第12話 元カップルと正ヒロイン
※優希※
「なぁ優希。お前に相談がある」
「どんとこい」
あっという間に時は過ぎ去り六月に入ったある日の放課後、俺は昴にそう告げられた。
友人の相談に乗るのも陽キャの務め。ここは俺の的確かつためになるアドバイスをしてやろう。
「今からする話は超トップシークレットな話だ。間違っても他言はするなよ」
「任せろ、俺は他人からの相談内容を漏らしたことは無い」
なお、中学の頃はそんなことを相談してくる友人もいなかった。
う、嘘は言ってないはずだ。
「いいか?一回しか言わないぞ?」
「わかったから早く言えよ」
ここまで引っ張ったんだから相当ビッグなやつで頼むぜ。
俺はそう願いつつ、昴の相談を聞く。
「彼女が欲しい」
「わかる」
季節は春から夏へと移り変わる時期、夏といえば?
海、お祭り、花火!
こうして陽キャに成り上がったのだ、そろそろそういう青春ぽいことをしたい。
しかし、陽キャになればなるほど告白はしないものだ。
陰キャオタクの童貞は、ちょっと女の子に優しくされたり、ちょっと女の子と話した、だけで簡単に好きになってしまい、後先考えずに告白してしまう。
成功すれば儲けものだが、現実は失敗する可能性の方が圧倒的に高い。
そしてクラスから孤立し、陰で「身の程を知れ」と揶揄されるようになる。
そして優しい女子が気を遣って話しかけたらまた好きになり…………を繰り返す。
これを陰キャスパイラルと言う。←命名俺
その点、陽キャは頭が回る。
ちょっと女の子に優しくされたり、ちょっと女の子と話す程度じゃ好きにならないし、仮に好きになったとしても気持ちを伝えたりしない。
なぜなら、その人と恋仲になるより周囲の関係を大事にする。それが陽キャだからだ。
告白に失敗したら、以前のような関係では必ずいられなくなる。
後先を考えない陰キャに対し、陽キャというのは後先をしっかり考え、それなりの確信、動機を得て、告白の成功率が百パーセントになった時に告白するものだ。
「一ヶ月後には期末テストだ。それが終われば夏休み!」
「彼女とイチャイチャして過ごしたい!」
「さすが優希だ、わかってるじゃないか!」
意識を昴との会話に戻した俺は、昴と熱く語り合う。
だがここは陽キャ。選ぶ相手は仲間内ではなく、それなりに仲はいいが仲間内ではない女子を…………
「俺、笹川めっちゃタイプなんだけど」
……………………今なんて?
ちょっと待て、俺の聞き間違いかもしれない。
「悪い、もう一回言ってくれ」
「やめろよー恥ずいんだから…………笹川めっちゃタイプ」
聞き間違いじゃなかったわ。俺の耳は正常でした。体に異常なしイエーイ!…………じゃねぇわ!
確かに昴は今、笹川がタイプと発言した。二回聞いたんだから間違いないだろう。
なるほど、確かに笹川の容姿と昴の容姿は釣り合っている。そしてどちらも陽キャグループに属しているから、昔の俺たちのように陰口を言われたりはしないだろう。
「いいんじゃないか?俺も応援するぜ!」
ここは二人の友人として強く押し出していこうと思う。
昴のような魅力的な男性は、あの女には勿体ないとしか思えないが、本人がいいと言うのならばいいのだ。
「ありがとよ!さすが優希だ!」
「任せておけ、俺は告白に失敗したことがない!」
なお、告白したことも無い。
「そりゃ頼もしいな!頼むぜ優希……いや、先生!」
「任せていろ!完璧なアドバイスをしてやるぜ!」
はっはっはっはっ────
────その夜。
どうしよう……告白なんかしたことないからどうやって雰囲気をもっていけばいいのかわからん…………。
俺は己の軽率な発言に頭を悩ませていた。
大体、まともな恋愛が出来た試しのない俺に、まともな告白なんぞ思いつくはずもない。
完璧なアドバイスってなんだ???
「ぐごぉ……あっ」
いやある!まともな恋愛も、女子に告白したこともない俺でも出来るアドバイス!
思いついた俺はある一冊の本を取り出す。
それは俺が中学三年の三学期、陽キャに成り上がるため必死に読み込んだ漫画。
────少女漫画『何度でも私は君と恋をする』
シリーズ物の第一巻。そこには恐らく商業的に成功するためだが、読んだ人をキュンキュンさせるようなシーンが詰まっている。
ヒロイン相手に徐々に距離を詰めていき全十巻で無事完結する作品だ。
俺の陽キャのバイブルとなった作品。
「よし……!」
俺は漫画の一ページ目を開く。
全ては昴のため、俺に取れる手段はここにある────!
────そんなことがあった翌日の昼休み。
いつものように集まってお弁当を食べていると、真昼がとある提案をしてきた。
「みんな今度の休み空けてる?」
「ほぉんほぉのひぁしゅみぃー?」
「飲み込んでから話せ」
俺は笹川にそうツッコミを入れつつ、真昼の話を広げる。
「俺は空いてるな」
「俺もだ」
「私も」
俺に続くように昴、笹川が答えた。
すると、真昼はピシッと右手の人差し指を立てる。
「みんなで遊園地に行かない?」
遊園地!
四月から仲の良い俺たちだが、なんだかんだで四人揃って遊びに行ったことは無い。
そして、
「(やったな昴!チャンス到来だ!)」
「(うおぉマジか!いきなりやんの?!)」
何を言う。恋愛は早い者勝ち。そう、スピードが肝心なのだ。
アタックを始めるのに、遅いということはない。
「いいね行こう!」
これは絶好の機会だ!
昴に笹川を早々に押しつ……じゃなく、二人に早く付き合ってもらい、笹川が俺に注意を向けなくさせる。
そうすれば俺は脅される心配はなくなり、思う存分青春を謳歌できる!
「なにげ、みんなで遊びに行ったことってカラオケ以外に無いしね」
「じゃあ今週の週末ね!場所は────」
※萌結※
ついに真昼が動いた!
遊園地。数多あるアトラクション。ジェットコースターやお化け屋敷は、佐々木と距離を詰めるのには丁度いい。
特に断る理由もないので承諾してしまったが、もしかしたら私は大きな過ちを犯してしまったかもしれない…………
「いや別に好きとかじゃないから!!!」
「どうしたの萌結〜?」
「な、なんでもないっ!」
階下にいるお母さんに聞こえてしまうくらい大声で叫んでいたらしい私は、慌てて誤魔化す。
そもそも私の部屋には私以外いないのだから声を出す必要も無いのだけれど…………。
そう、別に好きとかじゃないのだ。ただ、真昼みたいな可愛い子が佐々木なんていう策士に溺れそうになっているのを止めたいのだ。うん、そうに違いない。
応援したい気持ちもあるが、応援したくない気持ちもある…………。
こうなったら真昼の意志を確認しよう。
私は思うがままに指を動かしスマホを開く。そして、トークアプリの通話ボタンを押す。
『はいはーい?』
「もしもし、私だけど。今ちょっといい?」
『うんいいよー』
よし、真昼の意志を確認する質問はもう決めている。
私は「ねぇ真昼」と言ってから、
「仮に付き合うとして、陰キャ男子ってどう思う?」
『んー、なしでは無いけどありでも無いかな』
真昼の言葉に私はどこか刺さるものを感じる……。
いけないいけない!今はそんなことを思ってる時間じゃない!
「じゃあ、元々陰キャだったけど、今は陽キャっぽい人ってどう?」
『いいんじゃないかな?むしろ努力家ってことだよね!ポイント高いよ!』
「う、うん……」
ぐっ…………完璧な解答。
そ、そう……佐々木はポイント高いのね……。
『それにしてもいきなりどうしたの?……はっ!まさか萌結、告白された?!』
「そんなんじゃないよ!……ただ気になっただけ」
『あんまり深く聞かない方がいいかな?訳ありっぽいし〜』
「う、うんそんな感じ……」
ごめんなさい、試すようなことしてごめんなさい!
私はどうやら真昼をみくびっていたらしい。真昼は予想以上に素晴らしい女性だった。
「それにしても遊園地かー、楽しみ」
『だよねだよね!私行くの三年ぶりでさ────』
その後、私たちは他愛ない話に花を咲かせるのだった。
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