさっきまでバカにしてた佐々木優希ですが何か?」
「「…………え?」」
うわぁ、めっちゃドヤ顔してる。
それもそうだ。さっきまでド陰キャだとバカにされていたのだ、ドヤ顔で自分の成長を見せびらかしたいのだろう。
「……同姓同名の人……?」
「○○中学卒業、佐々木優希ですが?」
「じゃあ何……!本当に……?」
「あぁ本当。でさ、俺そこの笹川に用があるんだわ。貸してくんね?」
「はぁ?!見た目が変わっても空気は読めないのね!今親友との感動の再会……」
「さっきそこ笹川は、親友じゃないって言ってたけど?」
「────ッ!」
佐々木の言葉に久美は言葉が出なくなる。
裕美は「久美、もう帰ろ……」と久美を宥めるが、久美は「でも……っ!」とまだ私に言いたいことがあるらしい。
すると、ついに我慢の限界が来たらしい佐々木が私の右手首を強く引っ張った。
「んじゃ、借りてくわー」
私はなんの抵抗もせず引っ張られるままに歩く。
ふと、私の手を引く彼の横顔を見た。彼の表情はちょっと怒っているように見えた。
私の
今の時間帯はちょうど昼時なので、ほとんどの客が飲食店に入っており階段を移動する人は少ない。
「……それで、用があるんでしょ?」
「あ、あぁ」
冷静を装った私が話を振ると、彼は慌てて話を切り出す。
「今日、後夜祭あるだろ?」
後夜祭。
うちの学校では例年、校庭でキャンプファイヤーをやるのが慣習になっている。とはいえ、まだまだ新設校だから伝統になってるわけじゃないので、やらないという選択肢もあるらしい。
まさかそんな目立つ場所で…………?
「それ、俺と教室で見ないか?」
「っ!」
佐々木が話し合いの場に選んだのは校庭で行われる後夜祭を一望できる教室。校庭で話すよりも、私たちの関係に決着を着けるのには
一体どこでこんなロマンチックな方法を教わってきたのか…………中学の時の佐々木なら到底考えつかないだろう。
「うん、わかった」
私の返事は最初から決まっている。
彼は「そんだけ、じゃあな」と言って去っていく。
具体的な時間は決めない。それは、私が佐々木に告白した時と同じように。
そして、決着の時はすぐに来る────
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