第56話  冒険者ギルドの役割




 無言で歩き続け、ギルドに着く。

 中に入ると、何かザワついていて、落ち着かない様子だった。

 受付カウンターにはアリサさんが居た。その横に何故かギルドマスターも居る。


 俺はカウンターに近付き、口を開く。

「緊急の報告がある」

「え?オーマさん?あ、いえ、、何でしょうか?」

 アリサさんは何故か驚いた様な顔で聞き返して来た。


「町の近くにボーンウルフが三体現れた。全て討伐済みだ。今はザックさん、いや、衛兵隊が安全の確認に行ってる」

 アリサさんはギルドマスターに目を向けた。ギルドマスターは頷いている。

「それに関しては先程目撃報告がありましたが、、既に討伐済みなんですね?」

「ああ。その報告はいつ?」

「つい先ほどですが、、あの?オーマさん?」

 報告が遅すぎる、、門の方もそうなんだろう。


「報告した連中は?」

「男性三人組のパーティです。まだ、隣の食堂に居るかと」

「そう、か」

 俺は隣の食堂に向かう。

 居るな。声が聞こえる。


「それにしても、急に魔獣が現れて驚いたぜ?ぎゃははは!」

「そーだな!やっぱ、森は怖えよなあ?」

「ひひ!危ない所だったぜえ!」

 例の三人が居るテーブルに近付く。


「おい、お前ら」

「ん?なんだ、てめえかよ」

 奴らの一人が俺の後ろに目をやり、不機嫌な顔になる。

 チラと後ろを見ると、離れた所でアレクとリーナが心配そうにこちらを見ていた。


「お前ら、わざと魔獣を連れて来たな?」

「おいおい、言いがかり付けんなよお。へっへっへ」

「そうだぜえ。わざとやったって証拠でもあんのかよお。ああ?」

「あいつらがあの場所に居たのは、たまたまだ。事故ってわけよ、ひひっ」

 こいつらのヘラヘラした態度に、自分でも驚くほど腹が立った。

 元の世界ではこれほど怒るような事は無かったな。


 全身に力と魔力がこもる。

 俺は三人組の方に一歩踏み出す。ミシリと床がきしむ音がやけに大きく聞こえた。



「オーマ!ギルド内で人に「威圧」を掛けるのはやめなさい」

 声に振り向くと、硬い表情でこちらを睨むギルドマスターが居た。


「ギルドの床が汚れるわ」

 ん?どゆこと?

 ギルドマスターは顎であいつらの方を示した。

 俺はあいつらの方を見る。


 、、えーと、なんか三人とも顔色が悪いっすね?カクカク震えてるし?急に寒くなった?


 周りのみんなも奴らを見たようだが、なんかザワザワし始めた。

「おい、あいつら漏らしやがったぞ」

「げ、マジかよ」

 あ、本当だ。やべえ、俺のせいか。「威圧」とか言われたし。


「あの、、すいません、、」

 俺はギルドマスターに謝った。

「あの子たち、見た目の割に肝が細かった様ね。汚した床は自分達で掃除してもらいましょう。

ライアン!彼らがきっちりやる様に監督お願いするわ」

 ギルドマスターは、いつの間にか食堂の入り口辺りに来ていたライアンさんに声を掛けた。

「おう。分かった」

「あなた達は私の執務室に来てもらうわ。事情を聴きましょう」

「はい」

 俺とアレクとリーナは、ギルドマスターの後に付いて二階に向かった。



 執務室に着くと、ギルドマスターは俺達三人に向き直った。

「さあ、何があったか話してもらいましょうか」


 俺達は事の経緯を説明した。

 もちろん、あいつらが魔獣が来た事をアレクとリーナに警告しなかった事も含めてだ。


「大体の経緯は理解したわ。実質的な被害が出なかったのはなによりね」

 ギルドマスターは深く頷いた後でそう言った。


「あの三人はどうなるんです?罰せられるんですか?」

 俺はそう聞く。

「慣例上では具体的な懲罰は出来ないわね。被害が発生しなかったから。

それに故意で魔獣を引き連れて来たかどうかを証明するのは難しいわ」

「じゃあ、御咎めなしなのか?」

 俺の語気が荒くなる。


「そうはならないわね」

 涼しい顔でギルドマスターは答えた。

「元々、こういった事案では、被害が出ない場合でも加害者にはペナルティはあるわ。

厳重注意は勿論、ギルドに指定された訓練や依頼を受けるとかね。

でも、今回の件はそう言った事では済まさないわ」

「じゃあ、どうなるんだ?」

「周囲の者への警告やギルドへの報告の義務を十分に果たさなかったのは、大幅に信用を落とす行為よ。

彼らは普段の素行も悪かったから、信用度は最悪ね。この町の冒険者ギルドで働かせるわけにはいかないわ」

「つまり除籍という事?」

「そこがそう簡単にいかないのよね」

 ギルドマスターは困った顔になった。


「冒険者ギルドには複数の社会的役割もあるわ。貧民の救済と素行不良者の更生もその内に入るわ。

彼らに仕事を与え、犯罪に走らない様にすると言う事ね」

「なるほど」

「だから、重罪になるような犯罪でも犯さない限り、いきなり除籍と言う事は無いわ」

「でも、それじゃあ、、」

「確かに冒険者の中には犯罪者予備軍みたいなのも居るわ。

そのせいで冒険者に悪い印象を持つ者も居る。特に低ランク冒険者に対してね」

「、、、」

 俺は黙り込んだ。冒険者は色々厄介な事もあるんだな。


「そんなわけで、彼らへの処分はミドウッド支部への出入り禁止よ。

一旦、王都本部の預かりになるわね。彼らのパーティリーダーも一足先に王都に移送されたし」

 あー、あいつらが「兄貴」って呼んでた男か。


「まあ、最終的に更生の見込みが無ければ、更生施設に収監されて強制労働でしょうけど」

 そういうのもあるんやな。


「さて、オーマ。納得はできたかしら?」

「え?あ、はい」

「よろしい」

 ギルドマスターは頷いた。


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