第70話 ミドウッドの領主
建物から出て来た二人が、こちらに来た。
立派な身なりの偉い人っぽい方が、ギルドマスターに話し掛ける。
「よく来たな、グリゼルダ!待ちかねたぞ!」
「お待たせして申し訳ございませんわね、領主様」
「構わんさ。はっはっはっ!」
やっぱり偉い人だった様だな。いきなり領主様が出て来るとは思わなかったが。
次に、領主様はサパーノ村の守備隊長に目を向ける。
「うむ!メルビン隊長、今回の働きに感謝するぞ。よく村を守ってくれた。それに死傷者が出なかったのも幸いだった」
「は!恐れ入ります!しかし、今回の件では、彼、オーマ殿の活躍があっての事です!」
隊長は俺の方に振って来た。
「おお、君が例のオーマ君か!活躍のほどは聞いておるよ!おっと、私はこのミドウッド領の領主、コゴロー アマノだ。よろしくな!」
ちょっと!例のって、、いや、えーと、、
「私はCランク冒険者のオーマです。お見知りおきを」
こんな感じでいいかな。
「まあまあ、そう堅苦しくしなくていいぞ!ミドウッド限定だがな!」
領主様はそう言って、俺の肩をバンバン叩く。豪快さんか!
そして、横に居るアブドラさんにも声を掛ける。
「よお、アブドラよ。今日はトロールの見積もりの方、よろしく頼むぞ」
「お任せを」
領主様はグエナ婆ちゃんの方を見る。
「後は、グエナと、リーナお嬢ちゃんか。うむ、大人っぽくなったな」
「はっはっは、そうじゃろう」
婆ちゃんは平気な顔だが、リーナは緊張した顔で頭を下げた。
「で、グエナよ、何かあったか?」
「トロールの血を買い取りたいのじゃ。高品質の回復ポーションの材料になるでな」
「ふむ?トロールの血肉は毒性があると聞いているぞ?確実な処分が必要なほどだと」
「ああ。じゃが、血に関しては適切な処理を行えば、安全に使えるんじゃよ。熟練の者ならばな」
「なるほど、お前がそう言うなら許可しよう。代金はうちの者と相談してくれ。そうだな、完成した現物でもいいぞ」
「それはありがたいの。感謝するぞ」
グエナ婆ちゃんは満足気に頷いた。
領主様は俺達を見回した。
「では、早速討伐したトロールを見せて貰おうか!」
テンション上がっていらっしゃいますね?
だが、執事さんの方から声が掛かった。
「失礼いたします、旦那様。先ずは応接室でお客様方をお迎えすべきでは?」
「、、そういうのは後じゃダメか?面倒な王都からの客じゃないんだし」
ギルドマスターがクスクス笑いながら、助け船を出す。
「私達はかまわなくてよ?」
そう言って、俺達の方に目配せする。
「は!無論です!」
「俺も早く獲物をみたいですからな」
隊長とアブドラさんが答える。
俺やグエナ婆ちゃん達も頷いて答えた。
「よし、決まりだな!では、練兵場に行くぞ!」
会釈する執事さんに見送られ、俺達は領主様の先導でその場から移動する。
建物の脇から敷地の奥に抜けると、運動場の様な開けた場所に出た。
兵士達が訓練をしていたが、領主様に気が付くと、練兵場の端に整列した。
領主様は整列した兵士の方に歩いて行く。
「おう、訓練ご苦労!」
「はっ!何か御用でしょうか!?」
ちょっと年配の兵士が答える。
「うむ。連絡のあったトロールの死体が運ばれてきた。置き場所は準備してあるな?」
「はい!ご案内いたします!」
練兵場の端の仮設らしい柵のある所に案内された。
「こちらになります!では、搬入のための人員を集めてまいります!」
そう言って立ち去ろうとする兵士を領主様が制する。
「それには及ばん。もうここまで運ばれている。そうだな?オーマ君」
いきなり振られると、びっくりするじゃないですか。
「あ、はい。収納魔法に仕舞ってあります」
案内の兵士が怪訝な顔になる。
それを見た領主様がニヤリと笑って言う。
「では、オーマよ!ここにトロールの死体を取り出してくれ!」
「了解です」
俺はトロールを収納魔法から取り出す。結構、柵の中ギリギリだ。
「本当に丸ごとかよ!確かに連絡の通りではあるが、、」
領主様からツッコミを頂きました。、、一応、他の人達のリアクションも確認しておくか。
横に居たサムエルさんと兵士は目を丸くして固まっているな。
ギルドマスターとアブドラさんは、またか、みたいなヤレヤレ顔だ。慣れてきた?
リーナは青い顔でグエナ婆ちゃんの後ろに隠れた。
婆ちゃんの方は口を開けてトロールをガン見していたが、笑顔になった?
「くっくっく、これは新鮮な血が大量に採集出来そうじゃの」
ば、婆ちゃん?怖いっす!
で、メルビン守備隊長殿はなんでドヤ顔なんですかね?
まあ、いいけどさ。
「しかし、サムから聞いてはいたが、、、」
少し落ち着いた領主様がうなる様に言った。
「いえ、私もこれほどとは思っておりませんでした」
サムエルさんが答えた。
「領主様!俺と婆さんは早速作業に入ります」
「おお、そうだな!よろしく頼むぞ、アブドラ!」
アブドラさんとグエナ婆ちゃん、それとリーナは柵の中に入って行った。リーナの方は腰が引けてるけどな。
領主様は、案内役の兵士に向く。
「あー、なんかすまなかったな。訓練に戻っていいぞ」
「はい?、、いえ!了解いたしました!」
「、、いや、待て。訓練に集中出来る様子でもないな。しばらくトロールの見物をしてもいいぞ」
「はい!ありがとうございます!」
案内役の兵士は、向こうでざわついている整列中の兵士達の方に走って行った。
入れ替わる様に執事さんがやって来た。
「旦那様、お茶の支度が整っております」
「うむ、そうだな。あちらの者達の作業が一段落着いたら、彼らにも頼む」
「かしこまりました」
「では行こうか!」
領主様は俺達を振り返って、そう言った。
また領主様に先導されて、建物に入り、応接室にやって来た。
室内は派手ではないが、渋い趣味で高級な感じだ。微妙に和風な木目調?
全員が席につくと、メイドさんがお茶とお菓子を出してくれた。
その後、守備隊長が今回の件の報告をした。
それを聞き終わった領主様は口を開く。
「うーむ。にわかには信じられん様な話だが、、メルビンよ、お前は直に目の前で見たわけだな?」
「はっ!しかとこの目で!」
領主様はギルドマスターに目をやる。
「そうね。オーマならやりかねないわね」
ちょっとー。その言い方やめてー。
「ふむ。オーマよ、君、この領主館で仕事をしないか?」
「え?」
いや、いきなりそんなこと言われてもな?
「コゴロー殿?ギルドに相談無しに冒険者を勧誘するのは止めていただけないかしら?しかもギルドマスターの目の前で」
「あ、はい」
ギルドマスターの言葉に、領主様は少々ビビった模様?いや、まあ、怒ると怖そうだからな、ギルドマスターは。
俺の意見も言っておくか。
「えーと、、俺はその内に王都に行こうかと思っていますので、、申し訳ないです」
「あら、そうなの?それはちょうどいいわね」
ん?ギルドマスター?
「ランクアップ申請は王都のギルド本部で行う事になるわ。Bランクになったら、そのまま王都での活動を勧めようと考えていたのよ」
「なんでです?」
「ミドウッドではBランク向けの個別依頼が少ないのよ。実績を積むには向かないわ」
うん?どゆこと?
「つまりだ、君は出世を期待されていると言う事だ」
うんうんと頷きながら領主様が言う。なんか隊長とサムエルさんも頷いている。
「い、いや、俺は、、そういうつもりでは、、」
早く元の世界に帰りたいだけなんですよ?
「まあまあ、何か事情があるのかもしれないけど、しばらくやってみなさいな。得るものは多い筈よ」
「は、はあ」
どちらにしろ、王都でも冒険者をやる気だったからいいか。派手にやらなければ目立たないだろ。
「人材が王都に流れるのは惜しいが、またミドウッドの冒険者ギルドからAランクが出るかもしれんからな!」
領主様は上機嫌だが、、あまり期待されても困りますよ?
「これで、安心してオーマを王都に送れるわね」
ギルドマスターはクスクスと笑った。
「さて、次の話といきましょうか。今回の件の事後処理に関して」
領主様は頷いて答える。
「うむ、そうだな。ここから先は我々の仕事だ。オーマ、君は帰っていいぞ」
「それなら、失礼させてもらいます」
俺は頭を下げてそう答えた。
「おう、ご苦労だったな。サパーノ村を救ってくれたことを感謝する。今後の活躍も期待しているぞ!そうだ、サム。送ってやってくれ」
「かしこまりました」
俺はサムエルさんと応接室から退出した。
はー、疲れたわー。精神的に。
{はっはっは、お疲れさん。オーマ。
俺が疲れた様子なのを見て、サムエルさんが言った。
「俺、偉い人とか慣れてないからね」
「そうか。領主様はそういう事にはうるさくないが、王都の貴族には口やかましいのも居るから気を付けろよ?」
「えー」
王都に行くのが怖くなって来たぞ。
「まあ、冒険者ギルドで仕事をする限りは、ギルドが間に入ってくれるからな。調子に乗らなければそれほどヤバい事にはならんだろ」
サムエルさんは安心させるように言う。貴族絡みの依頼とかは多いんだろうか。心配だ。
「ところで、、サムエルさんの言っていた事務仕事って、領主館の仕事だったんだね」
「ああ。うちの農場の仕事もあるから専業とはいかないがな。堅実だろ?」
サムエルさんはニヤリと笑ってそう言った。
、、そうっすね。
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