第52話 討伐報酬



 魔獣騒動の次の日の朝、俺は冒険者ギルドに向かった。

 もちろん、昨日の討伐の報酬を受け取るためだ。

 ギルドに着いた俺は、受付カウンターに行った。今日は、多少人が並んでいる。この時間帯は人がいるんだな。

 しばらく待つと、俺の番になった。カウンターにいるアリサさんに話しかける。


「おはよう、アリサさん。昨日の件の報酬を受け取りに来たんだけど」

「おはようございます、オーマさん。報酬の用意は出来てますよ」

 アリサさんはそう言うと、書類を出して来た。

「まずは、今回の件に関する書類の確認をお願いします」

「あ、はい」


 結構、面倒なんやな。

 えーと?事案の発生地域と日付、当事者のパーティリーダー名、対応した衛兵の責任者、討伐した魔獣、討伐者名、と。

 なんか色々細かいよ?

 下の方に報酬に関する事が書いてあるな。討伐報酬と早期解決の褒賞金だ。

 討伐した魔獣の方は、通常の獲物と同じ扱いで普通に買い取ってもらう事になる様だ。


「書類の記載内容と報酬額に異議が無いようでしたら、承認のサインをお願いします。一番下の欄です」

 報酬額の相場は知らないが、思ったより高額だしこれでいいかな。

 他の記載も問題ないので、承認のサインをして書類をアリサさんに返す。


 アリサさんはサインを確認すると報酬の金を載せたトレーを渡して来た。

「これが今回の件の討伐報酬と褒賞金になります。確認をお願いします」

 俺はうなずいて、金額の確認をする。よし、OK。


「うん、確かに受け取りました」

「はい。では次に、今回討伐された魔獣についてですが、こちらの引き取り証書を買取棟のカウンターに提出して買取金を受け取ってください」

 今度は別の書類が出て来た。ギルドに預けた獲物を引き取るのに必要な物らしい。

「ありがとう。後で行っときます」


「ところで、オーマさん」

「はい?」

 アリサさんは微妙に言い辛そうな感じだが?


「あの、、オーマさんはパーティを組む相手は見つかりましたか?」

「えーと?いや?」

 べ、別にボッチとかでもないんやで?ソロでも困ってないし?


「そうですよねー」

 アリサさんは困り顔でそう言った。

 ちょ!アリサさーん?!


「ミドウッドには、単独で活動している冒険者でオーマさん程の実力のある人は居ませんからね、、」

「、、はは、そうですか」

「かと言って、結束力の高いベテラン中堅パーティへの編入は難しいですし」

「俺は別に無理にパーティ組まなくても大丈夫ですけど?」

「個別依頼はパーティ向けの物がほとんどなんです。単独向けだとオーマさんにお勧め出来そうなものが中々無くて」

「常時依頼の薬草採集と狩猟だけでも稼げてるからいいけど?」

「ダメですよ。それだけだと中々実績が増えないじゃないですか。ランクアップ出来ませんよ?」

「いや、特に急いでランクアップしたいわけでもないよ」

「オーマさんは、すごい力を持っているんですから、それを生かさないのはもったいないですよー」

 アリサさんのふくれっ面もかわいいですけどね?


「いやまあ、じっくり目でやって行こうかな、と」

「確かに慎重なのは良い事ですけど、、程がありますよ?」

「ははは。、、さーて、買取棟に金を受け取りに行こうかなー。そろそろ失礼します」

「むー、しかたないですね。お疲れ様でした」


 俺はそそくさと買取棟に向かう。

 ちょっと派手にやり過ぎたかね。短期間でランクアップとか目立ちすぎる。

 素性を探られたりするのはまずいだろう。

 俺の場合、ランクアップより、資金を貯めて王都に行くのが優先だしな。


 買取棟の受付にはサテンさんが居た。

「来たな、オーマ。おはよう」

「どーも、おはようございます」

「うむ。昨日の件の獲物の香取だな?引き取り証は持って来たか?」

「はい、これです」

 俺が渡した書類をサテンさんは確認した。

「うむ、確かに。後の手続きは通常の買取と同じだ。査定額の確認をしてくれ」

 いつもの査定額の書類を渡され、普通に買取金を受け取った。

 うん、流石スパイクボアの大物。結構な額ですな。

「まいど。じゃあ、失礼します」

「うむ。気を付けて行け」


 さて、結構な金を手に入れたが、今日も軽く森には行っとくか。

 ん?なにやらギルドの中が騒がしいな?

 とりあえず、ギルドの本館に入る。


 受付カウンターの前で騒いでいる子供がいるな。

 それをアリサさんがなだめているみたいだ。

 何故か脇に困った顔をしたアブドラさんも居る。解体場以外で見かけるのは珍しい。

 他にも冒険者が数人いるが、遠巻きに見ているだけだ。


「あまり森の奥にまでは行かないから!オレ達に武器と防具を貸してくれよ!頼むよ!」

 どうやら、騒いでいるのは子供冒険者のフィルの様だ。相棒のリアンも近くに居る。泣きそうな顔で黙っているが。


 フィルが大声で言うのをアリサさんがなだめる。

「ダメですよ。二人共Dランクなんですから、魔獣の出る場所まで行くのは禁止です!」

「で、でも!院長先生が!だから今回だけ!お願い!」

「ダメだ。お前達では怪我をするのがオチだ。そんな事になったら、院長先生が悲しむだろうが。

狩猟をやってる連中に、俺から頼んでおくから、お前らはおとなしく待ってろ」

 アブドラさんもフィルをなだめている。


「でも、オレ達お金ないから買えないし、、それにいつ獲れるか分かんないし、、」

「金は俺が出してやる。後は待つしかない。それに院長先生の具合が急に悪くなることは無いと思うぞ?だから落ち着けって」


 俺は近付いて話しかける。

「何かあったのか?」

「あ!オーマのあんちゃん!、、そうだ!あんちゃん!オレ達を森に連れてってくれよ!」

 慌ててアブドラさんが口をはさむ。

「Cランク同伴でもお前達が狩猟で森に入るのはダメだ。薬草採りなんかとはわけが違うんだぞ!」

「で、でも!オレ達、、うわーん!」

 フィルは泣き出してしまった。


「とりあえず、事情を説明してくれないか?」

「孤児院の院長先生が倒れてな。あの人は体が弱くて、たまに寝込むことがあるんだよ。しばらく療養すれば治るとは思うが」

 アブドラさんがそう答えた。表情は硬い。

「それと森で狩猟するのとは関係あるの?」

「ああ。町の西の森に兎の魔獣のラピッドラビットってのが居てな。そいつの肉が滋養強壮によく効くんだ」

「それで、この二人が森に行きたいって言ってるわけか」

「ああ。兎の魔獣の肉は体の弱い者の療養には最適だからな」

 アブドラさんは頷いて答えた。


「、、ぐすっ、、あんちゃん、、お願いだよう、、森に連れて行って、、」

 フィルは泣きながら頼んできたが、、

「悪いが、お前達を森に連れていくことは出来ないぞ」

「、、あんちゃん、、」

「まあ、俺が一人で行ってくるから、お前らは町で大人しくしてろって」


「オーマさんに任せておけば、きっと大丈夫よ。フィルちゃん」

 アリサさんは笑顔でそう言ってフィルの肩に手を置いた。

「、、うん」

「ありがとう、、オーマさん、、」

 フィルとリアンは一応納得した様だ。


「すまんな、オーマ。ラピッドラビットは素早いせいで捕獲が難しい割には、一頭分の買取価格が低いんだ。

だから、狙って獲って来てもらうのは頼みづらくてな」

 アブドラさんにそう言われて、俺はこの前見た兎の魔獣を思い出した。確かにあれは素早かった。

「なるほどね。まあ、やってみるよ」

「よろしく頼むぜ」

「頑張って下さいね。オーマさん」

「じゃあ、行ってくるよ」


 俺は冒険者ギルドを出た。

 さて、西の森に行くか。


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