予定外の再会
「john_doeだって!? それも君そっくりの?」
翌日、ログインして出会った二人――あやのとまるこめXにその事実を告げると、二人は大仰に驚いて見せたものであった。
「た、たとえばわたしそっくりの、まるこむXがいるみたいなかんんjい?」
「バカねマルコムXは本物であなたは存在自体がギャグってか、噛み様じゃないの」
私はやれやれ、とアクションで呆れて見せた。ここはjane_doeのマイハウス、三人はそこに集合していた。
「彼がTiger chaserなのかはわからないが、そうである可能性は高いな」
「それを言ったのって誰なの? PC? NPC?」
「NPC。アオヒツギの出た酒場の主人だよ、もっかい同じことを言うかもしれない聞きに行ってみるか?」
「それでもしおなjiじことを言うようであれば間違いなinnじゃないのかした」
一行は件の酒場に入る、あの治安の良くない『がらくたの都』の下町の酒場だ。
入り口は西部劇によくある様な二枚の板だけでできている、粗末なものだ。店の治安は悪いが逃げ出そうと思えばさっさとずらかれる。
三人が入店すると一斉に客と思しき10名ほどのNPCたちが一斉にこちらを向いた。
またか、そうjane_doeは思ったがまるこめXはそうではないらしく、三人を品定めするような彼らの声に一々ビビっているのがありありと判った。一方であやのは落ち着き払っている。こういった状況には慣れているのだろう。
jane_doeは店の主人を探したがカウンターは不在だった。何故だ――
察したあやのが代わりに酔客の一人に話しかけた。
「店の主人は? わたしたち飲みにきたんだけど」
「殺されたよ」がたがた震えながら(アルコールのせいかもしれなかったが)彼は確かにそう言った。
「殺された? 誰によ」
「待て、あやの様子がおかしい」
そのとき、大きな音がして店の扉が開き誰かが入ってきた。
「「アーシュベック枢機卿!?」」
jane_doeとあやのは同時に吃驚して叫び声を上げたが、まるこめXだけはこの僧形の男にきょとんとしている。
「ここから早急に逃げたまえ、消されるぞ」
「どゆこと!?」
「まるちゃん早く出て!」
あやのに促されて一行は足早に酒場を去ったが疑問は残る。――彼はNPCではないのか?
宵闇迫る『がらくたの都』を走り一行は何人ものPCやNPCとぶつかりながら、いつしか巨大な王城の城門に辿り着いていた。
「ここはお城、入ってみる?安全課も」
「何言ってんの!? 薔薇の復讐の世界を甘く見ちゃ駄目よここに侵入しても死あるのみ!」
そういえば多忙に任せて原作小説を読むのをすっかり忘れていた、あやのに拠れば王宮はどうやら我々にとって危険であるらしい。
「全く、ここに来てもシグムンド公子の部下になぶり殺しにされるだけなんだから――」
シグムンド公子……重要NPCのようだ。アーシュベックよりも身分は高いのだろうし。
「なんかわたしたちおみられてない?」
「そりゃそうでしょ、銀座の往来でパジャマ着てる様なもんですから」
「詰まりは恰好が場所と合っていないということか?」
「そうね、レベルと装備と場所が不釣り合いだわ。移動するかログアウトしましょ」
「取り合えず移動しないか、偶にはあやののマイハウスにでも」
そう私が提案すると露骨にあやのは嫌な顔をした。
「jane_doeはともかくまるちゃんにはあまり見せたくないものがあるんだけど……仕方ないっか」
「そうそう、ショートカットキーでマイハウスに移動できるよ、同じパーティに居れば自動的に適用されるし」
瞬時に一行はあやののマイハウスに移動したのであったが――
「すごーい、レア嗚呼いtt無の巣窟じゃないんですかあ、ぴかぴかあ~」
「だからまるちゃんには見せたくなかったのよ、どうせもうスクショ撮ったんでしょ?」
「ツイに載せたら怒ります?」
「当然!」
しかし、wiki制作のためやり込んでいるとはいえ、あやのはやり込み具合が違う。だとしたら平素彼は(彼女? そんなわけはないか)いったいどんな生活を送っているというのだろうか?
そして何故、初心者然とした私とまるこめXにわざわざ付き合っているのだろうか? 親切心? そんな筈はあるわけない。あやのも謎の多い人物に間違いなかった。
「どうしたのjane_doeぼーっとして?」
「いや、何でもない……」
しかし本当にここは豪華なマイハウスだ。私のそれと違って掘っ立て小屋ではないしちゃんとした一軒家だし、二階まである。家具、調度も恐らくはダンジョンで集めてきたものを鑑定して現金化し、購入しているのだろう。
「大丈夫よ、大して進めないうちに、廃すればjane_doeもこのくらいの家持てるって」
「廃って――」
あやのには廃プレイする時間がある? 親元に居るのかさもなくば学生なのか。
「ふふふ、わたしのこと廃人だと思った? でもちゃんと日常生活は送れてるから大丈夫よ。あのアオヒツギと違ってね」
不意に考えを見透かされたようで、私はちょっとどぎまぎしたがここであの、アオヒツギの名前が出てくるとは思いもしなかった。
「えー、アオヒツギってにーとだったの?」
「まあ、まるちゃんの説が半分正解かな? 何せあいつをモニターしてる人によると一日ログインしてるらしいから、ニートなんじゃない? 昼でもいるよ、アオヒツギ」
「ニートがいいっぱいでぃーでぃーてぃーおんらいん♪」
「だれがwwwwwうまいことを言えとwwwww」
「まあまあネトゲなんてそんなんのばっかりじゃ――」
私が呆れて口を挟むとあやのはジト目でこちらを見た。
「じゃあjane_doeはなにか立派なお仕事してるわけ?」
まさかフリーの絵描きです、などとは口が裂けても言えない。自分は一番信頼の置けない身分ではないか。
「じ、自由業だよ……」
「ところどでアーシュベックって誰?」
まるこめXが口を挟んでくれたお陰で助かったが、これは彼にとってはもっともな疑問だ。私とてリーリウムに教えられただけで、聖堂騎士団のことも彼のことも断片的にしか知らないのだから。
「なるほどまるちゃん聖堂騎士団について聞きたいのね」
「制動騎士団?」
「待ってくれ、私も詳しく知っているわけではないんだ。単にアーシュベックとは顔なじみというだけで……良ければ教えてくれないか? それとシグムンド公子についても」
「もう、原作読めって言っておいたのに仕方ないな。じゃあかいつまんで説明するよ?」
そうしてあやのは聖堂騎士団と王族についての説明を始める――
この冬は終わらない。
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