第73話 王都に発つ
ミドウッドを発つ日が来た。
大鹿亭で朝飯をとった後、挨拶をする。
、、そんなに長い滞在ではなかったが、寂しいものだな。
「マーサさん、ガモフさん、お世話になりました」
そう言って、二人に頭を下げる。
「うんうん、王都に行ってもしっかりおやり」
「まあ、頑張りな。仕事でこの町に來ることもあるだろうし、その時は、うちに泊まってくれや」
「うん、そうだね。ぜひ、そうしとくれ。あ、そうだ!息子が修行してる王都の店も贔屓にしておくれよ」
「がっはっは!そうだな。よろしくな、オーマ」
「はは、分かった」
ガモフさんが真面目な顔になる。
「さあ、そろそろ行け。依頼主を待たせちゃいかんからな」
俺は頷く。
「じゃあ、二人とも元気でね」
「あんたも元気でやるんだよ」
「達者でな、オーマ」
俺は深くお辞儀をすると、大鹿亭を後にした。
朝の街中を抜けて、冒険者ギルドに着いた。
受付カウンターのあるホールを見回す。
いつも通りの朝のギルドだが、、まあ、ね?
アリサさんが受付カウンターからこちらに出て来た。
「おはようございます、オーマさん。お待ちしてました」
「おはよう、アリサさん」
「では、ギルドマスターをお呼びしますね」
「え?俺が執務室に行った方が、、」
「いえ、、みなさんもお待ちですし」
アリサさんはギルドの食堂の方を示す。
「おい、オーマが来たみたいだぞ」
ん?なんか食堂から人がゾロゾロと出て来た。
マイヤーさんのパーティとセインさんだ。一緒にサムエルさんも居る。
「よお、オーマ。サムからお前が王都に発つって聞いてな。見送りに来たぞ」
そう言うマイヤーさんの横でセインさんも頷く。
「君にはまだ借りが返せていないが、見送りくらいはさせてくれ」
サムエルさんは、いい笑顔で俺に目配せしている。
「お前さん達も、こいつに借りがあるのかい」
グエナ婆ちゃんだ。孫娘のリーナと連れのアレクも居るな。
「孫とアレクを救ってもらった礼に足りるか分からんが、これを持ってお行き」
グエナ婆ちゃんは、瓶入りのポーションを五本渡してきた。
「これは?」
「例のトロールの血を使った回復ポーションじゃ。なかなか強力じゃぞ」
「へー、これがそうなのか」
「お、そうじゃ、ちょっと耳を貸せ」
「なに?」
婆ちゃんの方に耳をやる。
「この先、もし竜の血を手に入れたら、絶対にワシの所に持って来い」
「何でよ?」
俺も小声になって聞き返す。
「究極の回復薬の材料の一つじゃ。秘伝じゃから口外するなよ?」
「そ、そうっすか」
いや、でも竜の血なんて、そうそう手に入らんやん?俺に言われてもな?
「婆さん、トロールの血入りって事は最上級品か?そいつを五本とは、一財産じゃねえか」
マイヤーさんが驚いた様子で言った。
「孫の命の恩人じゃ、それくらいはのう?」
婆ちゃんはドヤ顔だ。
「このポーションの効果はどれくらいなの?えーと、腹に開いた穴とかも治せる?」
「えらい具体的じゃのう?内臓が失われてなければ治せるかのう?」
あ、いかん、向こうでセインさんが腹を押さえて青い顔になってる。思い出させてすんません。
「う、うん。大切に使わせてもらうよ。ありがとう」
「うむ!」
グエナ婆ちゃんは深く頷いた。
「すいません、オーマさん。本来は私達がお礼をしなければならないんですが、、」
「俺からもすまない」
リーナとアレクが頭を下げる。
「いや、いいよ。一緒に戦ったんだし」
そこまで気にしなくていいんやで?
「おう、随分人が集まってるな」
ライアンさんの声がした。ギルドマスターと一緒に二階から降りて来る。
「本当にたくさん集まってるわね。みんなオーマのお見送りなの?」
「ええ、グリゼルダ様。我々は彼に助けてもらいましたからね」
マイヤーさんが答えた。
「そうね。ふふ」
ギルドマスターは微笑むと、俺の方に来た。
「では、オーマ。これがランクアップ申請書よ」
ギルドマスターの差し出した通信筒を受け取る。
「申請書を王都本部に提出後、数日で審査結果が伝えられるわ。まあ、実績から言ってまず昇格確定の筈よ」
「ありがとうございます」
俺は頭を下げた。
「うん。王都でもしっかりおやりなさい」
見送りに来ている人達から拍手が上がった。
嬉しくもあるが、ちょっと恥ずかしい。
「オーマさん!いよいよですね!王都でも頑張ってくださいね」
目をキラキラさせてアリサさんが言う。めっちゃ期待されてるやん?
「はは、頑張ります」
「とは言え、あんまり無茶すんなよ?それと、鍛錬も忘れずにな」
ライアンさんには釘を刺された。
「うん、自分から無茶なことはしないよ」
向こうから無茶が来たら知らんがな?今までのも事故みたいなもんですし?
ヤレヤレといった顔のアブドラさんもやって来た。
「まあ、怪我しないようにな?王都でも達者でやんな」
「ああ、程々にしとくよ」
他のみんなにも声を掛けられたが、あまり心配はされてない模様で何よりだぜ?
見送りのみんなに挨拶が済んだあたりで、ちょうどアベルさん一行が来たようだ。
アベルさんが、護衛パーティのリーダーのラザーさんとギルドに入って来た。
アベルさんは不思議そうな顔で口を開く。
「みなさんお集まりですが、何かありましたか?」
ギルドマスターはクスクス笑いながら答える。
「この子のお見送りよ。アベル」
「なるほど、オーマ君の門出ですからね」
アベルさんは頷いて微笑む。
「なかなか愛されてるな、オーマ」
ラザーさんがニヤニヤ顔でそう言った。
「さて、オーマ君。挨拶が済んでいるなら、そろそろ出発したいのですが」
「ええ、大丈夫です」
俺は見送りに来たみんなの方に向き直る。
「じゃあ、、俺、行くよ。みなさんお世話になりました」
俺は深く頭を下げる。
みんなに声を掛けられ、ギルドを出ると馬車が停まっていた。
御者台にはバリーさんが座っている、
幌馬車みたいな荷馬車じゃなくて、乗用の箱馬車だな。
「お、来たな。お前はこっちに座れ、オーマ」
そう言われた俺は、御者台のバリーさんの隣に乗る。
アベルさんとラザーさんは後ろの客車に乗った。
「よし。馬車を出すぞ」
バリーさんが手綱を入れると、馬車が動き出した。
「行って来ます!」
俺はみんなに手を振る。みんなも手を振って見送ってくれた。
ギルドを離れ、街中を抜け、町の東門に来た。あいかわらず混雑している。
馬車用のゲートで衛兵のチェックを受けるようだ。
「ん?Cランク冒険者のオーマか。悪いがちょっとだけ待ってくれ」
う、俺、なんかした?
「おーい!ザック!例の奴が来たぞ!」
「来たか!今そっちに行く!」
あれ?ザックさん?
「お知り合いですか?」
アベルさんに聞かれる。
「ええ、いろいろお世話になってる人です」
ザックさんが走ってこっちに来た。アベルさんに声を掛ける。
「すまんな。ちょっとだけこいつに用があるんだ」
「ええ、かまいませんよ」
アベルさんが答えた。
ザックさんが俺の方を向く。
「よお、オーマ。いよいよ王都に行ってBランクだな」
「ああ、いろいろ世話になったよ。ありがとう」
「良いって事よ。ま、向こうでも元気でな。あー、それと、あまり無茶やって周りを驚かせるなよ?」
「いや、そうそう無茶なことはしないよ?」
「どーだかな」
なんか、みんなに無茶すんなって言われてないか?
「と、とにかく、ザックさんも元気でね」
「おうよ!じゃあ、引き留めて悪かったな。さあ、行った!行った!」
「では、出発しましょうか」
アベルさんが微笑んでそう言った。
「おう、行くか、旦那」
御者のバリーさんが応じる。
馬車が動きだした。
俺はザックさんに手を振る。
ザックさんは、ヒラヒラ手を振ると持ち場に戻って行った。
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