第4話 元カップルは占われる
※優希※
「どうぞお座り下さい」
カーテンは閉じられ、蛍光灯はついておらず、唯一の光はキャンドルの燈だけの『占い部』の部室。
真昼と昴に入れ替わるように部室に入った俺たちに、黒のフードを深々と被った女子生徒は正面の椅子に腰掛けるよう指示する。
「どんなことが聞きたいですか?私がなんでも見通して差し上げましょう」
優しい声音で語りかけてくる女子生徒こと占い師。
なんでも……。ほう、なんでもか……!
これはチャンスだ。質問の内容、そしてそれに対する返答次第では、笹川を動揺させることが出来る。このクソ女に一矢報いる時が来たのだ。
俺は「そうですねぇ」と考えるフリをして、
「俺たちが付き合ったらどうなります?」
「は?!あんた何を言って……!」
「いいわねいいわね!見通してあげましょう!」
俺の質問に声を荒らげる笹川だが、そんな彼女の言葉を遮る占い師。
すると占い師は百科事典のように分厚い書物を開き、数ページ程ペラペラとめくっていく。
「残念だけどあなた達の相性は最悪ね」
「で、ですよね!」
「でも……」
占い師の言葉に歓喜する笹川だが、「でも」の一言で押し黙る。
「あなた達は切っても切れない仲のようね……。お互いに過去に未練があるもの同士、なにか通づるものがあるかもしれないわね」
過去に未練……?お互いに……?
「二人とも、過去に囚われている。昔の想い人のことが忘れられないまま……」
おい……それって……!
俺も笹川も……未だに両想いってことなんじゃ……?
いやいや待て待て!前提がおかしい!
そもそも俺は笹川のことなど好きではない。断じて。俺がこうなったのは未練ではなく執念。決してそこに未練、ましてや恋心など存在するはずがない。
すると、パタンと書物を閉じる占い師。
「……と、いう風にそれっぽいことを言うのがこの部活です。是非入部届けを!」
「「二度と来るか!!!」」
びっくりさせやがって!なんだよデフォルトの文言だったのかよ!
パチッパチッと部室内の蛍光灯が付けられる。
占い師の手元にはまるで百科事典のように分厚い……『定型文 〜部活勧誘編〜』と書かれた書物があった。
※萌結※
散々だったわ……。
佐々木が変な質問をしたせいで私の気が動転するようなことばかり言われて……あげく、実は事前に用意されていた文言だったなんて。
ネタばらしが終わり、部室を出ようとする私たち。
「すいませんが、そちらの女の子の方は残ってもらってもいいですか?」
「私ですか?……いいですけど」
わざわざ女子生徒に呼び止められるいわれのない私は、なんのことかと疑問に思いながら一人席に戻る。
佐々木も頭にハテナを浮かべながら部室を出ていった。
「あなたに言っておきたいことがあります」
「言っておきたいこと?」
部室は明るいまま。さっきまであった異空間のような雰囲気はない。ただの女の子同士の雑談のような雰囲気。
女子生徒はフードから頭を出し、優しく私に微笑みかけて言った。
「偽りも真実も、あなたが見ているものを信じなさい。信じれば、それは
まるでそれは、本来の自分を偽っている私や佐々木のことを言っているかのよう。
嘘から出た誠は、いずれ嘘を飲み込んで、最後は誠しか残らない。
でも私たちはまだ、染まりきっていない。偽りの仮面と本体が完全にくっついていないのだ。
「……それも用意してたやつ?」
「いいえ、あなたの少し先を行く人生の先輩からの
「そう……」
この先輩が何を思って今の言葉を伝えてきたのか。私はそれを知らないけど……
「助言ありがとうございます。肝に銘じておきます」
私はそう言って占い部の部室を後にした。
────私が部室から出ると、三人が談笑しながら待っていた。
「遅かったじゃん!どうだった萌結?」
「遅れてごめん。……うーん、私はよく分からなかったなぁ」
「私はめちゃくちゃ占われたよ!」
と言うと、ちょいちょいと私に耳を寄せてとジェスチャーする。
「実は……近いうちに彼氏ができるかもってさ」
「かっ……?!」
「しっー!あんまり大声で言わないで、もしかしたらあの二人のどっちかかもしれないんだから」
「う、うん……」
もしかしたら佐々木と真昼が付き合う可能性だって無いわけじゃないのよね……。悔しいけど、今の佐々木は見た目も中身も一級品レベルとしか言いようがない。
偽っていることがバレなければ、きっとそういう未来だって有り得るだろう。
「……っ!」
何を考えているの私!
真昼みたいな超可愛い女の子に佐々木なんて勿体ない!
あんな、嘘で塗り固めたような人間が真昼と釣り合うはずがない。真昼にはもっと誠実で、根っからの主人公気質みたいな人が相応しいに決まってる!
「良い出会いがあるといいね、真昼」
「うんっ!」
まぁ、引き立て役の私が口を挟むようなことではないだろう。
私はそんなことを思いながら、ふと気付いてしまった。
占い師が言ってたのは、事前に用意された文言だから当てにならないのでは……?
※優希※
中学三年生になると中学最大のイベント、修学旅行がある。
行き先は、関東圏なら大阪や京都、奈良。関西圏なら東京やディズニーと行き先はそれぞれで、中には生徒のアンケートによって決めるという学校もある。
十月の二学期中間テスト後、中学生だった俺らは京都・奈良へ旅立った。
そこで思い出して欲しい。俺と笹川が付き合っていた期間を……九月下旬から十二月中旬である。
しかも修学旅行は俺と笹川が付き合って約一ヶ月くらい経った頃。それはまぁ浮かれまくったよね。
なんならお互いの班を抜け出して京都観光までしたよね。
今なら「そいつはクソみたいな奴だから今すぐ別れろ」と言ってやれるが、当然過去の俺はそんなことを知る由もない。
そしてそれから一ヶ月と少し経った頃、俺と彼女は最悪な別れをした。
「────さきくん。佐々木君……佐々木君!」
「は、はい!」
「眠いのは分かるけどまだホームルーム中だから寝ないように」
「すいません」
どうやら寝てしまっていたらしい。
部活に関して、俺は今のところ保留という措置を取っている。理由はおいおい話すと思う。
とはいえ、新入生の俺らがやることは部活決めだけではない。
「では、来週からのオリエンテーション合宿のガイダンスを始めます」
オリエンテーション合宿。
新入生同士の仲をより一層深めることを目的とした旅行のようなもの。事前のガイダンスでは宿泊するホテルや一泊二日のスケジュールなどの説明、しおりの配布、バスの席順の決定をする。
「それじゃあバスの席順を決めるけど……」
バスの席の配置は、観光バスのため二つ並びの組み合わせが通路を挟んで一列に二組。それが八個あるから三十二席。九列目は五人席。計三十七席である。
「ここは無難に出席番号順にしようか!」
……は?
クラスは総勢五人×七列で三十五人。俺は四列目の前から三番目、出席番号十八番。そして俺の前に座る笹川は十七番。
つまり順当にいけば、俺と笹川が隣同士になるわけで……。
「先……」
「みんなそれでどうかなー?」
田川先生の声掛けにクラスメイトが次々と「賛成ー!」「それでいいでーす!」などと賛同の声を上げる。
これはいけない。実にいけない。
このままでは俺は笹川と隣になり、地獄のような時間を過ごす羽目になる。
とはいえ、大衆の意見に逆らわないのも陽キャの使命。こうもクラス全員が賛成ムードになった以上、わざわざ言ってまでこの座席を変えさせてしまうと、あらぬ誤解を受けかねない。
「じゃあみんな賛成ってことで」
やばいいいいい!!!
何してるんだ笹川!こういう時に発言するのがお前じゃないか!!!
お前だって嫌だろう?俺と隣って嫌でしょ?だから言えって!
「……」
笹川、微動だにしない。
……そうだった、こいつ引き立て役に成り下がってたんだな……。そりゃ言わねぇわ。
考えるまでもない。ここで自分の意見を通すのはヒロインの役目。引き立て役に徹した彼女がやるべき事じゃない。
「それじゃあ座席はこうねー」
田川先生は黒板にバスの座席図を描いて、名前を記入していく。
俺はそんな田川先生を見つつ、笹川に耳打ちした。
「よかったのか?」
「いいわけないでしょ。あなたの隣で拘束されるなんて、まるで刑務所に入るのと一緒じゃない」
お前刑務所入ったことねぇだろ。
「いい?変なことしたら容赦しないから」
「するわけねぇだろ」
俺たちはもう、
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