第7話 町に行くぞ。
熊を見送った俺は、ゴブリン達の方を振り返った。
何故か、全員が呆気にとられた様な顔をしている。
今のやり取りで、驚く様な要素あったか?
こいつらは、熊の知り合いの筈だが、あまり親しくないのだろうか?
「ヌシ様が、あの様に人間に心を開くとは。お前は一体、、」
ゴブリンの長老は、うなる様にそう言った。
「トモダチだよ。トモダチ」
俺は軽く返したが、
「友達、か」
長老は、何やら真剣な顔付きだ。
「あの熊、いや、ヌシ様は何か特別な存在なのか?」
「ふむ?知らんのか?あの方は精霊獣じゃよ。
大魔王の時代から、まあ、500年前と言う事になるか、その時代からこの森を守護しておられると言い伝えられておる」
「えーと、その、、精霊獣と言うのは?」
「うむ、、それも知らぬか。人族の間では、知られておらんか。
稀に、抜きん出た強さを持つ魔獣が生まれる事があってな。それが、長い間生き残り、霊格が上がる事がある。
そうして、知性と慈悲の心を得て、守護者となった者が精霊獣じゃ」
「な、なるほど」
なんか、宗教の話ですかね?後、大魔王とか。
長老は、俺が理解出来てない様子を見て、困った様な顔をしている。
いかにも、知識豊富な長老と言った風貌だ。
この村のゴブリン達は、なんと言うか、俺の持つゴブリンのイメージとは違う。
いや、そもそもゴブリンという呼び名でいいのかも怪しいが。
そもそも、人間である俺にも友好的だしな。
理性的で知性も高そうだし、服装も簡素ではあるが、小ざっぱりしている。
体格は小柄で、顔は特に不細工でも美形でもなく、普通顔(?)だ。
髪の毛も生えている。髪型には統一感は無いが、髪色はみんな黒に近い深緑色だ。
とはいえ、耳は尖ってるし、鼻は大きな鷲鼻だ。肌も緑色だし。
ぱっと見、ゴブリンにしか見えないが、それ以外は、まるでファンタジー物に出てくる田舎の村人だ。
俺は恐る恐る聞いてみた。
「えーと、長老?あなた達の種族は何ですかね?」
「うむ?ゴブリン族を見るのは、初めてか?わしらは、森と共存して暮らす森ゴブリン族じゃ。
我らは、あまり人の住む町などには行かんから、知らぬ者が居ても仕方あるまい」
普通にゴブリンでしたー。いや、種族名が俺のいた世界と同じなのは、転移特典の「言語変換」のせいか?
「さて、お前を町に送り届けるということじゃったな。ゴブリエルよ。頼めるかのう」
「ああ、わかった。すぐに準備してくる」
長老は、近くに居た、ちょっと体格のいいゴブリンに声を掛けた。頼まれた奴は、すぐに何処かに行ってしまった。
「皆の衆、後はわしらに任せるがええ。さあ、帰った帰った」
長老が、そう声を掛けると、村の住人達は素直に帰って行った。
「今すぐに出発するのか?」
「そうじゃ。すまぬが、ヌシ様に認められた者とは言え、人間を村に入れる事は出来ん。
村の衆が不安がるでな。
それに町まで3日はかかる。今、出発すれば、夜になる前に最初の野営地に着くじゃろう。
さっき、案内を頼んだゴブリエルは、猟師でな。安心して任せるといいぞ」
流石に、村で一休みとはいかない様だ。まあ、招かれざる客だしな。しょうがないね。
俺は村の方を見回してみる。
何軒も木造小屋が並んでいる。軒数は、思ったより多い感じがするな。
俺の体の大きさと比較して、小屋サイズだから、ゴブリンならちょうどいいのか。
造りはしっかりしているが、窓にガラスは無く、凝った感じの鎧戸や格子戸がはまっている。
中世ファンタジー風かな?指輪の出てくるファンタジー映画とか。
まあ、洗濯物が干してあったり、鉢植えが並んでいたりするから、生活感アリアリですけどね。
村の周りには簡単な柵が巡らされているが、防御力は弱そうだ。こんな森の中でも、あれで大丈夫なのかね。
しばらくすると、ゴブリエル氏が戻って来た。
「長老。準備が出来た。出発するか?」
「うむ。頼んだぞ」
「よし。俺はゴブリエルだ。よろしくな」
「あ。俺は王間 大。よろしく」
「ふぁっはっは。ちなみに儂は長老のゴブゾーじゃ。気を付けて行くがええ」
「よし。では早速、町に行くぞ」
「どーも、お世話になります」
俺は二人に頭を下げた。
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