第29話 おまけ

 「遼悠先輩が引退しちゃって、つまんないねー。」

「どうするぅ?部活辞めちゃうー?」

3年生が引退してしまい、2年生の花梨と綾乃は目的がなくなってしまった。遼悠と一緒にいたいという部活動の目的が。

 二人が部活に出てきていながら、ただ木陰に座って話していると、

-カキーン!

「危ない!」

近くにボールが飛んできて、

「きゃあ!」

二人の女子マネは頭を抱えて悲鳴を上げた。

「すみません、大丈夫ですか?」

1年生の神崎蒼空(かんざき そら)が顔を出した。花梨と綾乃が顔を上げると、蒼空の顔が目の前にあった。

「あ・・・うん、大丈夫。」

「君が打ったの?」

「はい、すみません。」

そして、蒼空はまたグラウンドに戻っていった。花梨と綾乃はしばらく蒼空の後ろ姿を見送った後、顔を見合わせた。

「ねえ、まだ部活に残ろうよ。」

「うん、そうだね。」

そうして、二人はその後、4番バッター神崎蒼空を追いかけ回す事になるのだった。

「蒼空くん、カッワイイー!」

二人はご機嫌である。


 「瀬那先輩がいなくなっちゃって、つまんないなー。」

芽衣が、ふっとこぼした。

「何なに?芽衣ちゃん、瀬那先輩の事が好きだったの?」

穂高がそう聞いた。

「えー、そういんじゃないけどさ。だって、瀬那先輩には特別な人がいるでしょ。」

「そうなの?」

穂高はきょとんとしている。

「えー、気づいてなかったの?瀬那先輩と遼悠先輩って、特別な関係だったでしょ?」

「は?うっそ、そうなの?いや、それはわかんないでしょ。ただ仲の良い友達だと思ってたし。」

穂高は慌てまくっている。

「そういうあんたは?どっちを狙ってたの?瀬那先輩?それとも遼悠先輩?」

芽衣は意地悪な顔で穂高を見た。

「ぼ、僕は、狙ってなんて、あるわけないでしょ。ないない。」

「そうかなー。瀬那先輩に憧れて入ったって言ってたでしょ。でも、遼悠先輩の手当する時なんて、宝物にでも触れるみたいにしてたしねえ。」

「違うよ、憧れてただけだよ。好きとか、そういうんじゃないって。」

「ふーん。そうなのかぁ。それにしても、あの二人、賭けは終わったけど、この後どうなっちゃうのかなあ。遼悠先輩が、キスは賭けでするもんじゃない、ちゃんと・・・って言ってたけど、ちゃんと何だったのかなあ。」

芽衣は、かつて3人で帰った時の二人の男の会話をちゃんと聞き取っており、理解していたのであった。

「賭けじゃなくて、ちゃんと?ちゃんと好きになってもらってから、じゃない?」

穂高は、よく分からないのにそう言った。

「そっか。ちゃんと好きになってもらってから、か。瀬那先輩、ちゃんと遼悠先輩の事、好きになったよね。」

「そうでなきゃ、僕だって諦めなかったかもしれないけど・・・。」

穂高が芽衣に聞こえないくらいの小さい声でそう言った。

「え?何?」

「ううん、何でもない。あはは。」

穂高は笑ってごまかした。穂高は、遼悠の手を取った時の感触を思い出し、その感触を封印するかのように心の奥底にしまった。

「よし、今日も頑張ろう!」

「おっしゃー!」

穂高、芽衣の順でそう言った。東尾学園野球部は、これからも続いていく。


                 完

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