王都へ
第72話 護衛依頼
トロール討伐から数日後。
王都に行く商人を護衛する依頼が来た。同時に俺のBランク昇格申請も決まった。
依頼完了後、王都にある冒険者ギルド本部でランクアップ申請をする流れだ。
急にミドウッドから離れることになってしまったが、どちらにしろ、王都には行く予定だったしな。
まあ、飛行魔法で手早く帰ってくることも出来るからいいかな。
、、いや、王都で元の世界に帰る方法が見つかれば、そのまま帰る事になるか。
何と言うか、、ミドウッドが第二の故郷みたいな感覚になってきてるのかもな。
確かにここは良い所だが、、俺は元の世界に帰りたい。
出発は五日後だ。町に来た商人が取引を終えて王都に戻る時に、護衛のパーティに俺が見習いとして入る感じらしい。
で、今、その同行者の四人と顔合わせをしてる訳なんだが。
まず、依頼主は商人のアベルさん。護衛対象だな。
スマートな感じのイケメン青年で、落ち着いた感じで物腰の柔らかな、いかにも商人といった人だ。
護衛役のBランクパーティは、リーダーの剣士、ラザーさん、レンジャーのバリーさん、魔導師のウーズさんの三人だ。
ラザーさんのパーティは、いかにもベテランらしい雰囲気のタフガイ系のおっさん達だ。
だが、、なんか、アベルさんから強キャラ臭がするんだよなあ。
見た目は、特に体格がいいわけでもないんだが、隙が無いと言うか?ライアンさんの様な雰囲気がある?
「どうかしましたか?」
物静かな感じでアベルさんが聞いてきた。
「いえ。みなさん、今回の依頼ではお世話になります」
「おう、任せておけ。しっかり護衛の仕事を教えてやるからな」
パーティリーダーのラザーさんがそう答えた。
「はは。お手柔らかに」
俺は頭を下げた。
依頼を受けた日、大鹿亭に戻った時に、王都行きをマーサさんに伝えた。
「あらまあ、そうなのかい。寂しくなるねえ。でも、若い子が王都で腕を試すのは良い事だよ」
マーサさんはうんうんと頷いている。
「そういうものなの?」
「そうだよ?うちの息子も王都で料理人修行中さ」
「へー」
息子居たんやな。
「ノーラも王都のギルドで活躍してAランクになったんだよ。オーマも頑張りな」
「い、いや、俺は、、」
「あら、あんた、大活躍してるって聞いてるよ?それにBランクになるんだろ?自信持ちな!」
「へ、へーい」
「よし!そうだ、お祝いにあんたの食べたいもの作ろうか!ついといで!」
マーサさんと俺は厨房のガモフさんの所に行く。
「ちょっと、あんた!オーマがいよいよBランクになって王都で活動するって。お祝いになんか作っておやりよ!」
ガモフさんが厨房から出て来た。
「おお!もうBランクか!やるじゃないか!よーし!何か作ってやる。食べたいものはあるか?」
うーむ、いきなり言われてもな。そうだなあ。
「コロッケとか唐揚げかな」
普段はステーキ系とかトンカツ系だからな。
「、、なんだ、その料理は?」
う?ギロリとガモフさんに睨まれた。
「あんた、オーマが怖がってるよ。すまないねえ。うちの旦那は料理にうるさいのさ」
マーサさんの言葉に、ガモフさんが苦笑する。
「すまんな。聞いた事の無い料理なんでな。詳しく教えてくれ」
俺は料理の説明をした。
「ふーむ?カラアゲと言うのはテンプラとは違うのか?今、王都で流行ってるらしいが」
あるのかよ!天ぷら!
「唐揚げは天ぷらみたいに衣の粉を水に溶かないよ」
「なるほどな」
ガモフさんは真剣な顔でメモを取っている。
「ところで、天ぷら作れるの?」
「ん?あれは魚介類が無いと無理だな。野菜だけじゃあなあ」
「そうか、海とか近くにないからね」
冷蔵馬車や収納魔法で運べるかもしれないけど、内陸のこの町だと絶対に高くつくだろうからな。
かと言って、ガモフさん的には野菜だけではダメらしい。
「それより、コロッケの事だが、本当に芋しか入れないのか?」
何故か不服そうなご様子?
「芋が基本で野菜やひき肉なんかも入れてもいいけど」
「うーむ」
唸るガモフさんにマーサさんが言う。
「いいから作っておやりよ」
コロッケはガモフさんの趣味に合わないみたいだな?
「まあ、作ってみよう。任せておけ」
ガモフさんは頷いた。よろしく頼んます。
いつも通り、晩飯前に風呂屋に行って来た。
ミドウッドの風呂屋もあと一週間だな。、、まあ、大鹿亭の方もそうだが。
「いよう!オーマ!やっと来たか!」
宿に戻って食堂に行くと、声を掛けられた。サムエルさんだな。奥のテーブルに居る。
「Bランク昇格のお祝いをするって聞いてな。ザックも連れてきたぜ」
「おう、来てやったぞ」
ニヤリと笑って、ザックさんが言った。
「マイヤー達も呼びたかったが、あいつらはサパーノ村に行ってるからな。
「え?またなにかあったの?」
「いや、あの村はまだ警戒態勢なんで、パーティが交代で派遣されてるんだ」
なるほどね。
「いいじゃねえか。大人数で騒ぐとガモフの大将が怒るからな」
と、ザックさん。
「まあ、そうか。早速始めようぜ!おーい!ガモフ!オーマが来たぞ!頼むぜ!」
「おーう」
厨房からガモフさんが答えた。
しばらくすると、ガモフさん自ら料理を持って来た。
「待たせたな!肉入りのコロッケも作ってみたぞ。食べてみてくれ」
いい笑顔なんやな。
「んじゃあ、早速いただきます」
一口食べてみる。って、、
「メンチカツだ!コレ!」
肉しか入ってねえ!
「むう?メンチカツってなんだ!?」
あ、はい。説明ですね?
「なるほどなあ。挽肉入りってのは具が挽肉って意味じゃなかったんだな。まあ、別の料理も知れてよかったぜ」
ガモフさんは納得顔でメモを取っている。
「ちょっと、あんた!注文入ってるよ!」
「おう?すまん!じゃ、ごゆっくりな」
マーサさんに呼ばれて、ガモフさんは急いで厨房に戻って行った。
「あいかわらずだな。ガモフの大将は」
呆れ顔でザックさんが言った。
「そりゃ、お前、あいつは至高の食材を求めて、大陸中で魔獣を狩りまくった男だからな。料理へのこだわりは半端ないぜ」
サムエルさんがエールに手を伸ばしながら答える。
「ガモフさんはそんな事やってたの?」
やっぱり只の料理人じゃなかったようだな?
「ん?ああ、魔獣の討伐実績でAランクになった有名冒険者だぞ。今は料理本で有名か。それより、乾杯するぞ」
ちょっと!サムエルさん、Aランクの扱い軽くない?後、料理本?
あ、ザックさんもエールのジョッキを掲げて待ってるな。なんか、すんません?
俺はエールじゃないけど、お茶のコップを掲げた。
サムエルさんが頷いて、音頭をとる。
「では、オーマのBランク昇格を祝って!乾杯!」
ジョッキとコップを打ち鳴らし、一口飲む。まあ、俺はお茶だが。
「さて、新作料理を試してみるか。、、お、こいつはエールに合うな」
「それ、唐揚げって言う料理だよ」
俺も食べてみる。うむ、完全に唐揚げです。
「おい、これ、芋しか入ってないぞ?」
「そっちはコロッケだよ。肉入りがメンチカツ」
「そうか。屋台で売り出したら人気が出るかもな」
おう、こっちも完全にコロッケだ。流石っす、ガモフさん。
たわいない話をしたりして、食事を続ける。
周りの客も同じメニューだったが、なかなか好評みたいだ。
そんな中、サムエルさんがふと思い出したように言う。
「そういや、お前が王都に行く時に、ちょっと仕事を頼みたいんだが」
「ん?どんな仕事?」
「王都学園に居るうちの末っ子に差し入れだ。なに、木箱2つ程度だぜ。収納魔法に余裕はあるか?」
「ああ、あるよ」
余裕っすよ?
サムエルさんはちょっと噴出した。
「はっはっは、愚門だったな。その荷物と通信筒2本を直渡しで頼みたい」
「通信筒?」
「おっと、通信筒はあまり一般的じゃないから知らないか。普通の郵便じゃなくて、冒険者なんかに文書を運んでもらうための封印した筒だ」
あ、郵便が一般的に普及してるんやな。
「通信筒はうちの末っ子と学園長宛だ」
「う?偉い人?」
「まあな。俺の昔馴染みだ。そうビビらなくてもいい。それに王都で冒険者をやるなら学園に顔を売っておいた方がいいぞ」
「なんでよ?」
「学園は王都の冒険者ギルドのお得意さんだ。素材収集、野外活動の護衛、探索、色々な」
「なるほどねえ。あ、もしかして俺を紹介するための手紙なの?」
「それもあるが、俺の私信のついでだから気にすんな。おっと、学園に入学したくなったら学園長に相談しろよ?」
サムエルさんはニヤリと笑ってそう言った。 それも込の手紙なのね。
「えーと、、そういう状況になったら、そうしようかな?」
「はっはっは、まあ、考えといてくれや」
諦めてなかったんやな、この人。
「んで、荷物は今預かるの?」
「いや、冒険者ギルドの方で依頼として出すぞ。もちろん報酬も規定通りに出すぜ?物資輸送の個別依頼って訳よ。実績にもなるし、その辺はきっちりせんとな」
「うん、分かった」
「よろしく頼むぜ」
晩飯も終わって、お祝いはお開きになった。
サムエルさんとザックさんは酒場に飲みに行った。
俺も誘われたが、マーサさんに止められた。
まあ、飲みに行く気は無いからいいけどな?
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