真実の一端

 ここ『生命なきものの王の国』っていうのよこの国、長い名前ね? 原作読んでないから知らなかったでしょ?

 この国を治めてるのは男系の国王アルテラ25世 (アシュレイ・サージェス・メルキオル)という愚鈍な少年王ね。だって愚鈍って原作にあるもの。

 まあ表向きはね? シグムンド公子 (シグムンド・グラネッツ・バルタザル)というのは少年王の摂政にして、彼の異母兄なんだけど、

 彼は自分の異母妹 (王の異母妹でもある)巫子いちこの少女ジラルディン(ジラルディン・ルチア・ユーディット)の超常の力を使って、あらゆるものを思い通りに進めてるのよ。

 この王家は家系図が複雑すぎて……んもう、ネットか何かに落ちてないかな、わたしがパワポか何かで作ればいいのか。

 んでまあ王家に対する疑問はあとで受け付けるとして聖堂騎士団ね。


 実は「薔薇の復讐」の世界は神々に見捨てられた世界ということになっていて、神は存在しないの。神なんて必要ねえんだよ? そこで人々の安寧を図るために作られた人工宗教が聖堂騎士団ね、これは王家も公認ですごく「がらくたの都」で幅を利かしてるわ。

 一応対立軸としてアミニズム標榜する汎神論者という存在がいるわ、聖堂騎士団に較べれば全然メジャーでも何でもないけれど、

 取り合えず見つかったら彼らから異端反駁の名においてゴーモンされるんじゃないかしら?

 聖堂騎士団自体は先王のときに作られた団体で、比較的新しいわね。教祖はシャフトという老人よ。こいつも曲者だけど……

 アーシュベックは聖堂騎士団の大幹部で枢機卿を名乗ってるわね、居もしない神を信仰していてご苦労なことだけど、強いわよ。

 そうそうこの世界は神がいない替わりに魔法とかの力も存在しないのよ? だから魔法使い的な職があっても実際は魔法使いじゃないわね。

 まあ原作も半ばだけど何故か「薔薇の復讐」のヒロインだけが唯一魔法が使えるわ。なんでかわかんないけどね、今は。


 説明ってこれくらいかしら?



 わたしはあやのの説明にすっかり黙り込んでしまった。まるこめXも同様であろう、情報量が多すぎるのだ。

――魔法がない。言われてみて初めて気が付いたことだ。ではなぜその小説のヒロインのみ魔法が使えるのだろうか? 今後魔法が使えるPCが現れる可能性は? わからない。

 そしてこの王の血を引く巫子の少女の超常の力とは何であろう? それこそ魔法と同義ではないのではなかろうか。

 何故そのアーシュベックが我々に警告するのだろうか、これもまた不自然なことではないのか。


「あやの、訊きたいことがあるのだが」


「ほいほい、わたしに答えられることであれば」


「ヒロインの魔法の力とその巫子の少女の超常の力というのは同義なのか違うものなのか?」


「ん~どうなんだろう……まだ原作がそこまで進んでないんだよねえ、でもジラルディンは主人公一行を何度もピンチに陥れてる存在だから――」


「となるとやはりシグムンド公子は敵と言えるのか?」


「敵っていうか悪なんだけど、ゲームである以上彼に与することも可能なのよねえ」


「あああもうwあからないいいいいいいいいいiiiiiii」


「まるちゃんどうしたの」


「聞けば聞くほどにわからなKぅなってきた、駄目7図書館で借りてくる」


「だから買えとwwwww今なら尼で八冊セット売ってるから」


 仕方ない、私は「薔薇の復讐」シリーズを購入することに決めた。そうでないとゲームに付いて行けなさそうだ。


「そして何故アーシュベックは我々に警告した?」


「わからない……物語の本筋は原作と世界観を同じとしながら違う世界線なのかもしれない」


「ねえ。4なんか外が騒がしくなi?」


「んんっ!?」


 あやのはマイハウスから首を出して外を窺ったようだったが、直ぐに戻ってきた。


「殺戮が行われている……! PCによる荒らしだ!」


「まさかアオヒツギ!?」


「――違う、言いにくいけど嗚呼、jane_doeそっくりの男のTiger chaser!」


「john_doe!」


 わたしは反射的にあやののマイハウスを飛び出そうとしていた。


「ちょっとどこ行くのよ!」


「アブないよ?」


「あいつについては私が確認し決着をつける、それが私の運命フェイトだ!」



 そう言って私は一目散にjohn_doeのもとへ駆け出していた、あやのたちの制止も聞かずに――


 この冬は終わらない。

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