第9話 冒険者
しばらく沈黙が続いた後、ゴブリエルが口を開いた。
「そろそろ、芋が焼けた筈だ」
焚火から掘り出した包みを、一つこちらに渡してきた。
熱々だ。少し冷まして包みを開ける。
山芋の様な感じだな。味は、、なんか里芋っぽい。ねっちょりした歯ざわりだし。
次に、横に出して置いた干し肉に手を伸ばした俺は、ふと気が付いた。
どうやって食べるんですかね、コレ。このまま食べられる物なのかね。
「焼こうかな?」
ゴブリエルをチラ見しながら言ってみた。
「ん?別に焼いてもかまわないが」
なんでそんな事聞く、みたいな顔ですね。すいませんね。
俺は干し肉を木の枝で挟んで火で炙ってみた。
ちょっと焦げそうになったけど、よく焼いた方がいいよね?
しばらく冷まして、齧ってみた。
う、うまくねえーー!硬い上に、ひたすら塩辛い。
保存は利くんだろうけど、それのみに特化した感じ。
異世界物でメシマズ話はよくあるが、この世界はソッチ系なのかもしれない。
あ、芋はおいしいです。
芋のおかげで、どうにか干し肉を食べ切った。今は食料が貴重だからね。しょうがないね。
「ゴブリンは、普段から芋しか食べないのか?」
「いや。木の実、野草、草の根、狩りの獲物の肉、色々食べるぞ。
今日は時間が無かったから芋だけだ。野営地の周りは芋が植えてあるんだ」
「、俺のせいか。すまん」
「いいさ。普段も芋が多いからな」
なんか、すんません。
なんとなく、会話が途切れる。
晩飯も終わって、ゆったりした気分だ。
焚火の音だけがパチパチと響く。
いや、遠くで動物の鳴き声らしいのが聞こえるな。
俺は元の世界では都会育ちの方だが、夜の森の中にいる割には恐怖の様な感覚は無い。
不思議と落ち着いた気分だ。夜空も綺麗だし。
「お前は冒険者なのか?」
ゴブリエルが話しかけて来た。
あ、冒険者。いるんだね?
「町で冒険者に成れるようなら、なろうかと」
「そうか」
あれ?なんか渋い顔になったな?
「冒険者は評判悪いのか?」
「人族の間では、どうか知らない。だが、森を荒らす奴が多いからな。
薬草の群生を根こそぎ採りつくしたり、狩りの獲物を肉だけ取って、残りをそのまま放置したりな」
「ゴブリン族と町の人間は仲が良くないのか?」
「いや、交流はある。村の連中が、たまに町に商売に行くしな。あまり人目に付かない様にはしているが」
「へー、町に行くこともあるんだな」
「珍しい薬草なんかを頼まれているんだ。買い物は滅多にしないが」
「ん?鉄の道具とか買わないの?」
「鉄製品は岩ゴブリンから買った方が安くて質がいい。まあ。遠いから頻繁には買いに行けないがな」
岩ゴブリンとかもいるんだね?
「人族の食品や酒は味が濃すぎて口に合わないし、日用品は鉄製品も含めて村で自作しているからな。
だから、町ではあまり買う物がないんだ」
「なるほどね」
「冒険者に成るなら、森を荒らすなよ」
「ああ、わかった。、、そこでお願いがあるんだが、、」
「なんだ?」
「町で売れそうな物を教えてもらえると有難いんだけど。森を荒らさない取り方も」
「、、まあ、いいか。森を荒らされても困るからな」
ヤレヤレといった顔だが、どうにか教えて貰えそうだ。
「恩に着るよ」
「ああ。ビシビシいくぞ」
「え、いや、あんまり難しいのじゃなくていいんやで?」
「ビシビシいくぞ!」
「あ、はい」
「よし、そうと決まれば、早く寝ろ」
「あ、夜、見張りとかは?」
「お前はいいから、寝ろ」
「いや、しかし、お前だけ徹夜させるのは、、」
「俺も寝るから大丈夫だ」
「危ないじゃん!魔獣とか来たら」
「元々この辺りには危険な奴は居ない。今は気配も無いしな。それに俺は片目開けて寝るから大丈夫だ」
「えー?」
「いつもそうしてるから安心しろ」
こっそり起きてるしかねえな。
「お前はそっちの寝床だぞ」
「ああ、わかった。じゃあ、お休み」
「おう!」
ゴブリエルは、もうしばらく起きている様だ。
俺は寝床に潜り込んだ。うん、そんなに寝心地は悪くないか。ちょっと狭いけどな。
横になってから、探査魔法を使ってみる。
確かに周りに大きな反応はない様だ。
ゴブリエルの言う通り、安全って事なのかね。うーん。
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