第69話 領主館





 町に着いた俺達は、馬車のまま冒険者ギルドに直行となった。

 領主館への報告には、ギルドマスターも同行するためだ。


 ギルドに着くと、俺と隊長はギルドマスターの執務室に通された。

「ご苦労様。昨日報告に来た伝令から概要は聞いてるわ。大変だったようね。でも、死傷者が出なかったのは幸いだったわね」」

 ギルドマスターは労うようにいった。

「は!恐れ入ります、グリゼルダ様!」

 隊長はかしこまって答えた。


「さて、早速出かけましょうか。向こうもお待ちかねの筈よ。そうそう、領主館の方の要望で解体場の主任も同行するわ。トロールの解体の見積もりを行う役割よ」

「はい!了解です!」

「オーマもいいわね?」

「あ、はい」

 隊長の気合の入り具合にちょっと引きつつ、そう答えた。



 俺達三人はギルド本館を出て、買取棟に来た。

 なんか、大きな声が聞こえるな?


「アブドラ!トロールを解体する時は必ず連絡するんじゃぞ!」

「分かってるって、婆さん。大声出さんでも聞こえてるぜ、、」

「お婆ちゃん、もう少し落ち着いて」

「リーナ!これが落ち着いておれるかい!」

 、、騒がしいっすね。


 アブドラさんと、大声で話しているお婆さん、その脇にはおろおろしているリーナが居る。

「あら、グエナ、どうしたの?あなたがギルドに来るのは珍しいわね」

「おお、グリゼルダ!トロールが討伐されたと聞いての!血を売っとくれ!」

「血?ああ、トロールの血ね?また、薬の材料なの?」

「そうじゃ!強力な回復ポーションの材料になるんじゃよ!」

「なるほどね。でも、トロールの死体は領主様が丸ごとサパーノ村から買い取る事になったから、交渉はあちらとして頂戴」

「うむ!分かった!」

「これから領主館に向かうところだから、一緒に来るといいわ。討伐したトロールの引き渡しもするから丁度いいでしょ」

「おお、それはありがたい!ん?引き渡し?死体を町に運んだのかの?」

「ええ、彼の収納魔法でね」

 ギルドマスターは俺の方を示した。


「どうも。冒険者のオーマです」

「はて、、オーマ、、?」

「私達を助けてくれた方よ。お婆ちゃん」

「おお!そうじゃった!ワシはリーナの祖母のグエナじゃよ!孫とアレクを助けてくれて感謝するぞ!で、トロールの死体はどのくらいの量を運んで来たんじゃ?」

「ちょっと、お婆ちゃん、、」

 婆ちゃんはよほどトロールの素材が気になるらしい。リーナは困った顔で俺に頭を下げた。


 リーナの婆ちゃんか。確か調薬師?だったかな?

 しかし、どれくらいの量って?


「えーと?とりあえず丸ごと全部持って来たけど?」

「は?丸ごとじゃと!?」

 グエナ婆ちゃんは目を丸くするが、横に居たアブドラさんは大笑いした。

「はっはっはっ!今度はトロール丸ごとときたか!」

 あー、普通の収納魔法の容量だと一部しか運べないか。


 ギルドマスターがパンパンと手を打つ。

「はいはい!みんな!そろそろ出かけるわよ!あまり領主様をお待たせするのは悪いわ」


 俺達はぞろぞろとギルドの外に向かう。

 ギルドマスター、村の守備隊長、アブドラさん、俺。それとグエナ婆ちゃん、リーナも付き添いで来る様だ。


 冒険者ギルドの外に出ると、俺達が村から乗って来た幌馬車の代わりに、乗用の箱馬車が停まっていた。

 これに乗って領主館に行くようだ。


 俺達六人は乗用馬車に乗り込む。

 車内には、向かい合わせに横長の座席が配置されている。

 男女に分かれて三人ずつ座ったが、男席はすし詰めだ。

 大柄な隊長とアブドラさんに挟まれて、暑苦しさMAXやぞ!


「オーマ、そんなに時間は掛からないわ。しばらくの辛抱よ」

 ギルドマスターはクスクスと笑う。勘弁して下さいよー、マジで。



 ギルドを出発してほどなく領主館に着いた。

 領主館の敷地は町の城壁の北側と接していて、町の北門も敷地内にある。

 町側も含めて敷地の周囲は頑丈な城壁で囲まれている。堀はないな。


 大きな門から馬車ごと敷地に入り、建物の前の車止めに停車する。

 建物は石造りの大きな物が何棟も建っている。


 馬車が停まったのは、本館らしい一番大きな建物の前だ。

 建物は全体的に、貴族の館と言うより砦を思わせる頑丈な造りだ。


 敷地内もあまり華美な感じはしないな。

 植え込みは整えられているし、石像なんかも建っているが芸術品と言うより記念碑的な感じだ。

 歴史のある公園みたいな雰囲気がある。


 俺達が馬車から降りると、執事っぽい人が出迎えてくれた。

「ようこそおいでくださいました、グリゼルダ様」

 出迎えの人はそう言って、一礼した。


「ご苦労様、お待たせして申し訳ないわね」

「いえ、滅相もございません」

「同行者を紹介しておきましょうね」


 ギルドマスターが俺達を紹介すると、出迎えの人はこちらに向いて姿勢を正す。

「私は当領主館の執事のマイセンと申します。お見知りおきを」

 そう言って、深く礼をした。流石、執事だ。ビシリときまっている。


「では皆様、応接室の方にご案内いたします」

 執事さんがそう告げた時、建物の方から人が出て来た。


 大柄ではないが引き締まった感じの体格、黒目黒髪で立派な口髭、派手ではないが高そうな服。

 偉い人っぽいな?

 その後ろには、何故かサムエルさんが居る。パリッとした事務員みたいな格好だ。デキる男、みたいな?


 その二人が真っすぐにこちらにやって来る。






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