第13話 元カップルと遊園地
※優希※
突然だが、傷害未遂を行った例のストーカーは、警察が通報を受け、しっかりとお叱りを受けたようだ。俺は怪我をせずに済んだので被害届を出していないのが、ストーカーにとって不幸中の幸いだろう。
俺と笹川も別々に事情聴取を受けた。だから俺は笹川が警察に何を話したのか知らない。そしてあのストーカー男との関係も。
……まぁ、同世代ぽかったから、あの女が思わせぶりな態度で勘違いさせたとか、そんなところだろう。
罪深い女どころか、犯罪者製造機と成り果てるとは……。
────さて、こんなことがあったのが昴に相談を受ける数日前のこと。
今日はみんなで遊園地で遊ぶ約束をしていた日だ。
少し早めに集合場所に到着した俺は、ふと今の俺の笹川の関係について考えに耽ける。
大前提として、俺と笹川は元カップルだ。
それでいて最悪な、喧嘩別れをしたカップルだ。
そしてお互い、中学の頃とはキャラを変え、運命の悪戯か、入学先の高校で再会した。
俺たちは互いに相手の過去について他言しないという契約を結び、それからも一緒に部活巡りをしたり、放課後に作戦会議をしたり、ストーカーから守ったり、と喧嘩別れした元カップルとは思えないくらいの付き合いだ。
となると、俺と笹川の関係は今、なんと呼ぶのだろう?
「元カレ元カノ……?」
それにしては距離が近いよな……。
「クラスメイト……?」
間違ってはないけど、そこまで薄い関係ではない気が……。
「友達……?」
何故だろう、これが一番しっくりくる。
だが、となると出てくるのが俺はあいつを許したのか?という疑問。
仲直りしたわけじゃないし、謝罪をしてもらっていない。そもそも俺は何を求めているんだ?
あーわけわかんねぇ…………。
心がざわついて仕方ない。
喉まで出かかっているのに、言葉が出てこない。
お腹痛いのにうんこが出ないような感覚。
「はぁ……」
「ため息つくと運が逃げちゃうよー!」
「っ!」
いつの間にか集合場所に来ていた真昼。
彼女は、いつものトレードマークのようなポニーテールではなくハーフアップにした髪型に、脚のラインがしっかり出ているボトムス、そして白いTシャツに身を包んでいた。
「どう?」
「ちょー似合ってる」
「えへへ、ありがと〜」
服装を褒められニコッと笑う真昼。
落ちるな、落ちるな!佐々木優希!意識をしっかり持て!いくら可愛くて正ヒロイン枠で、俺の求めた高校生ラブコメみたいな展開だろうとここで落ちたらいけない!
あくまでこの表情は友達に服を褒められたから表情だ!
俺は佐々木優希。
クラスカーストトップの陽キャであり、友達と恋愛対象の区別ができる男。
「あ、あとはあの二人だな」
「そうだね〜」
俺は平静を装い会話を続ける。
……大丈夫だ。鍛練したじゃないか、そう簡単に落ちるものか。耐えるんだ佐々木優希。
それから俺と真昼は他愛ない会話を続ける。
するとようやく、
「わりぃわりぃ!手間取っちまって……」
「遅いぞ」「遅いよもうー!」
「すまねぇって」
めちゃくちゃキメてる昴が登場した。
俺がチェックして断念した最新のファッションを服装に採り入れ、髪型をそれはもうわかりやすいほどにキメている。
一目見るだけで、こいつやりやがった!とわかってしまうが、陽キャならギリセーフなラインだろう。陰キャなら確実にアウトだが…………。
「昴キメてるな」
「だろ?今日の俺は十万ボルトにだって耐えられるぜ」
ちょっと何言ってんのかわかんないが、昴の気合は伝わった。
するとようやく笹川がやってきた。
「ごめんね遅れて!」
「「大丈夫だよ」」
真昼と昴は謝罪する笹川に声を掛けるが、俺は笹川の格好に文字通り言葉も出なかった。
笹川は正ヒロイン枠である真昼と服装や髪型が被らないようにか、髪はおさげに、服は青の縦ラインの入っているワンピース。
沢山移動する遊園地なのにワンピースを来てくるとはバカなのか、と思うかもしれないが、俺の師匠『何度でも私は君と恋をする』で脇役ヒロインが来てくる服装は決まって動きづらそうなものばかりだった。
恐らくこれは並大抵の努力じゃなし得ない。
恐ろしく沢山の文献を分析し、かつ己に似合うものを見つけ出すのに、一体どれほどの努力と根性がいるだろうか?
つまりはこいつも、遊び半分で引き立て役に成り下がったわけじゃないのだ。
すると俺の様子に気付いたのか、笹川は俺に近付いてきた。
「さっきからアホな面がアホ面してるけどどうしたの?」
アホな面がアホ面してるってなんだ。
「なんでもねぇよ」
「そう?私はてっきり────」
笹川はぐっと俺の耳元に彼女の口を寄せると、
「私に惚れ直しちゃったのかと思った」
…………………………ご、ご冗談を…………。
……いや、少しは可愛いなって思ったのは認めよう。少しだけな?本当に少しだけだからな!
いや、やっぱり半分くらい…………。
※スバル※
「ほらっ!いくよ優希!」
「わかっからあんま引っ張んなって……!」
入園するなり、上機嫌の真昼が優希の腕を引っ張っていく。
流石の俺も、真昼のここまであからさまなアピールに秘められている感情を気付けない奴ではない。
きっと真昼は優希のことが好きなのだろう。
本人は気付いてないのか、それとも鈍感を装っているのか知らないが満更でも無い様子だ。
「俺たちも行こうぜ」
「そうね」
真昼たちを見失わないよう、俺は笹川に声を掛けついていく。
真昼が優希に夢中なら、俺としては好都合。この隙に距離を縮めるのだ────
────とはいえ、そう上手くいかないのも想定内。
ジェットコースターにお化け屋敷、空中ブランコにミラーハウス。遊園地の定番中の定番と言うべきアトラクションに次々と乗っていく。
日曜なので混んではいるが、待ち時間も真昼は優希にべったりだし、俺はそのおかげで笹川と会話する時間が多い。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
「早い早い早いってぇぇえ!!!」
この遊園地一番の目玉アトラクションであるジェットコースターの二回目に乗る俺たち。こういうアトラクションは何回乗っても飽きないから不思議なものだ。
「うっ……少し休ませて……」
ジェットコースターから降りた笹川が具合が悪そうに座る所を探す。
流石にこうもノンストップで乗りまくればこうなるか…………いや、これはチャンスでは?!
「俺もちょっと疲れたから笹川と一緒に休んでるわ」
「そうか、なら真昼、俺らだけで回ろう」
「うんっ!あとで合流しよーねー!」
そう言って真昼と優希は仲睦まじく次のアトラクションへと向かっていく。
近くのベンチに座ると、俺は話題をそれとなく振った。
「あいつら仲良いよな」
「そうだね」
瞬間、俺はふと横に座る笹川を見てしまった。
そしてすぐに横を向いたことを後悔する。
すると、笹川はぼそっと呟いた。
「……早く付き合っちゃえばいいのに……」
それは意図してか、それとも無意識か。
笹川の声は、とても悲しく聞こえた。
…………ダメだこりゃ……。
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