第55話 モンスタートレイン



 今日も町の西の森に来ている。天気は良い。

 昨日の雨のせいか下草はしっとりした感じだが、地面がぬかるんでいるほどではない。足場には影響無さそうだ。

 町の西門から出て、小道をしばらく進んだ所で前方が騒がしくなった。


「ひゃーはっは!魔獣が来たぜえ!逃げろや逃げろ!」

「森は危険だなあ?全くよう!ぎゃははは!」

「俺達じゃあ手に負えねえなあ!逃げるしかねえなあ?ひひひっ!」

 三人組の男達がそんな事を叫び、脇を走り去っていく。

 、、あいつらは、、、あの恐喝未遂のチンピラ冒険者達か?


 俺の周りに居た人達も騒ぎ出す。

「お、おい、マジか?!」

「俺達も逃げないと!」

 彼らも町に向かって走り出した。


 俺は探査魔法を発動して、三人組が走って来た方向を確認する。

 そこそこ離れた場所に、魔獣らしい反応がこちらに向かってくるのが分かる。三体だ。

 だが、その手前に、人間らしい反応が二つある。その反応はあまり動いていない。

 逃げるでもなく、止まるでもなく、ただ普通に歩いている様な?

 、、魔獣が来ていることに気付いていない?

 俺は慌てて全速で駆け出した。



 探査魔法で感知した二人が見えるところまで来た。

 アレクとリーナだ。薬草採集に来ていたらしい。

 魔獣はまだここまでは来ていない。間に合った!


 俺は二人に向かって叫ぶ。

「魔獣が来る!三体だ!近くまで来てる!」

 二人が俺に気付いて、声を上げた。

「さ、三体も!?」

「ア、アレク!に、逃げないと!」


 俺は素早く頭を巡らせる。

 あの反応の移動速度は速い。その上、距離も近いし、三体居る。、、この二人は逃げきれないだろう。

 俺が留まって迎撃しても、一体でも逃せば、二人は襲われる。二人でも一体ぐらいは倒せるのかどうかは分からない。

 それに、ここから町までには、まだ人が点在している。ここで仕留め切らなければ、誰かが襲われる可能性は高い。。


 俺は二人に静かな声で言う、

「逃げる時間はない。ここで迎撃する。三人で」

「む、無理だ!」

「そ、そんな、、」

「アレクはリーナと自分を守るだけでいい!リーナは俺とアレクの間に居ろ!後は俺が仕留める!もう来るぞ!」

「わ、分かった!」

 アレクと俺は剣を抜き、背にリーナを挟むように立つ。俺は魔獣の來る方向だ。


 ほどなく、一体目が俺に突っ込んできた。狼の魔獣、ボーンウルフだな。

 そいつは俺の腕に嚙みついて来た。よし、これでいい。一体引き付けた。防御魔法でダメージを受けていない俺はひるむ事もない。

「オーマさん!」

 アレクが叫ぶ。

「大丈夫だ!それより、そっちに一体来るぞ!」

「わ、分かった!」

 俺は、腕を嚙みちぎろうとして暴れるボーンウルフの喉辺りに剣を突きこむ。

 直に剣で魔獣を仕留めるのは初めてだ。いやな感触だ。


 姿の見えない残り一体を確認する。

 茂みの裏に隠れ、隙を伺っているな。探査魔法で完全に視えている。

 俺は素早くマジックミサイルを発動して発射する。

 相手のボーンウルフはジャンプして飛びかかろうとしたが、誘導されたマジックミサイルで撃ち落とされる。


 アレクの方を伺う。リーナと連携してどうにか残り一体のボーンウルフを抑えている。

 仲間二体がやられ、分が悪くなったせいか、そいつは逃げ出した。


 俺は逃げ出したボーンウルフに容赦なくマジックミサイルを撃ち込む。

 ここは結構町に近い。普段は弱い魔獣しかいない場所だ。だから、奴を野放しには出来ない。

 

 、、一撃では、仕留められなかった様だ。

 俺は素早く近付いて、剣でとどめを刺してやる。一瞬、目が合った。すまんな。成仏せえよ、、


 俺は再度探査魔法で周囲を確認する。

 近くに他の強めの魔獣は居ない様だ。


 二人の方を見る。ホッとした様子で安心した表情になっている。

「二人とも怪我はないか?」

「ああ、何とか」

「私も大丈夫です。それより、オーマさんの腕が、、」

「怪我は無いよ。防御魔法で完全に防いだから」

「む、無傷なんですか?」

「ああ」

「すげえ、、」

 二人は目を丸くして驚いている。


「ところで、俺が来る前に誰か来なかったか?」

「え?そう言えば、この前私達からお金を巻き上げようとした三人が来ました」

「ああ、すぐに走って行っちまったけどな」

「そうか」



 俺はボーンウルフ三体を収納魔法に回収し終わると、二人の所に戻る。

「冒険者ギルドに報告に行こう」

 俺は二人に向かってそう言った。


「え?あ、ああ、分かった」

「あの、、オーマさん、、」

 なぜか二人の表情が硬くなった。ああ、そうか。

「他に強い魔獣は来ていないから大丈夫だ。魔法で確認した」

「そ、そうじゃなくて、、」


 俺は町の西門に戻りながら考える。

 あの三人組はボーンウルフに追われていることをこの二人には言わなかった様だ。

 、、わざと、この二人の所に誘導してきたのかもしれない。だとしたら、、、

 

 西門に戻ると、武装した衛兵が集まっていた。ザックさんもいる。

 冒険者らしいのも集まっている。そっちは魔獣から非難して来た連中らしい。


 ザックさんがこちらに来た。

「オーマか。魔獣が町の近くに出たって聞いてる。お前らは大丈夫だったか?」

「ああ、ボーンウルフが三体来たが、全部仕留めたよ。怪我人も出てない」

「片付けたのか。まだ他に魔獣は居たか?」

「いや、近くには居ない様だった」

「そうか、助かったぜ。お手柄だったな」

 ザックさんは息を吐いて、少し安心した顔になった。


 だが、また硬い表情になった。

「お前、大丈夫か?」

「?ああ、俺も怪我して無いよ。とりあえず、冒険者ギルドに報告に行ってくる」

「、、そうだな。俺は念の為、森を確認してくる。後は任せろ」

「うん、よろしく」


 ザックさんは人が集まっている方に行った。状況を説明する様だ。

 俺は、アレクとリーナと共に冒険者ギルドに向かう。



 

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