第67話 村の防衛戦
昼食後、出されたお茶を飲んでまったりしていると、声を掛けられた。
「オーマさん!よかった、ここに居ったんじゃな」
ん?カルデンさんだな?
「どうしました?」
「森の調査に行った連中が戻って来ておらん様じゃが、あんた見かけたかね?」
「いえ、見てませんが」
そういえば、昼頃までに戻るとか言ってたような?
「うーむ。村の守備隊の隊長が状況を知りたいらしくてのう。あんただけでも隊長に会ってくれんか」
「いいですけど、俺は材木の運搬しかやってないから、特に話せることは無いですよ?」
「構わんよ。隊長の所に案内しよう。ついて来ておくれ」
「分かりました」
俺は配膳をしてくれたおばちゃんに礼を言って、カルデンさんと広場を後にした。
村の西側の防壁に来た。
丸太を組んだ感じの頑丈そうな壁で上の方には足場がある。
弓を持った守備兵が立っていて、森の方を警戒している様だ。
近くにはもっと高い櫓もあり、そちらにも人が居る。
「隊長!依頼で来た冒険者で村に残っておった者を連れて来たぞ」
「ああ、カルデンさん。、、彼一人かい?」
「そうじゃ。やはり他の連中はまだ戻っておらんらしい」
隊長は俺の方を見た。
「えーと、俺はCランク冒険者のオーマです」
「私はこの村の守備隊長のメルビンだ。君、彼らがどの辺りまで調査に行ったか知っているかい?」
「その、、聞いていません。すいません」
「そうか」
隊長の表情が厳しくなる。
「隊長。彼は調査に行ったパーティとは別のパーティの様じゃ。合同パーティと言っておったからのう」
カルデンさんがフォローしてくれた。
「、、君も大変そうだね」
隊長は何か察した感じでそう言った。
いや、何と言うかすんません。
「しかし困ったね。こちらから斥候を出すべきか」
隊長は考え込む。
「俺が魔法で周囲を調べてみますか?」
近場に居れば探査魔法で位置が分かるだろうからな。
「そんな事が出来るのか?君は」
「あまり遠くまでは分かりませんけどね」
「試しにやってみてくれないか?」
「ええ。足場に上がらせてもらいますよ」
高い位置の方がわかりやすいからな。
「では、私も行こう」
隊長と一緒に足場に上がる。
うむ、見晴らしがいいね。
村に近い所は木が伐採されて見通しがいいが、その向こうは森の木で見通しは悪い。
だが、俺の魔法なら問題ない。
早速探査魔法を発動して周囲を見回す。
、、えーと?なんすかね?あれ。
村の西側に人らしい反応はないが、、別の反応はある。
と、言うか、、
「なんか、デカくね?」
思わず、そんな言葉が出た。
ありえない大きさの人型のシルエットが見える。木よりは低いが人間の背の高さではない。
魔力の圧も強い。ブラッドベアー以上だ。
「どうした?なにかわかったのかね?」
俺が驚いているのに気付いた隊長が聞いてきた。
「向こうに巨大な人影が見えます。しかも相当強そうです」
隊長は俺が示した方向を見て怪訝な顔をする。
「いや、君、、まてよ?森の木ごしても視覚で感知出来ているのか?」
「ええ、そうです」
「距離と大きさは?」
「距離はまだかなり遠いです。大きさは、、人の数倍だと思います」
隊長の顔色が変わった。櫓に居る守備兵に確認させる。
櫓に居た守備兵は双眼鏡で森の向こうを見ていたが、やがて口を開いた。
「、、木が、、揺れています。何か居るようです。、、あ、あれは、、ト、、トロールです!!」
「ぐ、、やはりか、、」
隊長の顔か歪む。
「トロール、ですか?」
ファンタジーらしくはあるが、、ゲームなんかじゃかなり強いイメージだな。
「巨大な人型の魔物だよ。非常に危険な相手だぞ」
隊長は厳しい表情でそう言った。
魔物?魔獣とは違うのか?
いや、それより、エドさん達は大丈夫なんだろうか。
村の西の森に人の反応は無い。実際に人が居ないだけならいいが、、、
とにかく、今はトロールへの対処が先だろう。
「カルデンさん!住民を町まで避難させてください!まだ時間はあります!落ち着いて行動を!」
「わ、分かった!隊長!」
隊長の指示を受け、カルデンさんは走り去った。
「君も避難したまえ、オーマ君!」
「いえ、俺も防衛を手伝いますよ?そう頼まれてますし」
「、、そうか、、すまない。だが、無理はするなよ?君は命までかける必要は無い」
「了解です」
まあ、近接戦闘をする気は無いから大丈夫だろう。
むしろ、守備兵達の悲壮感がすごい。大丈夫なのかよと。やばくなったら、ちゃんと逃げるんだろうか。
守備兵達が防壁の足場に上がり、弓の準備をして待機する。俺も足場に上がった。
森の木が揺れている場所が近づいて来る。トロールは、真っすぐこちらに来ている様だ。
しばらく待つと、木が伐採された見通しのいい場所に、トロールが姿を現した。距離は500メートルといった所か。
デカいな。体高は余裕で5メートルは超えている。
一応、人型ではあるけど不気味な姿だ。
大木のような手足は妙に長く、胴体はずんぐりして短い。体の色は青黒い。もちろん服は着ていない。
首は太過ぎて、肩から頭までなだらかに繋がっている。
頭は、、魚風?出目金のような出っ張った目が頭の横についている。デカい口もなんかサメっぽい。
頭の上の両脇に尖った小さな猫の耳の様な物がある。耳なのか角なのかは分からない。
武器なのか、棍棒のような丸太を持っている。
トロールは森から出て来た位置で 停止した。
じっとこちらを観察している様にも見える。身じろぎもしない。
トロールは人型だが、知性や感情はあるんだろうか。吠えたり威嚇したりはしていないし。
しばらくすると、トロールが動いた。猛烈な勢いでこちらに走って来る。
防壁の足場に居る守備兵達が一斉に弓を構える。
「私の合図を待て!しっかり狙えよ!」
隊長が叫んだ。
「俺も魔法で攻撃します!」
「ああ、頼む!」
俺はマジックミサイルの用意をする。今回は特に魔力マシマシだ。
腕程の大きさで、いつもより強く輝いている。
その間に、トロールはどんどん接近してくる。やばいくらいデカく見える。
距離が150メートルほどになった時、隊長が合図を出した。
「攻撃開始!」
弓を放つ音が連続で響く。
俺もマジックミサイルを発射する。
マジックミサイルはトロールの頭目掛けて真っすぐ飛んで行く。
トロールがひょいと棍棒を頭の前に掲げた。
マジックミサイルが棍棒を粉々にするが、トロールにはダメージは無い。ジャストミートかよ!
トロールは、ひるむ事もなく、体を低くしてさらに加速した。守備兵の矢もあまり効いていないみたいだ。
俺は再度魔法で攻撃しようとしたが、あの速度では誘導しても当たりそうにない。低い位置で正面に立てば当たるかもしれないが。
奴は減速せずに突っ込んでくる。防壁の門に体当たりして打ち破るつもりだな!?
俺は足場から飛び降り、防壁の門の内側に駆け寄る。
「やめろ!オーマ君!」
隊長の叫び声が聞こえた。
俺は門に両手をつき、全身全霊、渾身の防御魔法を発動する。門と防壁に一体化しているイメージだ。
発動と間髪入れず、大きな爆発音のような轟音が響いた。地面も門も俺もグラグラと揺れる。
だが、門も防壁も持ちこたえた。俺も無事だ。
どうなった?
俺は防御魔法を維持したまま様子をうかがう。
やけに静かだ。守備兵の攻撃も止まっている。
なんか様子がおかしいな?
「おい、トロールの野郎、動かないぞ?」
「気絶したのか??」
「タフなトロールが気絶だと?」
守備兵達がざわついている。
「気を抜くな!全員、弓で攻撃しろ!」
隊長の指示を受けて、守備兵達が攻撃を再開する。
しばらくの間、弓を撃つ音が続く。
「撃ち方やめ!」
隊長が攻撃停止の指示を出した。
「死んでるんじゃないか?あれ」
守備兵の一人が呟いた。
せやな。さっきからトロールの魔力の圧を感じないからね。
念のため、探知魔法を掛け直して確認するか。
、、やっぱり、反応が無いっすね?、、、うん、死亡確認。
なんかよく分からんけど、どうにか無事に片付いたか。
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