第75話 野盗




 ルランドに一日滞在した後、俺達は町を発った。

 ここから宿場を二つ経た先が王都だ。いよいよ王都が近づいてきたな。


「さて、みなさん。この先は警戒を怠らないでくださいよ?」

「任しときな、旦那」

 アベルさんの注意に、バリーさんが答える。


「ここから先って、危険なんですか?」

 とりあえず聞いてみた。


「ここと王都の間の街道は、商人の行き来が多いですからね。つまり、野盗にとって獲物が多いと言う事です」

「旦那、そりゃ身も蓋もないぜ、、」

 バリーさんが苦笑して、ツッコミを入れた。


「オーマ、しっかり頼むぞ。お前の探査魔法は精度が高そうだからな」

「了解です」

 バリーさんの指示にそう答えた。

 、、うーん、野盗かあ、、、



 しばらく何事もなく街道を進んで行く。

 だが、昼前あたりで異変を感じた。

 探査魔法に妙な反応があるな?


「バリーさん。前方に人が集まってる場所があるみたいなんだけど、何かそういう場所はありますか?」

 馬車の休憩所とかかもしれないからな。

「いや、特にそういったものはない。事故かもしれんが。どんな状態か分かるか?」


 俺は目を凝らす。

「複数人が固まって動いていますね?ちょっと離れた所に馬が数頭、その周りにじっとしているのが数人、それとは別に離れて数人が固まっています」


 バリーさんは馬車の速度を落とし、静かに停車した。

「距離はどれくらいだ?」

「馬車で数分かかる距離だと思うけど」


 バリーさんは馬車の中のアベルさんに声を掛ける。

「どうする?旦那」

「まずは確認ですね。バリーさん、お願いします」

「よし来た」

「ラザーさんは御者をお願いします。オーマ君は探査魔法で監視を続けて下さい」


 ラザーさんと交代したバリーさんは、前方に走って行った。恐ろしく速い。

 そして、前方の集団にある程度近付くとすぐ戻って来た。往復でほんの数分だ。


「馬車が野盗らしい集団に襲われてる。騎士風の連中が応戦中だ。敵側には弓士も複数いるな。別のも数人居る。伏兵かもしれん。襲撃側は2、30人、襲われてるのが15人ってとこか」

 バリーさんの報告に、アベルさんが厳しい表情になる。


「戦況はどうでしょう?」

「野盗の数が多いわりには善戦してるぜ。犠牲は出るかもしれんが、馬車に居る奴は守れそうだ。だが、伏兵らしいのも居るからな」

「そうですか」

 アベルさんは考え込む。


 すぐに助けに行くのかと思ったが、そうではない様だ。

 、、まあ、余計な危険は避けるべきか、、

 でもなあ、、、


 俺がモヤモヤしているのに気付いたのか、アベルさんが声を掛けて来た。

「オーマ君、彼らを助けたいですか?」

「え?俺ですか?」


 俺は考える。

 おまけとは言え、俺はこの人の護衛だ。その仕事を放り出すわけにはいかない。

 それに俺一人が助けに行っても役に立つかどうか分からない。

 他の護衛の三人もここから離れるわけにはいかないだろう。


「君一人なら助けに行ってもいいですよ。普段は彼ら三人で馬車を守っているわけですし」

「お、俺一人ですか?」

「ええ。こちらの護衛からはそれ以上の戦力は割けられませんよ」

「うーん、、」

「もちろん無理をしないという条件付きです。無理な戦いは避けて、敵の妨害をするだけでも十分な助けになりますからね」

「なるほど」

「身の危険を感じたり、役に立てそうになかったら戻ってくればいいわけですし。彼らにとっては想定外の救援ですからね」

 そういうものなのかもしれない。


「状況を確認して、助けられることがあったら助ける事にします」

「ええ、それがいいでしょう。絶対に無理はしないでください。お気を付けて」

「じゃあ、行って来ます」

 俺はアベルさんに頭を下げると、襲撃現場に向かう。



 *****



 オーマが前方の襲撃現場に向かった後。

 アベルと護衛のパーティの三人は話し合う。


「旦那もなかなか意地が悪いねえ。あいつ、すっかり乗せられちまって。旦那が行った方が手っ取り早かったんじゃないか?」

 護衛パーティのリーダー、ラザーが苦笑交じりで言う。


「彼の力を試すのにはいいでしょう?」

「あいつ、大丈夫かねえ」

「なあに、いざとなったら、あいつだけは助け出すさ」

 心配顔のウーズにバリーが軽く返す。


「その必要は無いでしょう」

「おいおい、冷たいな。旦那」

「あ、いえ。助っ人が必要ないという意味ですよ。彼は強いですからね」

 ツッコミを入れたバリーに、アベルはきっぱりと言い切った。


 だが、ラザーは微妙な表情で口を開く。

「そうか?経験は浅そうだし、頼りない感じだが」

「それを補って余りある強さと言う事です。少なくとも彼自身は大丈夫でしょうね」

「なんだ?やけに奴の評価が高いな。Aランク冒険者の勘か?」

「はは。まあ、そんなところです。とは言え、彼の奮戦が無駄にならない為の助っ人は必要になるかもしれませんが。その時は私が加勢しましょう」


 バリーが面白そうに笑いだした。

「くっくっく、そいつはおっかねえな」


「では、馬車の番を頼みますよ。私は彼の様子を見に行きます」

 そう言い残して、アベルは森の中に消えた。



 *****



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る