第8話 野営地



 俺は、ゴブリエルの後に付いて村から離れた。

 道は、もちろん舗装されているわけもなく、草木をどけて踏み固めた程度の物だ。

 歩き易いわけではないが、道があるだけマシだろう。

 ゴブリエルは慣れた様子で歩いて行く。


 こいつは猟師らしいが、皮鎧っぽいものを着て、弓矢を背負い、いかにもな感じだ。

 弓矢以外の他の荷物は意外と少ない。大き目の水筒2個と小型のバッグを肩から掛けている。

 後は腰のベルトに小物を着けている程度だ。

 たまに、こちらをうかがっているが、こちらのペースに合わせて歩いてくれている様だ。


 しばらく黙々と歩いた後、いくらか森が開けた場所に出た。

「ここで小休止するぞ」

 ゴブリエルは立ち止まると、そう言って、持っている水筒の片方を渡してきた。

 それ、俺用だったのね。

「ありがとう。世話掛けてすまん」

 俺はそう言って、ありがたく水筒を受け取った。

「いいさ。ヌシ様にお前の事を頼まれているしな」

 ゴブリエルは、そう返してきた。熊に改めて感謝だな。


「お前は、あまり森に慣れていない様だが、体力はありそうだな。これなら夜までに野営地に着けそうだ」

 ふむ。今は昼から幾らか経った時間の様な気がする。今から夜までだと結構な距離になりそうだ。

「野営地は、かなり遠いのか?」

 俺はそう聞いてみた。

「いや、野営地まではそれほどでもないが、森は暗くなるのが早いからな。野営の準備をする時間も必要だ」

 その辺は、流石本職の猟師だな。野外活動の知識がない俺では、遭難待ったなしやで。

「なるほど。今日は早めに休めそうだ」

「代わりに、朝は早い。夜明け前に起きるぞ」

「早起きは苦手だ、、」

「叩き起こしてやるから安心しろ」

 ゴブリエルはそう言った。


 休んだ後、出発して歩き続ける。

 日が陰って来た頃、また森が開けた場所に着いた。

 今度は、何やら屋根だけの小屋の様な物や、石を組んだキャンプファイヤーの跡の様な物がある。

 うん、キャンプ場だね。

 あの屋根だけの小屋は、所謂「シェルター」ってやつだろう。ネットのサバイバル物の動画で見たことがある。

 屋根だけを斜めに立て掛けた構造だ。多少の風雨や夜露ぐらいはしのげそうだ。


「ここが野営地だ。今晩はここに泊まるぞ」

 ゴブリエルはそう言って、屋根だけの小屋をチェックしている。

「雨除けはこのまま使えそうだ。俺は火を起こす準備をするから、お前は寝床用の草を刈ってくれ。

そこの背の高い草むらだ。根元までは刈らないようにしてやってくれ。量は二抱えもあればいい」

「わかった。まかせろ」

 俺はそう答えると、野営地の脇の草むらに向かった。

 ススキの様な背の高い草がモサモサと生えている。

 うーん、剣で斬って刈り取ればいいか。

 俺は腰に付けていた剣を抜いて、草を刈り始めた。剣を軽く振り回すだけで、サクサクと簡単に刈り取れる。

 やはり、この剣は切れ味がいいらしい。

 切れ味が落ちたら、手入れの必要があるだろうが、剣の手入れとか全然分からんな。

 などと考えつつ、しばらくサクサクやっていると二抱え程の草が集まった。


「草刈りが済んだぞ」

 俺はゴブリエルに声を掛けた。

「おう。雨避けの所に置いておいてくれ」

 刈り取った草をシェルターの所に置き、ゴブリエルの居る所に行く。


 円形に石を積んだ中に、薪が組んである。うむ、キャンプっぽい。

「さて、火を起こすか」

 ゴブリエルはそう言って、組んだ薪に軽く手をかざした。

 ボッと小さな音を立てて、薪が燃え上がった。


「魔法か」

 その手があったか、、、魔法のある世界だからね。

 木を擦り合わせてる場合じゃないね。


「ん?どうした?、、ああ。ゴブリンが魔法を使うとは思わなかったのか。

ゴブリンも人族と同じく魔法を使えるぞ」

 いえ、危うく、自分の聞きかじりサバイバル知識を、披露するところだっただけです。

 長老とか、いかにも魔法使いそうな雰囲気だしね。

「えーと、ゴブリンは、魔法使える奴は多いのか?」

「発火程度なら、みんな使えるな。それ以上となると、そう沢山は居ないか」

「そうなのか」


 この世界のゴブリンは、強キャラっぽいな。

「発火の魔法以上って攻撃魔法とかのことか?」

 俺がなんとなく聞いてみたら、なんだかゴブリエルの目付きが、ちょっと厳しくなった様な気がした。

「まあな。お前も魔法を使えるんだろ?」

「ああ。ファイアボール位なら使えるよ」

「、、森の中では使うなよ。火事になる」

 ゴブリエルの目付きが、完全に鋭くなった。

「もちろん、わかってるよ」

 俺は慌てて、そう返した。


「、、まあいい。飯にしよう」

 あ、飯か。食料の問題もあったな。

「俺、収納魔法に食料あるから、出すよ」

「収納魔法も使えるのか。先に言ってくれ。芋を掘って来たんだが」

「大丈夫だ。干し肉とかの肉類しか持ってないから、芋があるなら欲しい。代わりに干し肉をやるよ」

「すまないが、人族の食料は味が濃すぎて食べられないんだ。

まあ、芋はやるから安心しろ」

「そうか。ありがとう」


 しゃべっている間に、ゴブリエルは手際よく芋を葉っぱで包んで焚火に埋め込んだ。

 焼き芋?いや、蒸し芋かな。

「お前の荷物が少ないのは、遭難したせいかと思っていたが、収納魔法が使えるからだったんだな」

「いや、身に着ける様な荷物はあまり無いよ。保存食とか水の入った大樽とかは入ってるけど」

「そうか」

「まあ、おかげで遭難しても、サソリとかを食べなくて済みそうだけどな」

「、、人族は腹が減ったら、そんな物まで食うのか?」

 ゴブリエルにドン引きされた。

「いや、非常時だけだよ?ゴブリン族は虫食べないのか?」

「食べないな」

「あれ?バッタやハチの子とか食べないの?」

「、、食べないな。人族は普段から虫を食うのか?」

 今度はちょっと気を悪くした模様。


「たまに食べる程度かな。佃煮の奴とか。えーと、甘辛く煮た奴だよ。俺は滅多に食べないけど」

「そ、そうか」

 ゴブリエルに更にドン引きされてしまった。


「いや、珍味的な奴だから。栄養があって体に良いって言われてるし。食用の奴しか食べないし」

「お、おう。習慣とかは土地によって違うようだしな」

 アカン。完全に引かれてる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る