第5話 熊




「熊、、だな」


 いや、待て?本当に熊なのか?

 今、熊?は4つ足で立っているが、その状態で余裕で2メートル以上の体高がある。

 もし、立ち上がったら、3メートルは軽く超えそうだ。

 ここは異世界なんだし、もしかすると魔物とかなのかもしれない。


 そんな熊が、大木の後ろから顔を半分出して、こっちの様子をうかがっている。

 隠れているつもりなのかもしれないが、当然、全く隠れられてない。

 シュールである。後、ちょっとおもしろい感じになっていた。


 とか、冷静に分析?していたが、ぶっちゃけ現実逃避だ。


 現在、俺と熊はガッツリ目が合っちゃってるんだよなあ。


 こいつは、何時からあの場所に居たんだろうか?

 俺が墜落した後、気が付いてから、アイテムストレージを漁ったりしている間、ずっと監視していたのか?

 完全に油断していた俺は、背筋が寒くなった。周りに獣の気配とか感じなかったし。


 とは言え、熊は向こうから攻撃してくる様子は無い。

 どちらかというと、警戒している?ようだ。


 さて、どうしたものか。

 考えているうちに、俺は以前ネットで見た野生動物関係の動画を思い出した。

 いきなり叫びだして追い払おうとしたり、背中を見せて駆け出して逃げようとしたりなど、相手を刺激するのは危険とか?

 死んだふりは、全く効果がないとか。

 目を合わせたまま、後ずさりして逃げるのが正解だったかな?。


 俺は、熊の動きを見逃さないように目を凝らした。

 幸い、多少の距離が開いている。

 少しでもおかしな動きをしたら渾身のファイアーボールを叩き込んでやるぜ!

 効かなかったら勘弁な!


 俺は、いつでもファイアーボールを発射出来るように集中した。

 ん?なんか熊がビクッとした?


「おいっ!お前!ビビってるのか?」

 いや、煽ってどうするよ、俺。

 と、思ったのだが。

、、

 なんか熊が、大木の影に半分隠れていた顔を出してきた。

 別にビビってないし?みたいな雰囲気出してるが、ちょっと腰が引けてませんかね?


 それに。

「お前、俺が言ってる事が分かるのか?」

 うん。またビクッとしたね?目をそらして、ごまかそうとしてもダメだぞ。


 元の世界なら、ありえないが、ここは異世界。

 言葉が通じる動物(魔物?)が居てもおかしくないのかもしれない。

 あるいは、「能力:言語変換」の影響の可能性もあるのかも?


 何にしろ、この熊は、かなり知能が高そうだ。うまく手なずければ、人里に案内してくれるかも?しれない。

 そこまで出来なくても、攻撃されないように仲良く出来ればいい。


 俺は全身に防御魔法を巡らせてから、じわじわと熊に接近した。

 熊の方は、、なんか固まってるな?俺の予想外の行動に戸惑っているのかもしれない。


「ほーら、怖くないぞー」

 俺は笑顔で、声をかけてみた。

 だが、熊はガクリと地に伏せ、あきらめた様な悲壮な顔になった。

 いや、熊の表情とか分からんけど、そんな雰囲気を出していた。

 なんでだよ!怖くないっていってるじゃんよ?


 相手を刺激しないように、じわじわと近づいたが、熊に攻撃の意思はない様に見える。

 ファイアーボールを叩き込まなくて良さそうで何よりだ。


 いよいよ、触れるほどの距離に近づいた。近くで見るとビビるほどでかい、すごい迫力だ。

 俺はちょっと悩んだが、熊にゆっくりと手を伸ばし、そっと触ってみた。

 熊はちょっと身動ぎしたが、あとはじっとしている。


 うむ。毛並みは思ったより柔らかいね?野生動物だから、もっとゴワゴワしてると思ったよ。

 モフモフと毛並みを堪能してリラックスする俺に比べ、熊の方は身を固くして緊張?しておられる。

 怒っている様ではないが、どうしたものか。


「ほーら、蜂蜜をあげよう」

 俺は、アイテムストレージから蜂蜜の入った小さい壺を出し、熊の前に置いた。

 こういう場合は、餌付けが効果あると見た!


 熊は壺の匂いを嗅いだ後、ちらりとこちらを見た。

 俺が笑顔でうなずくと、すごい勢いで蜂蜜を舐め始めた。


 うむ!餌付け成功かな。

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