第53話 ラピッドラビット



 西の森に入り、この前、兎の魔獣を見かけた辺りまで来た。

 まずは、魔力感知魔法で周囲を探る。

 今回は初めて特定の魔獣を探して捕獲する事になる。うまく見つけられるといいが。

 

 比較的小型で弱めの反応が幾つかあるな。ここからは出来るだけ気配を消していかないとな。

 まずは、一番近い奴を確認に行こう。


 気配と魔力を消して静かに近付く。

 、、でかい地鶏っぽいのが居る。


 頭の辺りにはあまり羽毛が無く、小さいトサカがある。体格はがっしりした感じで丸々としている。あと、尾羽が扇みたいに大きく広がっている

 七面鳥って奴ですかね?首が長いせいで俺の背の高さと同じくらいの体高があるけどな。まあ、ダチョウよりは小さいか。


 こいつはスルーして先に進む。ここで騒ぐと本命の兎の魔獣に逃げられるかもしれないからな。

 次行ってみようか。



「ブフー、、ブフー、、」

 見付けた。確かに兎の魔獣、ラピッドラビットだ。


 と、思うんだけど、この前見たのと印象が違う。

 なんか、落ち着きなくキョロキョロしているし、異常に鼻息が荒い。挙動不審のレベルだ。なんなんですかね?アレ。

 、、狩っても大丈夫な奴なのか?別のにした方がいいかな、、


 む?奴の動きが止まった?こちらに向いた。ち!こっちに気付いたな!

 俺は慌てて飛び出して、マジックミサイルの用意をした。


 いや?何故か奴は逃げる様子が無い。頭を上げたままこちらを見ている。 

 なんかおかしいぞ? と言うか、野獣かよ!アレ!兎っぽさがないよ?!

 奴はありえないほど瞼を見開き、ギョロついた眼で俺を睨みつけている。兎って白目あったか?


「ブフアー!」

 雄たけびを上げ、奴がこっちに突っ込んで来た。

 その頭突きを素早く躱す。

 慌てて背後に向いたが、奴の後ろ姿は茂みの中に消えた。逃げられたか。


 、、ん?まだ気配はある?

 俺の右の茂みから奴が飛び出して来た。

 これも躱した。また姿が消えたが、逃げてはいないな。

 俺は探査魔法を使った。周囲に様々なシルエットが浮かび上がる。


 居たな!

 俺は奴のシルエットにロックオンしてマジックミサイルを発射する。

 茂みから飛び出して俺に向かってきた相手を迎撃した。どうにか仕留めたな。

 目視出来なくても探査魔法の反応だけでマジックミサイルで狙えるとか、チート臭いがな。


 獲物を確認したが、やっぱり野獣顔だ。大丈夫かな、コレ。

 そんなに強い魔獣でもなかったが、別の意味で怖い。「ジャンル:精神的恐怖」なんやな。

 とりあえず、獲物を回収して帰ろう。




「いやー、なんか、こいつ、無茶苦茶攻撃して来たんだけど?」

 俺はギルドの解体場で獲物を出して、アブドラさんにそう言った。

「あー、これがあったな。こいつはつがいの相手を探しているオスだな。興奮して異常に狂暴になるんだよ」

「マジかよ」

 アブドラさんは俺が獲って来たラピッドラビットを検分する。


「この腫れぼったい瞼、血走った目、むくんだ口元。間違いない」

 こいつが野獣顔なのはそのせいなのかよ。


「まあ、ある意味ついてるんだがな」

「えー、なんでよ?」

 アブドラさんは獲物の後ろ足を開脚した。


「この「玉」が高く売れるんだ。強力な精力剤の材料として、特に王都で珍重される」

 何と言うか、、すごく、大きいです。


「よし、査定は俺に任せて、向こうで待ってろ」

「ああ、分かった」

 俺はそう答えて買取カウンターの方に戻り、ベンチに座って待つ。


 しばらくすると外が騒がしくなった。

「オーマのあんちゃんが帰って来たって?!}

 フィルが買取棟に跳びこんで来た。リアンも後からやって来る。


「あんちゃん!兎獲れた?!」

「ああ、獲れたぞ。今、査定中だ」

「やったー!ありがとう!あんちゃん!」

 フィルは小躍りして喜んでいる。リアンもニコニコしている。


「よかったわね、フィル!さあ、オーマ、査定終わったわよ。書類、確認して」

 買取カウンターに居たメリダさんが声を掛けて来た。

 書類を受け取り内容を確認すると、例の「玉」の価格も載っていた。

 、、なるほど。お高いんですね?

 それ以外の部分の合計は普段の獲物程は高くない。アナグマの魔獣とかより小さいからね。


 サインした書類を戻して、買取金を受け取ったところで、アブドラさんが解体場から出て来た。

「おう、お前ら、来てるな。兎肉は用意したぞ。

金の方は心配すんな。ギルドマスターや他のみんなからのカンパも集まったからな。

おかげで、しばらく兎肉の差し入れが出来そうだ」

「あ、ありがとう!」

「、、みなさん、、ありがとう」

 フィルとリアンはちょっと涙ぐんでいるようだ。


「俺もいくらかカンパするよ」

「お、そうか。そいつはありがたいぜ」

 俺はアブドラさんにいくらか金を預けた。

「確かに預かったぜ。大事に使わせてもらうぞ」

「ああ、よろしく」


 アブドラさんはフィルとリアンに向いた。

「さあ、お前ら、兎肉を孤児院に持って行ってやれ」

 そう言って、包みの入った手提げ篭をフィルに渡す。

「うん!」

「はい!」

 二人は元気よく答えた。


「じゃあ、気を付けて行けよ?慌てて落としたりすんなよ」

 アブドラさんがちょっとからかうように言った。


「大丈夫だよ!任せとけ。あんちゃん、ありがとね。じゃあ、またねー!」

 フィルは元気よく出かけて行った。調子が戻ったようで何よりだ。

 リアンはお辞儀をして、フィルの後を追って行く。

 俺は、ほっこりした気分で二人を見送った。


「オーマよ、俺からも礼を言わせてくれ。ありがとうな。

俺もあの孤児院の出身でな。院長先生は年の離れた姉さんみたいな人なんだ。

だから、あいつらの気持ちは良く分かる」

 二人を見送りながら、そう言ったアブドラさんの表情はとてもやさしい。顔はいかついが。


 院長先生が早く良くなるといいな。

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