血戦のDies irae(2)
「あやのさん。ジェーンさん、。。。。きてmくれたんですか?」
「莫迦ね……仲間じゃない」
この期に及んで未だ仲間だとかいう大義名分を、お為ごかしもいいところだ――そこまで思考して私は気が付いた。
(アライメントが何だという? お為ごかしは聞き飽きたんだよ、モラリスト共が)
私は、私はjohn_doeと似ている?
「ああ、まるこめX。さっさとずらかるぞ」
ここは彼を救助して王城から出ることが最優先だったはずだ。だがかれは強かに戒められている、目の前には二人の強力なNPC。
「おめおめと逃がすと思うか? ドブネズミ共が」
シグムンド公子は剣こそ抜かぬものの、挑発的に語りかけてきた。
「あやの、スキルなしでこの二人のNPCと交渉して成功する確率は?」
「限りなくゼロに近いわね」
そう言ってあやのは苦笑した。「まるちゃん、一体何をしてこんなことになったのよ?」
「それは私から説明させてもらおう」
そこでジラルディンの方が口を開いた、キツめの外見とは裏腹に鈴の鳴る様な声をしている。
「闖入者がアルテラ25世を殺すならば、私か王の摂政である兄上が王位に就くべきだ。違うか?」
「闖入者? それは私に似たような男か」
私は慎重に言葉を選んで話した。
「そうとも言うな」
彼女の真紅の眸は抜け目なく我々二人と、まるこめXの双方を見ていた。だが戦うとなればこの恰好は少々――否かなり不利なはずだ。彼女にはその気がない?
「摂政であるシグムンド公子が王位に就く道理は理解できる、公女、何故あなたが王位を狙えるのだ」
「っちょ……それ、ジラルディンには禁句!」
あやのは叫んだが遅かった。どうやら私は彼女にとっての聖域に土足で踏み込んでしまったらしい。
やはりよく原作を読み込んでなかったのが悪かった。
すると公女は肩を揺らして笑い出した。私はしばらくその様子に呆気に取られていたが、他の誰も彼女に対してそんな態度は取っていなかった。
一通り笑い終えると彼女は、まるこめXに向けていた剣を下ろした。
そして目にも止まらぬ速さで、その左利きの腕は私に向かってそれを向け直した。刹那、私の髪が宙を舞った。
「真に王位を簒奪されたのはこの私だ!」
「薔薇の復讐」の深いバックボーンは知らないが、彼女の側が王位を取られたということか?
「失敗! 失敗この交渉しっぱーい! まるちゃん逃げるよ!?」
「え、でんもわたししばられtるでうs!」
シグムンド公子が今度はまるこめXに剣を向けた。「そういうことだ、逃げられると思うなよ」
「何よ、NPCは如何な強力であったとしても『倒せない』ってだけでこちらを攻撃できるわけじゃない、そういう風にしないとわたし達がNPCに狩られることになるじゃない! ……だいたい彼らはプログラムが動かしているだけよ、人間が操作して喋っているわけでもなんでもない。そう見えるだけ、見かけ上はね!」
「その通りだ、あやのとやら。だから今こうやってお前の仲間が捕まっている状況はおかしいと思わないのか?」
「「アオヒツギ!」」
あまり彼を知らないまるこめXだけはきょとんとしてるが、あやのと私はそれぞれ別の感情が入り混じった目であの青黒い髪の少女を見遣った。
「何故、貴女がここに居るの? さしずめハゲタカ? それともアライメントをもっと下げるため?」
「さあ?」
だが私はアオヒツギの言うことにも一理あると思うのであった。特にこのジラルディンという女……本当にプログラムだけで動いているのだろうか? それともそこまで精緻なアルゴリズムとデータ構造を構築できる何者かが運営に存在するのか? それをいえば彼女と話し込んでいたアーシュベックもそうであった。
この一件が終わったら、あやのに言うべきなのだろうか?
横目でアオヒツギはジラルディンを睨んだ。何もかも、私の考えが分かっているかのように。
「さて公女、三対二、もしかしたら四対二だ。どうする? 貴女は強い、しかし賢明な御方でもある――我々全員を同時に相手するのは得策ではない、そうお考えになっては呉れぬか?」
アオヒツギが静かに問いかけると、紅い眸は閉じられまたすぐに開かれた。
「兄上、行きましょう……人質など必要ない」
「しかしだな……!」
「兄上」
妹に凄まれて公子は仕方なく、彼女とその部屋を後にした。
私達は、見逃されたのか?
「まるちゃん!」
あやのはまるこめXに駆け寄ると、持っていた短剣で彼を戒めていた縄を切った。「チーズたらはどこ?」
「椅子の下に隠れてたよ、奴ら気が付かな方tんだね」
「チーズたらに攻撃させることは出来なかったのか?」
私は尤もと思えることを訊いてみたが代わりに答えたのはあやのであった。
「チーズたらはまだ幼生だから戦闘に参加させるのは無理よ、現段階ではなんの幼生かもわからないし」
そうしてわたし達が話している間にもアオヒツギは立ち去ろうとしていた。
「お前たちは仲良しごっこをしてろ、ぼくはTiger chaserを殺しに行く」
「Tiger chaserならここにもいるぞ?」
私はわざと挑発するようなことを言ったが、彼は相手にしなかった。
「……お前は最後に殺す」
それを言うとアオヒツギはその部屋を出て行った。
「あいつ負った方がよくないi?」
「それもそうね」
あやのは同意したし、私もそれには異論がなかった。
――待っていろよ、john_doe。お前の真意を必ずや突き止めて見せる!
この冬は終わらない。
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