第68話 トロール討伐(?)完了




 俺は門の裏から離れて、防壁の足場に上がる。

 門の前の近くにトロールが倒れ伏しているのが見える。


「倒したみたいですね」

 俺は守備兵達にそう告げて、防壁の足場から外側に飛び降りた。

 防御魔法と普段の忍者ランでの慣れのおかげで、この程度の高さならどうという事は無い。


「お、おい!大丈夫なのか?」

 そう後ろから声がしたが、構わずトロールの死体に近づく。

 近くで見ると、一段とデカく感じる。

 トロールの体の表面は、やけに滑らかだ。ゴムっぽい?

 それにキルティングのような格子模様が薄くついている。模様は体全体で均一な感じだ。

 何と言うか、、人工物の様な雰囲気がある。


「本当に死んでいる様だね」

 隊長もこちらに来た。トロールを検分する様だ。


「もし、門が破壊されて接近戦になっていたら、確実に死人が出ていたはずだよ。、、おや?」

「どうしました?」

「君、ここを見たまえ。トロールの首の骨が完全に折れている」


 隊長はそう言った後、防壁の門を見上げた。

「門の方は全く無傷だね。君、何かやったかい?」

「えーと、門と壁に防御魔法をちょっと」

「そうか。トロールの体当たりを凌いだ上で、さらにお釣りがくるとはすごい効果だ。おかげで助かったよ」

「、、はは、それはどうも」

「さて、他の魔獣は居ないようだし、避難の解除をするとしようか」


 隊長は守備兵に避難解除の指示を出した。

 指示を受けた守備兵は、避難民達の方に走って行った様だ。


「俺は何か手伝う事はありますか?」

 隊長に聞いてみる。


「もう十分な活躍だよ。後は我々に任せてくれ。、、、あー、もし、別に何か来たら助力が欲しいかな?」

「ええ、もしもの時は手伝いますよ」

「それは助かる」


 俺達がそんなやり取りをしていると、調査に行っていたエドさんのパーティが村の中から走り出て来た。

 あれ?この人達村に戻ってたのか。


「トロールはどうした?!もうこっちに来たのか?それにさっきの轟音は何だ?」

 エドさんが焦った様子で聞いてきた。


「安心してくれ。トロールはもう討伐済みだ。君達も無事でよかった」

 隊長の言葉に、エドさんはホッとした様子になる。


「そうか、、俺達が森を調査中にボーンウルフの群れが全滅しているのを発見してな。

そこからトロールが居るのが見えたんで、向こうに見つからない様に大きく迂回して村に戻って来たんだ」

 その時の事を思い出したのか、エドさんの顔色が悪くなった。


「君達もなかなか大変だった様だね。だが、もう大丈夫だ。怪我人も出さずに片付いたからね」

 隊長が安心させるように言った。


「それで、倒したトロールは?」

 少し落ち着いたらしいエドさんが聞く。

「そこだ」

 隊長が、開けた門の陰でひっそりと倒れ伏すトロールを指し示す。エドさんとパーティメンバーは身を固くした。


「よく死傷者無しで倒せたな」

 エドさんの言葉に、隊長が答える。

「彼のおかげだね。彼が防御魔法を掛けた防壁の門にトロールが突っ込んで、首の骨が折れたようだ」

「、、こいつが?」

 エドさんが気まずそうな顔で俺の方を見る。


「しかし、この場合、防御魔法で倒したことになるのだろうかね?討伐者と認められるのか?」

 隊長は考え込む。


「いや、攻撃して倒した訳でもないですし?」

 討伐者の認定とか、もう要らないですし?


「それより、このトロールの死体はどうするんです?」

 隊長!全力で話題を変えさせてもらうぜ!


「そうだな。まず領主館から役人を派遣してもらって検分してもらう。

その後、解体して素材の売却になるかね。解体師も呼んだ方がいいか」

「町に運んだ方が早いんじゃないですか?」

「無理だね。こんな大きな物を運べる大型の荷馬車は領内にはない」

「俺の収納魔法に入れば、町まで運べるかもしれません」

「いや、それこそ無理だろう」

「ちょっと試してみますよ?」

「まあ、構わないが、、、って、入ったーーー!?」

 うむ、このリアクション、前も見たな。


「あ、ありえねえ、、」

 脇に居たエドさん達も驚愕している。

 周りに居る守備兵達もこちらをガン見しているし。


 場が固まっている中、声が掛かった。

「隊長!トロールが倒されたと聞きました」

「ああ、幸いね」

 あ、村長のモーデンさんだ。カルデンさんもいる。


 モーデンさんは少し周りを見回すと続けた。

「あの、なにかあったのですか?」

「あー、大したことではない、、こともないか。見た方が早いでしょう」

 モーデンさんは首を傾げている。


「オーマ君、トロールを出してくれ。悪いが少し離れた所にお願いするよ」

「あ。はい」

 俺は二人を驚かせない様に十分離れた場所にトロールを取り出す。


 二人の方に振り返る。

 モーデンさんは目を丸くしてトロールを凝視しているな。


 一方、カルデンさんは厳しい表情だ。そして、絞り出すような声で呟く。

「確かにトロールじゃ、、よくやってくれた、、ありがとう」


 そして、悲痛な表情で黙り込むカルデンさんに、何か察したのか隊長が声を掛ける。

「幸い死傷者は出ていませんから、ご安心を」

「なんじゃと!?、、いや、、それならよかった。本当によかった」

 カルデンさんはホッと表情を和らげた。その横でモーデンさんも頷いている。


 モーデンさんが俺に話しかけてくる。

「取り出してもらって早々で悪いが、またトロールを収納してくれないか?あまり村の住民に見せたくない」

「分かりました」

「うむ、ありがとう、オーマ君」

 俺は再度トロールを収納魔法に収める。


「、、うーむ?よく考えたら、トロールを収納できる収納魔法とは人間離れしとるのう?」

 カルデンさんは首をひねりながら、ボソリと呟いた。



「さあ!今夜は、ささやかですが宴としましょう。どうぞ、皆さんもご参加ください」

 モーデンさんはみんなにそう告げると、守備兵達から歓声が上がった。




 その日の夜は宴会になった。

 村人が集まって、飲んだり食べたり騒いだりと賑やかだ

 まあ、無事にトロールが倒せてよかったな。平和が一番だ。


 俺の方は、昼間一緒に働いたおっさん衆に囲まれて酒を勧められたりした。

 歓迎はありがたいが、俺は酒飲まないよ?後、やっぱり暑苦しい。


 エドさん達のパーティは、、端の方で肩身が狭そうにしている。

 いやまあ、ちょっとタイミングが悪かった感じだからね?あまり気を落とさないで下さいよ?



 宴会の次の日の朝、俺達は村長の家に集まった。

 村長のモーデンさん、カルデンさん、守備隊長、エドさんのパーティ、そして俺だ。


 トロールの出現も当然重大事案なので、隊長と俺は町に報告に戻る事になった。

 エドさんのパーティは引き続き森の調査に当たるそうだ。

 元々報告のあった魔獣の確認と、念のため村の周囲を調べるのが目的だ


 町に戻る準備をしているとエドさんがこちらに来た。

「オーマよ、色々とすまなかったな」

 そう言って頭を下げる。


「えーと?」

 トロール戦の時、居なかったからかな?


 エドさんは気まずそうな顔で続ける。

「正直、依頼にお前が追加で入った時はいい気分じゃなかったんだよ。

念の為とは言われたが、俺達だけでは力不足という意味と同じだからな」

「な、なるほど」

「お前の噂も聞いてはいたが、とても信じられない様な内容もあったんでな。ギルドマスターが特別扱いでもしているのかと思っていたんだ」

「そうですか、、」

 どう言う噂が流れてるんですかね?


「だが、お前の実力は本物だった。今までひどい扱いをしてすまなかったな」

 エドさんはそう言って、また頭を下げた。


「まあ、その、謝罪を受け入れるので、あまり気にしないでください」

 依頼に追加でねじ込まれた身ですし?


「そうか、ありがとう」

 エドさんの表情が和らいだ。マジで気にしなくていいんやで。


「君達、話は終わったかい?そろそろ出発したいのだが」

 遠目で様子を見ていた隊長が声を掛けて来た。


「ええ、いろいろ申し訳ない」

 エドさんは隊長に頭を下げる。

「まあまあ。結果良ければ全て良し、さ」

「恐れ入ります」

「それより森の調査をしっかり頼む。ただし功を焦って無理はするなよ?」

「ええ、分かっています。では失礼」

「ああ、気を付けてな」

 エドさんは俺達に目礼して去って行った。


「さて、こちらも出発しよう。馬車に乗り給え」

「了解です」


 俺達は、馬車で村を出て町に向かった。



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