第80話 ヒルダ
書類の指定はここか。
衝立の奥に居る女性職員に声を掛ける。
「すいません。ランクアップ申請書類の提出に来たんですが」
さっきの窓口で受け取った書類も見せる。
「はい。申請書類をお預かりします。それと、冒険者タグの提示もお願いします」
「では、これを」
昇格申請書類の入った通信筒を渡す。
申請書類に目を通した職員が口を開く。
「Cランク冒険者のオーマさんで間違いはありませんね?」
「ええ」
職員は深く頷く。
「私は王都ギルド本部職員のヒルダです。オーマさんの担当職員となります。よろしくお願いします」
「あ、どうも。こちらこそよろしくお願いします」
ヒルダさんは引き締まった長身で、職員の制服をビシッと着こなしている。
ちょっと冷たい感じの切れ長の目と、鈍い鉄色の短髪のクール系美人だ。
「まずは、タグをお返ししておきます。今後もそのタグを更新して使い続けることになりますから、失くさないように」
「はい」
俺は頷いて、タグをしまう。
「あら、ヒルダが担当なのね」
ノーラが俺の後ろから顔を出した。
「あの?なんでノーラが居るんです?」
「この子はミドウッド出身の後輩よ。付き添うのは先輩としての務めでしょ」
「あのねえ、Bランクともなれば中堅の仲間入りよ?付き添いなんて要ーりーまーせーん」
「なによー」
「なんですか?お仕事の邪魔でございましてよ?」
「おっほん!」
カウンター側の奥で、わざとらしい咳払いが聞こえた。
奥の方に居た年配の職員がこちらを睨んでいる。いや、俺は騒いでないよ?
ヒルダさんがチラリと後ろに目をやる。
「ちっ!」
あ、あの?ヒルダさん?ク、クールとかは?
ノーラがヤレヤレといった顔で口を開いた。
「しょーがないわね。私はラウンジの方に行ってるわ。また後でね、オーマ」
「分かったよ、ノーラ。また後で」
ノーラはラウンジとやらに行ってしまったな。ヒルダさんとノーラは仲悪いんですかね?
「お騒がせしてすいませんね、オーマさん。
「いえ、俺は別に、、」
「私とノーラは、、まあ、ライバルと言うか、腐れ縁と言うか。私も彼女もAランクですからね」
「え?ヒルダさんはAランク冒険者なんですか?」
「王都ギルドでのBランク以上の冒険者の仕事は他の町とは違います。Bランク冒険者にはAランク冒険者の職員が担当として付きます」」
「そ、そうなんですか?」
「冒険者の力に見合った依頼を割り振るには経験が豊富でなければいけませんから。それに後進の育成の意味もあります」
「なるほど」
なかなか大変らしい。俺、ここでやっていけるかな、、
「では、昇格の説明をしておきましょう」
「お願いします」
「書類の提出後、数日で審査が完了し、冒険者タグの更新が行われますので,その頃にここに来てください」
「審査に落ちることはあるんですか?」
「申請はギルドマスターの推薦と同義です。不適格者に申請書を出せば後でメンツに関わりますからね?」
「お、おう」
不祥事でも起こしたら、出身ギルドに迷惑が掛かるって事か。
「申請書類によると、活動拠点を王都ギルドに移すとの事ですが、よろしいですね?」
「ええ、しばらくは王都の方で活動しようかと思います」
ミドウッドギルドでそんな流れになったから乗ってみたわけだが。情報収集には王都の方が良いだろうからな。
「では、昇格後、依頼の受注は担当職員を通して行う事になります。掲示板の公募や直に指名された場合もこちらにお願いします。
もちろん、こちらから紹介する依頼がありますので、こまめに窓口に顔を出してください」
「分かりました」
「それと、緊急の依頼が入った場合、呼び出しがかかる事もありますから、滞在場所を報告しておいてください」
「えーと、滞在場所はまだ決まっていないんです。長期滞在出来るギルドおすすめの宿でもあれば教えてもらえるとありがたいんですが」
「オーマさんは、ミドウッドから来たんですよね?王都には詳しくないと言う事ですね?」
「ええ」
「では、これをお渡ししましょう。当ギルド発行の王都ガイドブックです」
ヒルダさんから小冊子を渡された。
早速、小冊子を開いてみる。
所謂、タウンガイドやな。王都のエリアごとの地図と案内が載っている。
「一般向けの手頃な料金の宿は、王都西部の商業区に多いですね。主に商人向けですが」
「うーん」
商人向けか。それにギルドからは遠いかな。
「お勧めは、ギルド本部の周りのギルド街の単身者用の宿でしょうか。幾つかありますから、泊まって試すのもいいですよ」
「なるほどね」
「ま、ノーラに聞いてみた方が早いかもしれませんけど。今日は暇そうですし」
「お、おう」
この人は、ノーラと仲が良いんだか悪いんだか。
「とにかく、滞在場所が決まったら報告をお願いします」
「そうします」
「それと、ランクアップ申請中は、出来れば依頼の受注は控えてもらえると有難いのですが」
「何でです?」
「事務処理がややこしくなってしまうんです。手持ちの依頼があるなら昇格の前に完了しておいていただきたいです」
「あ、まだ王都学園への配達依頼が二件あります」
「早めに仕事を済ませておいてください。それと、Cランクで受けた依頼の完了手続きは一般受付の方でお願いします。
昇格手続きの方は、三日もあれば事務処理も終わるはずです。それ以降に早めにおいでください」
「はい、その時はよろしく」
ヒルダさんが少し間をおいて口を開いた。
「オーマさんはソロ冒険者の様ですが、、一応、パーティを組むことを推奨しておきます」
「え?、、いや、その、パーティは、、」
色々バレるとヤバいので。
「パーティ限定の依頼や、安全度を上げるためにも、パーティを組むのが一般的なんですけど、、」
ヒルダさんはそこで言葉を切った後、続ける。
「人それぞれ事情がある場合もありますからね。他人と組むのが苦手とか」
「そ、そうですね」
別にボッチ体質とかじゃないんですよ?
「まあ、私も固定でパーティを組んだ事は無いんですけどね。必要な時は臨時で組むことはありますが」
「そういうのもあるんですね」
「ええ、ですから、必要に応じて相談していただければ調整しますよ」
「分かりました」
まあ、基本、ソロになりそうだが。
「さしあたりの説明は以上にしましょう。後はノーラに聞くといいですよ?ラウンジはあちら階段を上がった所です」
「あ、はい」
、、ヒルダさんは何でニヤニヤしてるんですかね?まあ、いいけどさ。
俺はヒルダさんに頭を下げてその場を後にする。
よし、ラウンジに行くか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます