第78話 護衛依頼完了
ルランドの町を発ってから数日後、俺達は王都の近くまで来た。
ずっと向こうに王都の城壁が見える。
、、見えてるけど、なかなか先に進まないんだよなあ。
王都に向かう街道は、馬車や徒歩の人達で渋滞している。じわじわとは動いてはいるけど。
ちょうど混雑する時間帯らしいな。
王都の壁が見えてから結構な時間が掛かったが、ようやく王都の西門のゲートが見えた。
流石にミドウッドの東門より遥かに規模が大きい。混雑もすごい。
バスターミナルの様な造りだが、元の世界でもこれほどの規模の物はそうないだろう。
馬車や人が行き交い、交通整理の衛兵もあちこちに居る。
城壁側には、馬車用人用それぞれのゲートが並び、俺達の前に居る馬車や人が次々に王都に入って行く。
出て来る方はそれほど多くない。時間帯的に王都を発つ者が少ないんだろうな。
俺達の順番が来た。
ゲートに居る衛兵のチェックを受け、冒険者タグを見せる。
アベルさんのAランクタグのおかげで、すんなり王都に入れた。流石、Aランクの御威光はすごいな。
城壁の中に入ってからは、馬車が普通に走れるようになった。
俺は街中を見回す。
ここが、この国の王都、グレイバーンか。すごい所だな。
西門から王都の中心に向かって幅広の大通りが続いていて、沢山の馬車が行きかっている。
通りの脇の歩道の方も通行人で混雑している。まさに都会だな。
こちらの世界は元の世界より圧倒的に人口が少ないが、城壁の中に集中しているからこうなるんだろう。
土地の広さに制限があるせいで、複数階の建物がほとんどだ。
高層ビルこそないが、四、五階建てのしっかりした造りの建物が多い。
、、やっぱり中世ファンタジー感は、、ないね?
むしろビクトリア風とかか?通行人の服装も近代ヨーロッパ風だしな。
まあ、ミドウッドよりファッショナブルな感じはあるかな?
俺がキョロキョロしているのを見たアベルさんが話しかけてきた。
「どうです?王都は。賑やかでしょう?」
「ええ、想像以上です」
予想外に都会で驚いたけど、元の世界と比べればそれほどでも?、、別にビビってませんよ?
「しばらく暮らせばすぐ慣れますよ、オーマ君」
「はは、そう願います」
ミドウッドとはえらい違いだからなあ。
大通りを進み、大きな交差点の様な所に来た。
こういうの何かで見た事あるな。
ヨーロッパの古い都市なんかで、町の中心から放射状に通りが広がってるやつ。
中心部に立像が立ってるのも同じだ。あれはミドウッドの公園にもあった大魔王像の大型版みたいだな?
馬車が停まった。立像の周りの車止めの様な場所だ。
「オーマ君。こちらの通りの先の大きな建物が冒険者ギルド王都本部です」
アベルさんが指差した先、大通りの突き当たりに立派な建物が見えた。
えーと、政府機関か何かですかね?国連本部かな?直に見た事ないけど。
俺が驚いていると、アベルさんが続けた。
「オーマ君、君の仕事はここまでで完了としましょう」
「え?アベルさんの店とかまでかと思ってました」
「いえ、私の店は冒険者ギルドとは別方向なんですよ。しかも中々遠い。
君はギルドでの手続きがいろいろありますからね。初めての王都で宿も探さないといけませんし」
俺は町中を見渡す。
な、なるほど。都会だからね。ちょっと通行人に聞く感じでもないね?
「分かりました。えーと、依頼完了証にサインを貰えばいいんでしたね?」
「ええ。書類をこちらにいただけますか?」
書類をアベルさんに渡し、サインを貰う。
「はい、確かに。ありがとうございます」
「ええ、お疲れ様、オーマ君」
俺は改めてみんなに向き直る。
「みなさん、今回はお世話になりました」
そう言って頭を下げた。
「はは、こちらこそ。王都でも頑張ってください」
柔らかい笑顔で言うアベルさん。
「まあ、こいつなら大丈夫じゃねえか?はっはっは!」
「そうだな。ま、しっかりやんな」
と、ラザーさんとバリーさん。
「もうちょっと年が上なら、俺達の打ち上げに連れて行ってやるんだがな。悪いな」
ウーズさんがニヤニヤして言う。
「がっはっは!子供を連れて行けるような場所じゃねえからな!」
「ちげえねえや!」
「みなさん、程々にしてくださいよ?」
アベルさんはヤレヤレといった様子。
「さあ、悪い大人の影響を受けない内に行きなさい。、、念のため言っておきますが、王都にはいろいろと誘惑が多いですからね?気を付けるんですよ?」
「はは、気を付けます。では、失礼します」
俺はみんなに頭を下げると、冒険者ギルド本部に向かって歩き出した。
*****
アベルの一行から遅れること、数日。
ヤーデン伯とレイラ、護衛の騎士の一団も王都に向かっていた。
その馬車の中、ヤーデン伯は同乗する娘に目をやる。
「レイラよ。随分と機嫌がいい様だな」
「ええ、勿論ですわ。王都でオーマ様に再会するのが楽しみですもの」
「ふふ、そうか」
ヤーデン伯は微笑んだ。
「お父様、あの方は何者なのでしょうね?」
そう聞くレイラに浮かれた感じはない。
「さあな。特に素性が分かる様なことは聞いておらん。だが、只者ではあるまい。あの年でBランクの申請を出すだけの事はある」
「あの身体能力と魔法。それに黒目黒髪。ヤマト国人だとすれば、あれがサムライと呼ばれる者なのでしょうか?」
「ヤマト国人ではあるかもしれんが、サムライではなさそうだ。サムライは主に細身の曲刀を使って戦う剣士らしい」
「そうですのね」
「捕縛した賊からの聴収とお前達の話から推察するに、彼は、雷撃と飛行魔法、それと精度の高い索敵系魔法を使った様だ」
「ええ。間近で見ましたが、飛行魔法としか思えない動きでしたわ」
「うむ。彼の魔力からして、それらの魔法以外も使いこなすと考えた方が良かろう」
「ふふ、おそらくは」
「能力だけではない。あの様な希少な回復薬を多数所持している上、それを簡単に売り渡すとはな」
「あの方は高貴な生まれなのでしょうか?」
「彼は粗野ではないが、貴族という雰囲気でもないな。彼に興味があるのか?」
「あれほどの力を持つ殿方は、そうは居ませんわ。アベル様も素敵ですけど、ご結婚なされていますものね」
「おいおい」
ヤーデン伯は半ば呆れ顔で苦笑する。
「ふふ、王都で彼に再会した際に何か分かれば良いのですが。本当に楽しみですわ」
レイラは馬車の外を流れる景色に目をやり、微笑した。
*****
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