第22話 離れた方がいい

 -元気か?学校休みだろ?一日ぐらい遊ぼうぜ-

幼なじみの和宏からLINEが入った。甲子園を目指していても、学校によって温度差はある。和宏は、本気で甲子園に行こうとは思っていない口だ。

-あ、でもお前は部活あるよな?-

和宏から、そう付け足しがあったので、

-もう部活に出ないから、大丈夫だよ-

僕はそう送った。

 だが、約束する前に、和宏はうちにやってきた。午前中である。

「お前、部活出ないってどういうことだ?マネージャー辞めたのか?」

和宏は慌てて来たという感じだった。

「辞めたわけでもないけど。でも、どうせもうすぐ引退だしな。」

「何か、あったのか?」

「え?いや、まあ・・・。」

僕は、和宏の直視に耐えられず目を反らした。

「話せよ。話すと楽になるぞ。」

そう言われて、当たり障りのない程度に話そうとした。

「僕のせいで、選手が怪我をしたんだよ。」

遼悠が怪我をした話をすると、

「それが、なんで瀬那のせいになるんだよ?」

当然そう聞かれる。

「だって、僕がぼーっとしてたからだし。」

「いや、それでも戸田が自主的にボールを取りに行ったんだからさ。」

「まあ、そうだけど。」

「お前が気にする事ないじゃん。それに、もし気になるんだったら、これからもあいつや、部員のために働く方が、むしろ償いになって、お前の気持ちだってすっきりするだろ。」

「いや、まあ、そうなんだけど・・・。でも僕がいるとまた同じ事が起こるかもしれないし。」

「そんなことないだろ。いや、しかしわかんねーな。どうして瀬那が部活を休む事になるんだ?」

堂々巡りになりそうだった。大事な事を話さずに、上手く説明できそうもない。はぐらかそうとしても、和宏はなかなか諦めてくれなかった。それで、結局僕は全てを話したのだった。遼悠が僕をかばうのは、ただの友情ではないからで、僕が野球部にいたら邪魔になるのだという事を。

「やっぱりそうか。お前ら、付き合ってたんだ。」

やっと合点がいったという風に、和宏が言った。

「やっぱりって?もしかして気づいてたの?」

「だってさ、この間会った時、完全に怪しかったもんな。」

あー、そうだった。キスしたところを見られたんだった。傘で顔は隠されていても、やっぱり怪しかったかぁ。

 僕が赤面していると、和宏は咳払いをした。

「まあ、それはさておきだ。これからどうするんだ?本当にこのまま野球部放っておいていいのか?」

「だって、僕がいたら、遼悠がまた無茶するし。それに、僕がいてもいなくても、野球部には何も関係ないよ。他にもマネージャーいるし。」

「そうかねえ。」

 僕らは、その話はそこで切り上げ、一緒に昼飯を買いに行く事にした。お互い家に家族はおらず、昼飯は用意されていなかった。二人でコンビニに向かって歩いていると、制服の高校生が足早に近づいてきた。坊主頭。あっ、僕は目を疑った。それは、戸田遼悠、その人だったのだ。

「りょ、遼悠?どうしてここにいるの?」

僕が声を掛けると、

「こっちが聞きたいね。お前は、どうしてここにいるんだ?なぜ部活に出てこないんだよ?俺のLINEにも返事しないし。」

完全に怒っている。そりゃそうだ。付き合っているはずなのに、LINEを無視し、勝手に部活を休んでいるのだから。

「ごめん。」

僕はそう言うしかなかった。

「まあ、こいつもいろいろ考えての事だし。」

和宏がそう言って僕を援護すると、遼悠はキッと和宏をにらんだ。

「あ、すんません。」

和宏は、それで黙ってしまった。

「とにかく、来い!」

遼悠は怪我していない方、左手で僕の腕をつかんだ。

「やだ、行かない!」

僕は和宏の後ろに隠れ、和宏の胴に片手でしがみついた。

「こら、俺の言うことを聞け!」

「やだよ!もう賭けは終わりなんだから!僕はもう、お前のモノじゃないんだから!」

僕が必死にそう叫ぶと、遼悠はパッと手を離した。

「そう、か。そうだな。もう賭けは終わりだな。」

遼悠はそう言うと、また元来た方へ帰って行った。僕は胸が苦しかった。遼悠には悪いと思っている。けれども、この方がいいんだ。僕は野球部からも、遼悠からも離れた方がいいんだ。

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