第74話 ルランドの町



 馬車は街道を進み、ミドウッドの東門も見えなくなった。

 そういえば、この街道は、以前に町の周りの探索をした時に来たことがあったな。

 そんな事をぼんやりと考える。


「オーマ、そろそろ仕事の話をするぞ」

 隣にいるバリーさんに声を掛けられた。

「あ、はい」

 そうだな。依頼だからな。しっかりやらないと。


「まずは、護衛の仕事内容だ」

 俺は頷く。

「最優先は勿論護衛対象の命を守る事だ。次に積み荷や馬車なんかの財産を守る事。とはいえ、自分の命を危険にさらすようなことはするなよ?」

「分かった」

「で、具体的にやる事だが、先ずは警戒だな。索敵は勿論、不利な地形を避けたり、危険度の高い場所なんかの情報収集なんかもある」

「情報の収集とかはどうやって?」

「衛兵や同業者と情報交換したり、酒場なんかでそれとなくな」

「なるほど」

「まあ、情報収集は慣れが必要だな。今回の依頼では俺達に任せろ」

「すいません」


「さて、警戒をしっかりしても野盗なんかに襲われることはある。基本的な対応を教えとく」

 人間と戦う事になるんだよなあ。


「余裕がある時はなるべく殺すな。後で法で裁いて償わせることが推奨されてるからな。死刑か労役かは分からんがね」

 俺はホッとした。、、でも、非常時って事もあるか、、


「役割としては、剣士のラザーが前衛、レンジャーの俺が遊撃、魔導士のウーズが後衛だ」

「ふむ、俺は何をすればいい?」

「お前は攻撃魔法が得意だと聞いてる。後、剣もなかなからしいな。後衛としてウーズと一緒に旦那についてもらうか」

「了解です」

「旦那も戦えるが、非常時以外は当てにするな。護衛が俺達の仕事なんだからな。

「分かった」

「概ね、そんな所か。後は実践で慣れろ」

 俺は頷いた。


「ところで、お前は索敵系の魔法も使うと聞いてるが、魔力感知の類か?」

「えーと、探査魔法ですけど、、ちょっと一般的じゃないみたいです」

「どんな感じなんだ?」

「発動すると、魔力を持つ人や魔獣なんかの輪郭が視覚化されますね」

「ふーむ。なかなか便利そうだが、、そう言う魔法は聞いた事が無いな」

「魔力を感知するだけの魔法も使えますよ?」

「なるほど。得意と言うだけの事はあるか」

 バリーさんは感心している様だ。


「じゃあ、今回の移動中、索敵を頼む。俺も見ておくが、警戒の目は多い方がいいんでな」

「了解です」


 早速、探査魔法を発動する。

 前方に反応が点在しているな。直線的に並んで見える。

 街道を移動している人達の反応だ。まあ、馬なんかも居るみたいだが。

 この街道に沿ったずっと先が王都なんだな。


 夕方まで馬車で走って、宿場町に着いた。町と言うより村と言った規模だけどな。

 この先も、夜は宿場に泊まる事になる様だ。

 この街道沿いでは、非常時以外は基本的に野営はしないらしい。文明的ですね?



 そんな感じで、何事もなく街道を進み、ミドウッド領を出て隣のルランド領に入り数日、前方に城壁に囲まれた町が見えてきた。

 今居るルランド領の領都ルランドだ。道中では一番大きい町だな。


 町の大きさはミドウッドの町よりちょっと小さいかな。

 城壁も向こうより低いが、それ以外はあまり変わらない感じだ。


「あー、やっとまともな酒場のある街に来たぜ」

「よーし!今晩は飲むぜ!」

「おう!」

 おっさん三人衆がテンション上がってるご様子。


「ほどほどにしておいて下さいよ?」

 アベルさんがヤレヤレといった顔で言った。


「分かってるって。オーマ、旦那の護衛を頼むぞ」

「え?俺一人?大丈夫かな」

「この町は治安がいい。町中に居れば、そんなに危険じゃないぞ」


 俺はアベルさんの方を伺う。

「まあ、良いでしょう。みなさんにも息抜きは必要ですからね」

「流石、旦那は話が分かるぜ」

「私とオーマ君は宿の外で夕食としましょう。費用は私持ちです」

「ありがとうございます」

 ゴチになります。


 宿に着くと、ラザーさんのパーティのおっさん三人衆は連れ立って町中に繰出して行った。


「さあ、こちらも出かけるとしましょう。いい店を知っていますよ」

「えーと、その、あまり高い店は、、、」

「まあまあ、費用は私が出しますから。遠慮は無用です」

 アベルさん?面白がってませんかね?


 で、良い店とやらに連れて来てもらった訳だが、、、

 どう見ても高級レストランですやん?


 店に入ると、店員に席に案内された。

 周りの客も高級感あるよ?


 ほどなく、店員がメニューを持って来た。

 メニューを開いてみる。

 、、あー、なんか予想通りな感じの料理名が並んでいる。どんな料理か想像がつかないぞ。


 アベルさんの方を伺う。

「おすすめのコースをお願いします。オーマ君も同じものでいいですか?」

「あ、それでお願いします」

 メニューも開けずに、手馴れた感じで注文しておられる。流石です。


 店員が去ると、アベルさんが小声で言う。

「私は食通ではありませんからね。料理名からは味の想像が付きませんから、適当にコースを頼むことにしてるんです」

「なるほど」

 流石です?


 しばらくすると、料理が来た。

 あまり詳しくは無いが、元の世界のコース料理と流れは同じ様だ。


 上品な感じに盛り付けられた皿が次々に來る。

 高級店だけあって、とてもおいしい。

 でも、大鹿亭の料理も味では負けてないぜ?安いしな!


 デザートも終わり、お茶なんか飲んで一息つく。

「どうでした?料理の味は?」

「ええ、とてもおいしかったです」

 うむ、マジで。


 ふと考える。

 メニューで見た料理は高かった。当然コースも高いだろう。

 アベルさんは何の商売で稼いでるのかね?馬車に商品らしい物もないし?


「どうかしましたか?」

「いえ、、えーと、変な事を聞く様ですが、アベルさんは何を扱う商人なんですか?」

「魔核や魔道具を扱っていますけど?ああ、商品は私の収納魔法の中です。容量には多少自信がありますから」

「なるほど」

「ミドウッドで魔核を仕入れて、王都で加工業者に卸し、業務用の魔道具を仕入れて、地方に納品しています」

「へー、業務用の魔道具ですか」

「ええ、冷蔵や温熱、送風の魔道具などですね」

「そういう物もあるんですね」

 何気にハイテク製品があるからな、この世界。


「君も収納魔法が得意だと聞いています。王都ギルドで輸送依頼を請け負うのもいいかもしれませんね」

「ええ、考えてみます」

 王都の周りは魔獣がほとんど居ないらしいからな。狩猟向きじゃないだろうし。


 野盗なんかは居るらしいが、賞金稼ぎをする気は無い。

 、、自分が襲われたら、、反撃するしか無いだろうけど。



 次の日の朝になって、おっさん三人衆が帰って来た。

 まあ、今日はアベルさんの仕事で町に滞在するってことにはなっていたけどな。


 結局、俺がアベルさんに付いて町を回る事になった。

 商業ギルドやら商会やらを回ったが、アベルさんは一目置かれているらしい。見たまんまの、できる男なんやな。流石です。


 その日の夜は、全員で宿の近くの普通の食堂に行った。

 確かに、高級店の料理はうまいが、俺にはこっちの方が落ち着く。


 ちょっと、大鹿亭の安くてうまい量がある飯を思い出した。

 ノーラもそんなこと言ってたっけ。ノーラは元気にしてるかな。




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