第26話 元カップルは決意する
※萌結※
佐々木と真昼が別れた。
昨夜、明日に備え早く寝ようと思っていた私ところに真昼から電話があり、佐々木と別れたことを報告された。
真昼は「それだけ言いたかった」と言って通話を切ってしまった。
だが正直あの時の私がどんな言葉を掛けたところで、真昼には偽善の言葉にしか聞こえなかっただろう。
むしろ真昼に助けられたのかもしれない。
「はぁ……」
「ため息つくと運気が下がるらしいぞ」
「っ!」
聞こえたのは聞き馴染んだ声。
今日は文化祭当日。クラス委員の私は、一人で出来ることがあればと思い、いつもより早く投稿することにしたのだが、どうやら彼も同じ考えだったらしい。
「……おはよ」
「おは。今日、楽しみだな」
「う、うん……」
昨日真昼と別れたばかりなのに何故か暗い表情じゃない佐々木。
彼はうーんと背伸びしながら「いっちょやるかー!」と自分を鼓舞する。
今、私と彼は二人きり。朝早いため登校している生徒の中に私の知り合いはいない。
ならば今しかないだろう。
「優希、お願いがあるんだけど」
「……?」
どうやら彼は私が下の名前で呼んだことよりも、お願いの中身に興味があるらしい。
「明日、私に少しだけ優希の時間をくれませんか?」
瞬間、ドクンッと大きく心臓が跳ねる。
真昼に言われた言葉の通り、再び私たちを動かすのは、私の責務だろう。それが例え、引き立て役になった私だとしても。
佐々木────いや、優希は、何ら驚きの表情を見せるわけでもなく私に言った。
「あぁ、ちょうど俺もお前に話したいことがあるんだ」
※優希※
笹川と話す時間を設けるという約束をした。
俺が笹川に話したいこと、それはオリエンテーションに行くバスの中で聞かれたあの言葉に対する返答だ。
あの時は誤魔化してしまったが、今こそ言うべき時だろう。
昨日、俺は真昼と別れた。
最期は別々に帰ろうということで、真昼は俺を先に見送った。
同じ別れなのに、どうしてあの時とこうも感触が違うんだろうか……。
「おはよ、優希」
「……お、おはよう」
教室に入るとすでに数人来ていて、その中には真昼もいた。真昼は真っ先に俺に挨拶する。
いつも通りの明るさで、いつも通りの真昼だ。
多少はギクシャクするかと思われたが、真昼がいつも通り接してくる以上、俺も変に構える必要はないだろう。
昴には昨日のうちに電話し、真昼と別れたことを伝えた。本人は「そっか……」と苦虫を噛み潰したような口調で俺の言葉を聞いていた。
「ほらー!ちゃっちゃと準備するよ!」
真昼が呼び掛け、教室内にいた生徒数人が「おぉー!」と拳をあげる。
そしてあっという間に文化祭開始時間となった。
『────只今より、第〇回、椿高校
校内外にアナウンスが流れ、一気に廊下は人でごった返した。
一番最初の時間にシフトを入れた俺と昴はメイド服を着て、客を案内したり会計したりする。
喫茶店でバイトをした接客スキルがまさかこんな所で火を噴くとは……。
すると、
「お、やってるやってる」
やって来たのは我がクラスの担任、田川先生。
俺は田川先生を案内しつつ、ふと気がかりなことを聞いた。
「早速来たんですね、旦那さんは一緒じゃないんですか?」
「来ないらしいわ…………ちぇっ」
「田川先生怒ってます?」
「怒ってないっ!でもおかしくない?!嫁の職場のイベントよ?なんで来ないのよ!」
え、えぇ……。
そんなこと俺に言われても……。早く注文取って他のお客さんを案内しよう……。
「どこに行こうと言うの佐々木」
「ひぇっ」
「聞いてよ!『俺が行くと凛が気を遣うだろ?だから行かない』って!せっかくチケットあげたのに!」
ウルトラエクストリーム平和な夫婦じゃないか。なんだ、俺は惚気話を聞かされてるのか?昨日彼女と別れたばっかだぞ!
「ようは旦那さんと文化祭を回りたかったけど、先生の立場を考えて断られたから怒ってるんですね」
「だから怒ってないって言ってるじゃないっ!」
ちなみに、うちのクラスでは田川先生の家庭がおしどり夫婦なのは浸透していて、もはやいじりになりつつある。
すると田川先生は「ところで……」と話を切り替える。
「佐々木くん、悩みがあるんじゃない?」
「えっ……?」
唐突に振られたその言葉に俺は驚愕する。
どういう意図でこの話を切り出しているんだ……?
「今日の……いえ、ここ数日の佐々木くんは、どこか悩んでいるように見えるけど?」
「急に先生らしさ出さなくていいですよ」
「うぐっ……。ち、違うわ!私は教師として生徒の相談に乗るという使命があって……!」
使命があるから!とどうにかして俺に悩みを吐き出させたいらしい田川先生。
とはいえここはクラス有志の喫茶店。俺は店員で先生は客。俺の悩み事は明らかにここで話すようなことではない。
「先生、俺もうあと十分くらいでシフト終わるんで、その後って空いてますか?」
※萌結※
佐々木と約束をした。
彼も、私に話したいことがあるという。
文化祭開始早々に真昼とはぐれた私は、そろそろ第一弾のシフトが終わる頃だろうと思い教室へやってきた。
すると既に最初一時間の人のシフトは終わっていたらしい。杏奈が持ち前の接客スキルで男性客に高い物ばかり注文させていた。
すると着替えを終えた中村くんが教室から出てくる。
「お、笹川。一人でどうしたこんな所で」
「……真昼と、はぐれちゃった」
「あらら……。じゃあさ、俺と回らね?」
「…………うん、いいよ」
自然な流れで私を誘った中村くんに承諾の意を返す。
佐々木と話す前に、私にはやらないといけないことがある。
私と中村くんは、いくつかの有志を回り、校庭に設置された仮設飲食店でチョコバナナを買ったりたこ焼きを買ったり。
まさしく文化祭デートと呼ばれるようなことをした。
そして一日目も中盤にさしかかった頃。人混みを避けた所にあるベンチで軽食を食べていた私に、中村くんは突然切り出した。
「そろそろ、返事もらえないか?」
「っ!」
私がいつ言い出そうかと悩んでいたのを見透かしてか、中村くん自らその話を振ってきた。
彼は私の横顔を決して見ない。
「俺、こんなに恋愛に必死になったの初めてでさ……。上手くやれてるかずっと不安で仕方なかった」
「……うん」
「それでも俺なりに頑張ってきたつもりなんだ」
瞬間、辺りの雑音が消え、世界は私と中村くんだけになる。
彼は、やっと私を見つめて言った。
「好きです。俺と付き合ってください」
「ごめんなさい」
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