第6話 出来れば、人間の村がよかったです
しばらくすると、熊は蜂蜜を舐め終わり、満足して一息ついた。
「蜂蜜、うまかったか?」
俺が話しかけると、熊はビクッとこちらを向いた後、ちらりと空の壺の方を見て、またこちらを見た。
なんか気まずそうにしてるけど、あげたやつなんだから、ええんやで?
「この辺りに村か町はないか?」
俺は熊に聞いてみたが、熊はじっと俺の方を見ている。うーん、流石に理解できてないか?
「実は森に迷ってしまってな。人が住んで居る所を知らないか?」
熊はこちらを見て、何やら考えている様子だったが、やがて、ヤレヤレといった感じで、背中を向けた。
そして、腰を下ろして、振り向いて、「グオァ」と啼いた。啼き声初めて聞いたな。
言葉は理解している様だが、さすがにしゃべる事は出来ない様だ。
「言語変換」は適用されてないみたいだし。
「背中に乗せて連れて行ってくれるのか?」
俺が聞くと、熊はうなずいた。
本当に表情豊かな奴だな。人が入ってるんじゃないだろな?
おっ、背中の毛並みもモフモフだね?それに,なぜか獣臭いということもない。全く不思議な奴だ。
俺を背中に乗せた熊は、のそりと立ち上がると、トコトコと森の中を歩き出した。
まあ、こいつは体長3メートル以上はあるから、歩くだけでも結構速い。
移動中、俺は森の様子を観察してみたが、ぱっと見では、特に異常な植物は見当たらないようだ。
専門家が見れば、また違うのだろうが。
熊のおかげなのか、他の動物に出会うこともなく進むこと、一時間位か。
森の木の向こうに、小さな木造の小屋のようなものが何棟も固まっている場所が見えてきた。
村か何かかな?あれ?
「おい、お前も村に入る気か?」
熊は迷うことなく村?に向かって、ずんずん進む。
こんなにでかい熊が人里に現れても大丈夫なのか?
俺が心配する間に、熊は村の入り口らしき場所で止まり、「クアーオ」と一声啼いた。
いきなり村の中に乗り込まない分別はあるようだ。
なんか慣れてる様子だし、大丈夫かな?
熊の声を聞いたのか、村人らしき連中が、ぞろぞろと集まってきた。
うん。なんか、随分と小柄だね?それに顔色が緑色だし。
、、って、ゴブリンじゃねーか!
この村に住んで居るらしいゴブリン達は、熊の前に集まった。
そして、一番前にいた、お守りのような物を沢山身に付けた年寄りっぽいゴブリンが、頭を下げて言う。
「森のヌシ様、おひさしゅうございます。何用ですかな」
村の代表か、シャーマンだろうか?
熊はちょっとこちらに頭を向けて、ドヤ顔している感じだが、、、
すまん。贅沢な様だが、案内するなら、出来れば、人間の村がよかったです。
そんなやり取りをしていると、ゴブリンたちの中から声が上がった。
「長老!ヌシ様の背中に人間が居る!」
「なんじゃと?」
うーん。やっぱり、ゴブリンの言葉も理解できるんだなあ。転移特典だねえ。
いや、それどころじゃない。
俺は慌てて、熊の背中から滑り降り、熊の横に立った。
これはまずいか?ゴブリン達が、むっちゃこっち見てる。
とは言え、いきなり攻撃してくる様子は無い。警戒している。敵意は、、分からん。
ゴブリン達と俺の間に緊張感が走ったところで、熊が長老ゴブリンに向かって、グアグア言い出した。
長老の方も、うなづいたりしている。長老だけが意思疎通できるのか?他の連中は理解出来ていない様だ。
もちろん、俺も解らない。
しばらく経って、話がついたのか、長老はこちらを向いて話しかけてきた。
「人間よ。お前は森のヌシ様に認められた者のようじゃ。何やら困っておるゆえ、助けてやれと」
おお、熊よ恩に着るぜ!
もしかすると、熊はこの辺では尊敬されているのかもしれない。ヌシ様とか言われていたしな。
認められたってのは、よく分からんが、トモダチってことでいいんやな?
「ああ、森で迷ってしまって。近くの町に行くには、どっちに行けばいいのか教えてもらえると助かるんだが」
俺は、長老にそう返す。
「森に、迷ったとな?」
長老は訝し気に俺を見たが、熊が一声啼くと、追及はしてこなかった。
ナイス、熊!助かった。
「町の方向を教えてもらえれば、すぐ出て行くよ。ここに長居する気はないから安心してくれ」
俺はそう付け加えたが、長老は少し考えて口を開く。
「いや、町までは、かなり遠い。案内の者をつけよう。
一人では、また迷うであろうし、ヌシ様の縄張りの中でも、危険な魔物はおるからのう」
なるほど、熊とはここでお別れか。
「熊よ、世話になったな。ありがとうな」
俺は熊の首辺りを軽く抱きしめた。やはりモフモフです。
「グア」
熊は「いいってことよ」といった感じで一声啼いた。
「よしよし、蜂蜜をあげよう」
俺はアイテムストレージから蜂蜜壺を出してやった。
熊は、ちょっとテンション上がってきた模様だったが、ハッとすまし顔に戻った。
一応、威厳とか気にしてるんやな。
「元気でな、熊よ」
熊は、ちょいと頭を下げると、そっと壺を咥えて、トコトコと森に戻って行った。
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